読むべき本、見逃していない?

誰かが不幸になる「人事」はもうやめよう

  • 書名 『HRプロファイリング 本当の適性を見極める「人事の科学」』
  • 監修・編集・著者名須古勝志、田路和也
  • 出版社名日本経済新聞出版

期待されて入社してきた新人がすぐに辞めてしまったり、次世代幹部候補が年々減少していたり、クビにならない程度に力を抜いてぶら下がる社員が増加していたりと、どんな会社でも多かれ少なかれ「人」の悩みを抱えている。

「なぜウチの人事は、優秀な人財を採用して現場に回せないのか」
こんなことを考えている経営者こそ、胸に手を当てて考えてみていただきたい。人は、経験と勘だけで、人財の自社組織における活躍可能性を見極められるのか。

『HRプロファイリング 本当の適性を見極める「人事の科学」』(日本経済新聞出版刊)は人財の採用から配置・抜擢、育成に関わる問題に鋭く切り込み、これまで経営者や人事担当者の経験と勘が頼りだった人事に科学の光を当てる。

今回はこの本の著者である須古勝志さんと田路和也さんにお話をうかがい、日本企業の人事の現状と問題点についてお話をうかがった。

■人事のプロが語る「人事の真の問題点」

――須古さんと田路さんが、今回共著で本を書くことになったのはどのような経緯だったのでしょうか?

田路:私は、新卒で、当時、人材派遣最大手だったパソナに入社後、アセスメント(S P I)、社員教育、人事コンサルティングという3つのH R領域で最大手のリクルートマネジメントソリューションズで10年近くソリューション・プランナーとして、人事部門のコンサルティングを行ってきました。

つまり、私の営業人生におけるお客様は、ずっとH R領域の方だったんです。大手企業の採用にも多く関わりましたが、大手の場合、応募者が多いために「ストレス耐性や意欲などの画一的な尺度による過度なネガティブチェック」 や「必要以上に高いレベルによる能力検査でのスクリーニング」を行わざるを得ない状況があったんです。そもそもSPIは、科学的根拠のない性別や学歴による採用選考を否定し、個人差を重視した採用選考を実現するために開発された素晴らしいアセスメントなのに、現場では一般的な指標による過度なネガティブチェックにしか使われていないという現実に葛藤を感じていたんです。

それから2007年に、営業部門の時間生産性向上に特化した営業コンサルティング会社を立ち上げたのですが、人財育成にしても営業研修にしても、やはり同様に、科学的な根拠に基づいて実施していかないと、本当の価値を提供できないと悩んでいたのです。

そんな時に、パソナ時代の上司が、「未来検査研究所」を設立して次世代の特性アセスメントを研究・開発している社長がいると言って、須古さんを紹介してくれたんです。お会いしてみたら、私がリクルート時代に感じていた葛藤を解決しようとしている方だった。これは凄いということで、須古さんが開発されていた「マルコポーロ」というアセスメントツールのアドバイザーの一員として関わらせていただくことにし、私の営業研修にも積極的に組み込んでいくことにしたんです。

須古:私は私で、人事の分野では学者が提唱する理論が安易に崇拝され、自社にとっても有効であるのか、自社にとってどのような効果と限界があるのかを検証するといった「科学的視点」を持とうとされない人事の方が多いことに懸念を抱いていました。

もちろん、理論は大事ですし、押さえないといけないのですが、学術理論を安易に受け入れるだけの姿勢では、どうしても現場での実践との間に狭間が生まれてしまうんです。「何故かうまくいかない???」と。

それから数年後、学術一辺倒でなくて、私が人事の現場で得てきた「狭間の実践知」をもっと世に出して役立てるべきだと田路さんが言ってくださって、それが今回一緒に本を書いたきっかけです。

――理論と現場の間に狭間があるというのはどんな分野でも言われますが、人事でもやはりそうなんですね。

須古:これは理論の受け手側に問題があると思います。たとえばハーズバーグの2要因論というのがあるんですけど、これは人間が満足を生む要因として「動機付け要因」があり、それと「衛生要因」とを整理したものなんです。

「動機付け要因」には、達成感、他者からの評価、仕事内容への満足感などがあり、「衛生要因」には、企業の方針や職場環境、給与や地位、雇用の保証などがあるとされます。

そして、「動機付け要因」が満たされると満足が生まれ、満たされないと不満足が生まれる。一方、「衛生要因」は満たされても満足は生まれませんが、満たされないと不満足が生まれるとする、満足と不満足に関する理論です。

一見、全ての企業の全ての職務に当てはまる理論のように感じますが、これは1959年に米国で、エンジニアと経理担当者200名をサンプルとして行われた研究(ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー、2003)なのです。現代の知識基盤社会の中で、これがどれほど自社に当てはまるのかとても疑問です。自社の様々な職務におけるハイパフォーマーに当てはまるかどうか、じっくりと考えていただくと見えてくると思います。このように、理論と現場の間には狭間があるんです。

――本書の冒頭で、須古さんが「誰かが不幸になる採用はもうやめよう」と書かれていました。こういう人事が生まれる背景として何があるのでしょうか?

田路:一つは経営者側の意識の問題で、人事を「利益をもたらさないコストセンター」として捉えている経営者が多いということです。戦略人事こそ優秀な人財を配属するっていう発想がないどころか、営業で通用しなかった人をとりあえず人事に異動させるとか、メンタル不調を起こして休職していた人をひとまず配属させるといったことをされているケースもあるんです。

更に、数年で容易に別の部署に異動させたりするので、せっかく蓄積されてきた経験知が誰にも受け継がれずリセットされたり、また業者の選定からリセットされることも多々あるんです。企業によっては社内政治的なものが絡んで、前任者と後任者の折り合いが悪ければ、前の人がやっていた施策は全て白紙撤回されたりもします。

こういう背景があって、人事が科学的とはとても言えない方向に行ってしまいやすいという事情もあるんです。

――本来、人事部門は経営戦略に直結する部署のはずですが、そう捉えていなかったり、実践が伴っていない企業が多い、ということですね。

田路:大企業の場合、新卒一括採用の弊害もあって、どうしても一人ひとりの内面の本質的なところまでは見られないんですよね。大手企業の新卒採用では、大半が採用検査を実施しているのですが、性格特性の方はあまり重視されていなくて、主に使われているのは能力検査の方なんです。

要は言語とか非言語とかの能力が高いと点数が高くなって、入社試験に受かりやすくなるということです。でもこれでは、本人の内面もわからないし、その会社での適性もわからないですよね。そのあたりのことを企業側が突き詰めて考えていないのが、今の実情だと言えると思います。

須古:田路さんがおっしゃる通りで、新卒採用の場合、そのまま勤めれば生涯賃金は2億円とも3億円ともいわれる、ある意味「高額な人財」を見極める非常に重要な局面なんですけど、なぜか採用を重視しておられない企業が多いんです。企業が費用と労力をかけて採用時に見極めるべきは、一般的優秀人財がどうかではなくて、自社にとっての優秀人財かどうかです。これを高精度に見極められる科学を用いるべきなのですが、それを用いず、不適合人財を多く抱えて後で苦しむという現象があまりに多すぎます。

経営者も採用は大事だと、心では思っておられるんでしょうけど、応募者個々の将来の自社における活躍可能性なんて、結局のところわかりっこないと思っているのかもしれませんね。

でも今、科学は進化しているんです。20分ほどの特性アセスメントで、この本で「ヒューマン・コア」と呼んでいる、人の本性とも言える性格特性や動機を測定して、そこから自社における活躍可能性を高い精度で判定できるようになっているんです。そのことをこの本を通じてぜひ知っていただきたいです。

――企業内で、人事を経験と勘に頼らず科学的に行う取り組みが推進されにくい背景には、人事という仕事をプロフェッショナルが担うべき仕事だと認識できていない経営者の存在があるとされています。なぜ経営者たちはこういう思考になってしまうのでしょうか。

須古:一つは、今お話ししたように、高精度のアセスメントが開発され多くの実績が出ているということをご存じないのだと思います。従来型の特性アセスメントでは確かに高スコア者が入社後活躍しないというジレンマをお持ちの企業さんが多いんです。この原因も本書には書かせていただきました。

検査の精度が星占いレベルであれば使えませんので、当然、特に創業社長さんに多いのですが、「人を見るのはワシの目や」って。私はそういう社長さんが大好きですし、私もそうだったんですけどね(笑)。

でも、面白いんですけど、その社長が望む通りの人財要件モデルを設計して、その方を科学的に見極めて採用します。しかしその後、「ナマイキだ」って言ってその方を解雇しているのがその社長さんであるケースはメチャクチャ多いんです。自分ならこう行動するという観点を、採用する人財要件にしたい気持ちは解るのですが、若手活躍人財の要件、幹部として活躍できる人財要件、次世代経営陣として活躍できる人財要件を科学的に検証して設計すべきです。昭和の突破型創業社長が、自分と似たような人を採用したら、ハレーションが起こる可能性が高いということです。

あと、今はダイバーシティの時代ですし変化が速い。つまり、右肩上がりの経済成長のなか、一定の正解を追い求めて、画一的に、一部の頭脳明晰な人に従って大多数の兵隊が指示通りに動けばよい時代は、完全に終わったんです。答えのないものを、画一的な基準なしで、多様な人たちが手に手を取り合って、ハイスピードに、問題の発見と解決をしていかなければ市場競争に勝てない時代なんです。

自分と異なる勝ちパターンを有する人財を、「自分とは違う人」と線引きするのではなく、自分にはできないことを簡単にやってのける人がいるということを、経営者は知らなければなりません。自分と違う人を活かせば自分が凄く楽ができるんですよ。

――「ヒューマン・コア」と「マインド」のお話が興味深かったです。人の行動における両者の関係について、詳しくお聞きできればと思います。

須古:まず人には内面と外面がありますよね。外面は他人から見えるもので、行動とか知識とかスキルとかです。内面は、他人から見えないもので、性格特性と動機、そして意識・意欲心構えなどのマインドです。本書では、この性格特性と動機を特に「ヒューマン・コア」と呼び、行動の根源的な土台であるとしています。

「ヒューマン・コア」は若年期に形成され、一生涯を通して容易には変容しません。言い換えるならその人の「本性」と言えるものです。もちろん人の本性に優劣はなくて、すべて尊重されるべきものですが、ただ、企業の求める人財要件に対する適合性は確認しなければならないんです。

――これに対して「マインド」はどのようなものなのでしょうか。

須古:たとえば「ヒューマン・コア」がせっかちだという人がいたとして、そういう人だから仕事で「うっかりミス」が多いと。こうしたミスを減らすために本人が考えて、上長に確認してもらう回数を増やしたり、落ち着いて行動しようと心がける。つまり、心がけによって行動をコントロールしようとするわけです。この心がけの部分が「マインド」です。

「ヒューマン・コア」が変わりにくいのに対して、「マインド」は心構えや心がけですから、変わりやすい。言い換えるなら、継続しにくいんです。

では、どういうことが起きるかというと、その人の本性である「ヒューマン・コア」と、職場で求められる行動との間にギャップがあればあるほど、「マインド」で埋めないといけない部分が大きくなりますから、本人は無理をすることになる。だから、「もう続けられない」ということで辞めてしまったりします。つまり、企業が見るべきは人の「マインド」ではなく「ヒューマン・コア」の方なんです。

――「ヒューマン・コア」のところで自社が求めている人財像との適合性があれば、こうしたミスマッチは起こりにくくなるわけですね。

須古:そうです。もちろん100%適合する人はいませんし、どんな人も得意なこと苦手なことがあります。個にフォーカスして、それぞれが持っている「ヒューマン・コア」を尊重し、相補的に生かすのがダイバーシティ時代の勝ち方なんです。

――人の内面を「ヒューマン・コア」と「マインド」に分ける考え方はすごく納得できます。内面のことって、結構「マインド」の一言で括られてしまったりするので。

田路:よく「モチベーションを高めれば行動を変えられる」と言われますよね。私はそれにすごく違和感を持っていたのですが、須古さんが整理して下さった考え方はとても共感できました。

ただ、皆さんには「人間の本質、つまりヒューマン・コアは絶対に変わらないもの」と固定的に考えていただきたくはなくて、マインドセットを変えることによって行動を変えることができる。そしてその行動が習慣化すれば、実は緩やかにヒューマン・コアにも影響してくるんです。つまり、習慣化によってヒューマン・コアは、なりたい自分に向かって変えることができるものでもあるんです。須古さんが「ヒューマン・コアを見抜くプロ」だとしたら、僕は「なりたい自分になっていただくプロ」なんです。

須古:この本の中で「ヒューマン・コア」と「マインド」の関係を書いた背景には、「コンピテンシー」の課題が顕在化されてきたということもあるんです。コンピテンシーは本来「頭の良さよりも行動の方が、さらに表層的な行動よりも行動の根源的な土台であるヒューマン・コアの方が、より業績との間の相関・因果関係が高かった」という概念だと整理できるのですが、時代と共に、学者によって様々な考え方が示され、コンピテンシーの定義がグチャグチャになってしまったんです。ある学者はコンピテンシーとは行動傾向(発揮される行動自体の癖)のことであると定義し、ある学者は行動の構成概念である性格特性や動機から行動傾向までを全て含むと定義し(この場合、行動特性と言われることが多い)、ある学者は個人の特性であると定義し、といった具合です。この混乱は、コンサルティングによっても言うことが違うということになり、人事の現場にも混乱を招いてしまいました。

今、コンピテンシーの概念そのものが揺らいでいると言える訳で、新たに整理すべき段階に来ていると感じています。コンピテンシーではあやふやな領域であった内面、特にその深層部のヒューマン・コアにフォーカスし、もう一度整理してみる必要があると考えているんです。

(新刊JP編集部)

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