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何も知らないまま社会に放り出され...プロ野球選手の引退後にひそむ地獄

  • 書名 『プロ野球 里崎白書 Satozaki Channel Archive』
  • 監修・編集・著者名里崎智也
  • 出版社名扶桑社

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、開幕が延期されていたプロ野球だったが、6月19日、ついに2020年のシーズンが開幕。当初の予定より少ない120試合のペナントレースが始まった。

「おあずけ」を食ったぶん、今シーズンを誰よりも楽しんでやろうというのがファン心理というもの。そのために、「プロ」ならではの野球の見方や野球界のウラ話を知っておくのは一興だろう。

現役時代に千葉ロッテマリーンズで活躍し、第1回WBCでは正捕手として世界一を経験した里崎智也氏による『プロ野球 里崎白書 Satozaki Channel Archive』(扶桑社刊)は、プロ野球に関する「知らなかった!」「そうだったの!?」が満載の一冊だ。

この本は里崎氏のYouTubeチャンネル「里崎チャンネル」の内容に追記を加えて書籍化したもの。「セ・リーグがパ・リーグに勝てなくなった本当の理由」から「契約交渉のウラ技」まで、ファンでも知らないプロ野球の真実が、歯に衣を着せぬ「里崎節」全開で明らかにされている。

今回はそんな里崎氏にインタビュー。プロ野球にまつわる様々な疑問をぶつけてみた。その後編をお届けする。

■野球しか知らない人間が野に放たれる...プロ野球選手のセカンドキャリアにひそむ地獄

**――FA移籍会見で涙を流す選手について違和感があると書かれていましたが、私も同感です。これは同僚の立場からはどう見えるんですか? **

里崎:現役時代も「アホやな」と思っていましたけど、引退した今でも意味がわからないです(笑)。トレードで放出されるなら、自分の意志で移籍するわけじゃないので、泣くのもわかるんですけど、FAって自分で決めて出ていくんですよ。泣くなら移籍しなきゃいいじゃんっていう。

サラリーマンでいえば、ヘッドハンティングで他の会社に転職するといって、送別会で泣くようなものですからね。意味わからないでしょう。晴れ晴れとした顔をしてないとおかしいじゃないですか。

――年俸交渉についての部分も面白かったです。そういえば、最近は年俸交渉で球団とモメる選手は減った気がしますね。

里崎:それは下交渉をするようになったからですね。昔は契約交渉の日しか球団と年俸交渉をする機会がなかったので、折り合わないと保留したりといったことがあったのですが、今は球団にとって大事な選手とは何度も下交渉をして、話がまとまったら正式な契約交渉をします。その時点で球団も選手も納得している状態なので、あとは判子を押すだけなんです。

――今は代理人を間に入れる選手が増えて、契約更改も変わってきました。

里崎:僕に言わせれば、代理人制度はムダです(笑)。メジャーリーグなら、遠征での滞在先のホテルのグレードから家族の移動費まで契約条項に含まれるので、代理人が必要なのかもしれませんが、日本の野球選手って年俸の交渉をするだけですからね。

自分の給料を決めるだけなのに、最初から代理人を雇ってマージンを払う意味が僕にはよくわかりません。まず自分で交渉して、何度も交渉しても折り合わなかったらそこから代理人を入れるというならまだわかります。それで、1000万でも2000万でも上がったら、そこからマージンを払えばいい。でも、最初から代理人を入れるのはムダです。

――交渉事が面倒くさいんでしょうか?

里崎:面倒くさいというよりも、自分のことを自分でしゃべれないんです。そういう選手は他人にいいように使われてしまいますから、引退してから困ります。たかだかお金の交渉なんだから、自分でやるべきですよ。

――里崎さんはかなり考えていて、年俸交渉も自分なりのやり方をお持ちです。ただ、そこまで考えてできる選手はほとんどいないのではないかと思います。

里崎:自分が例外だとは思いませんが、だからみんな引退して困るんですよ。野球しかしてこなかったから、それ以外のことが何もわからない。

スポーツマンと言えば聞こえはいいですが、裏を返せばスポーツしかやってこなかったということでもあります。そこから自分なりに勉強していけるかが分かれ道なんです。

プロ野球選手って、人生で自分から人にお願いしたことがない人が多いんですよ。「ウチの高校に来てください」とか「ウチの用具を使ってください」とか、いつも誰かにお願いされて、選択肢を提示されて、そこから一番いいものを選ぶだけで生きてきている。

でも、引退すると人からお願いされることはなくなって、仕事をもらうのでもなんでもお願いしないといけなくなります。そうなった時に、お願いなんてしたことがないからやり方がわからないんですよ。

今までは動物園の動物と同じで、球団に囲われてエサをもらって重宝されてきたものが、いきなり野に放たれるわけですから、獲物の取り方も身の守り方もわからない。それはきついですよね。

――現役の時からある程度、引退した後の準備をしておくべきなのでしょうね。

里崎:本当にそうです。年俸交渉の話をしましたが、最低でも自分のことは自分でできるようにしておかないと。引退したら誰もやってくれないんですから。

――プロ野球選手のセカンドキャリアについてなのですが、飲食関連の仕事につく人が多いのはなぜですか?

里崎:それは簡単な話です。30歳前後でクビになって、どこかの会社で働くといっても、雇ってくれる会社なんてそうそうないですよ。僕が社長でも、野球しかしたことがない30歳のおっさんを採るなら、新卒を採りますから(笑)。

運よくどこかの会社に就職できたとしても、これまでは野球っていう好きなことをやってお金をもらってきたのが、右も左もわからない環境で好きでもないことをやらないといけなくなる。それでいて給料は野球選手時代よりもずっと少ない。ほとんどの人はそれに耐えられなくて続かないんです。

――それで飲食関連に進んでいく、と。

里崎:成功するかどうかは別として、スタートとしては楽ですからね。誰かタニマチがいたら「こういう店、いいんじゃない」って言われてやってみるとか。でも、そんなのうまくいくわけがないじゃないですか。

ロッテのOBでも飲食店をやっている人はたくさんいますけど、10年以上続いているのは僕が知る限り一人だけです。いつも言っているんですけど、「俺はラーメンが大好きだから、こだわりにこだわったラーメンで自分の理想の店を作りたい」くらいの気持ちがあるなら成功する可能性があると思います。それか、ずっとお店にいて「元プロ野球選手に会える店」として「顔」で商売するとかね。でも、単にメシのタネとしてやってうまくいくほど世の中甘くないですよ。

――里崎さんは現役時代から引退後のことを考えていましたか?

里崎:いや、どうなるかわからなかったです。プロ野球という名の「動物園」にぬくぬくと住ませてもらっていた身でした(笑)。

ただ、どうなるかわからないということはわかっていたので、死ぬまで困らないくらいの貯蓄はしていました。それがあるから今何でもできるんです。

――お金があって気持ちに余裕があると、いろんなことにチャレンジできるというのはよくわかります。YouTubeの「里崎チャンネル」もまさしくそうですよね。

里崎:そうですね。誰に嫌われてもいいし、最悪仕事がなくなっても生きていけるっていうのが、今の自分の軸になっているところはあります。僕の仕事なんていつなくなるかわからないですからね。

その意味では今はYouTubeっていういい武器を手に入れたなと思っています。野球解説にしても何にしても、僕らの仕事って基本的に「受け身」で、仕事が来るのを待つしかない。でも、YouTubeで情報を発信するのは「攻め」じゃないですか。持っている情報を勝手に発信できて、あとは世の中に受け入れられるかどうか、というところなので。

――里崎さんの考える2020年のプロ野球の見どころを教えていただければと思います。

里崎:開幕が延期された関係で、日程がどうなるかまだ不透明ですから、なかなかはっきりとしたことが言えないのですが(※インタビューが行われたのは3月11日)、本来の予定では試合がなかった五輪期間中に試合を入れて日程を消化するかどうかによってシーズンの結果が変わると思います。

本来の予定通り、五輪期間中に試合を入れないのであれば、選手層が薄いチームでも投手を中4日で回しながらスパートをかけて、五輪で中休みして、後半にもう一回スパートをかけるという、ハーフマラソンを二回走るような感じで戦えるんですけど、開幕の遅れを五輪中に取り戻すみたいな日程になると、それはできませんからね。

――予定通り143試合やるとなると、開幕が遅れた日程をどこで取り返すかという話になりますよね。

里崎:クライマックスシリーズをなくしたらどうかという議論もあるようですが、スポンサーがいますからお金の問題があります。一番スムーズなのは今言ったように五輪中に試合をすることだと思います。五輪の野球競技がやっている時だけ空けるというふうにすれば、代表選手を多く出すチームが損をするということもないですし。

いい機会ですから、関東近郊ではなく普段試合をしない静岡とか新潟、四国などに行ってやるのもいいと思いますね。

――最後になりますが、読者の方々にメッセージをお願いいたします。

里崎:固定観念にしばられた頭を柔らかくするためにも、ぜひ読んでいただきたいです。

この本では、みんなが話さないプロ野球の本当のことについて書いたつもりです。僕の考えは自分とは違うものかもしれませんが、こういう考え方もあるんだということで受け入れて、自分の考えと合わせて新しいアイデアを見つけ出していただきたいですね。

(新刊JP編集部)

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