「地面師」と呼ばれる人々のことをご存知だろうか。
2017年に大手住宅メーカーの積水ハウスが55億円を騙し取られる「積水ハウス事件」が世間を賑わした。現在もこの事件の裁判がニュースになるが、その犯人とされているのが「地面師」である。
地面師とは、土地の所有者の知らないところで、勝手にその土地の所有者になりすまし、登記などの書類を偽造し、架空の土地売買を企業などに持ちかけて転売し、莫大な金を騙し取る詐欺師のこと。
土地の所有者になりすますなんてことが本当に可能なのか。まして相手は不動産のプロである。にわかには信じがたいが、その手口とはいったいどんなものなのか。
地面師と実際に取引をした人、不動産関係者や司法書士などへの綿密な取材を土台に、地面師の組織的犯罪をリアルに描いたのが、『地面師たち』 (新庄耕著、集英社刊)だ。
著者の新庄氏は、2012年に不動産業界のブラック企業の模様を書いた『狭小住宅』で第36回すばる文学賞を受賞してデビュー。マルチ商法を題材にした『ニューカルマ』など、社会の闇に注目した作品を執筆している。
物語の主人公は、地面師の辻本拓海。詐欺に遭い、会社も家族も失い、デリヘルのドライバーの仕事をしているときに、詐欺グループの首謀者であり、大物地面師のハリソン山中と出会い、地面師となる。
詐欺グループのメンバーには役割があり、元司法書士の後藤、土地の情報を集める図面師の竹下、なりすまし役を用意する手配師の麗子たちが、土地所有者の免許証といった偽造書類などの必要なものをそれぞれ準備する。
拓海たちが狙うのは、市場評価額が100億円の物件。なりすまし役を選ぶにも、綿密な準備をする。お金に困っていそうな人たちに声をかけ、容姿や年齢、演技力、記憶力を見極めていく。この土地の所有者が尼僧なので、容姿を似せるために坊主にできることを条件として、なりすまし役を選んでいくのだ。
架空の土地の取引をする際に、所有者の本人確認をされるため、手配師の麗子はなりすまし役に所有者の個人情報を暗記させるなど、しっかりと準備をして騙す相手との取引の場に臨む。
ここまで用意周到にされたら騙されてしまうのかもしれない、という地面師の手口だが、ここまでを読んでも「そんな簡単に騙せるわけない」と思う人こそ、この作品にハマる。
物語を通して、地面師たちの騙すテクニックを見せられると、なぜ不動産のプロが騙されてしまうのかもわかるはずだ。
(T.N/新刊JP編集部)
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