有事の際に国民と国土を守るのが自衛隊。
ただ、普通に暮らしていると自衛隊員と接する機会は少ないため、彼ら・彼女らがどんな生活をしているのかは、あまり見えてこない。
「生活」とは、普段の暮らしぶりや給料、休日など。
たとえば自衛隊が隊員を募集する時に使われる「自衛隊は衣食住がタダだからお金が貯まる」という誘い文句があるが、これは本当なのだろうか?
結論から言うと、これは本当ではない。
「自衛隊員」という仕事の「リアル」がわかる『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(小笠原理恵著、扶桑社刊)では、1970年の第64回国会の記録から、自衛隊員の給料の仕組みを解説している。
この記録を要約すると、自衛官の給料は「公安(二)職の俸給に超過勤務相当額を加算、地域手当を加算」したものから「食費、医療費、営舎経費を減額」する前提で作られている、とのこと。つまり、自衛官の衣食住は「タダ」ではなく、「給料から天引きされている」というのが正確なところなのだ。それもあって、自衛隊員の給料は、他の国家公務員の公安職などと比べて安い。公務員全般に対して給与削減を求める声が強まるなか、自衛隊員の待遇面が今後改善される見通しは残念ながら明るいとはいえないだろう。
また、「衣食住はタダ」と同様に、自衛隊への誘い文句にはかつて「ボーナスが3回ある」「退職は早いが、その分恩給がある」「資格をたくさん取らせてもらい、任期制自衛官の任期満了退職時には多くの資格を持っている」などがあったが、いずれも今は廃止されているか、一部を除いて「自腹」になっているという。
自衛官の仕事は給料ベースではほとんど魅力がないと言えるのではないでしょうか。(P29より引用)
と指摘されているように、待遇面での報われなさも一因となっているのだろう。自衛隊員の数は近年どんどん減っているという。また、日本が不況だった時代は、安定した給料がもらえる公務員というメリットがあったため、自衛隊には高学歴の応募者が集まってきていたが、今は比較的好況で、賃金も上昇傾向が続いている。ますます、若者の足が自衛隊から遠のくことになる。
自衛隊員の現象は特に海上自衛隊で著しく、定年や満期、中途含めて年間2000人ほどが自衛隊を去るのに対して、採用できているのは1700人ほど。増える自然災害や海外派遣など、負担は増える一方、人手不足に歯止めがかからない状況なのだ。
◇
自衛隊を巡る厳しい現状(特に予算面)に加えて、現場で浮かび上がっている問題点や、自衛隊の仕事をやりにくくしている法律の縛りなど、本書では自衛隊や隊員を取り巻く環境について深く掘り下げて解説していく。
人手不足に加えて、待遇面の不遇。私たち民間企業でもありがちな問題とは、自衛隊も無縁ではないようだ。普段知ることのない自衛隊の内側が垣間見えておもしろいが、タイトルのある「トイレットペーパー」くらいはせめて予算で用意してあげていただきたいところだ。
(新刊JP編集部/山田洋介)
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