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「遺言を書けば安心」はまちがい もめる相続はここが悪い!

  • 書名 『ホントは怖い 相続の話』
  • 監修・編集・著者名木下勇人
  • 出版社名ぱる出版

人の子である限り誰でも避けられないのが親の死であり、その先にある相続だ。

遺産相続というと、多くの人の頭に浮かぶのは「相続税」であり、それだけに「うちは資産らしい資産はないから相続対策はしなくていい」と考えがちだが、これは間違い。まして、「うちは家族の仲がいいから相続で争うことはない」という考えも禁物だ。

誰もがいつかは直面する相続にどんな備えをして、どう乗り切ればいいのか。また「もめる相続」と「もめない相続」の違いはどこにあるのか?

『ホントは怖い 相続の話』(ぱる出版刊)の著者で相続専門税理士の木下勇人さんにさまざまな相続のエピソードと心得を語っていただいた。

■相続の専門家が語る「もめる相続」と「もめない相続」の違い

――「相続はお金持ちのもの。自分には関係ない」と思われていたりもしますが、これは間違いだとされていますね。

木下:節税の話ともめないためにどうするかという話は分けないといけません。相続税がかかるほどの資産がなければ、節税としての相続対策は不要ですが、もめないための相続対策ということであれば、どんな家でも無関係ではないんです。

じゃあどんな場合にもめるかというと、これは「分け方」の問題です。法定相続人が3人の場合、相続税の基礎控除額は4,800万円なので、お父さんがすでに亡くなっていて、お母さんの資産がたとえば4,000万円だった場合、相続税の心配はいりません。ただ分け方でもめるケースがあります。

4,000万円の資産の内訳が「預貯金1,000万円+3,000万円の家」で、しかも3兄弟の長男夫婦がその家に同居していたりするとトラブルになりやすい。だって、同居していた人はその家をもらうしかないじゃないですか。

――なるほど。

木下:長男が「預貯金の1,000万円を残りの2人で500万円ずつ分けてくれ」といったところで、その2人は納得できないでしょう。「兄ちゃん、もらいすぎだからお金を少しくれ」となる。で、長男は「そんなお金ないよ」と。

――弟たちは「それなら家を売ってお金を作ればいいのでは」となります。

木下:そうです。でもそれは、長男からしたら「何言ってんだ」でしょう。これは額が一桁下がって何百万円の話でも同じです。普通の人にとって、100万円単位のお金が無税で入るというのは大きなことじゃないですか。相続でもめるかもめないかは分け方の問題というのはそういう意味なんです。

――財産が預貯金だけとは限りませんからね。

木下:お金だけなんてありえないですよ。ほとんどの場合は不動産があったり、生命保険があったりします。

亡くなった親が死亡時に3,000万円入る生命保険に加入していて、保険金の受取人指定が長男になっていたとしたら、法的にはその保険金は長男のものです。兄弟と分ける必要はない。

それに加えて預貯金が3,000万円あったら、相続ではそれを3兄弟で分けます。これが「俺は保険金が3,000万円入ったから、預貯金の方は1,500万円ずつ分けな」とは、実際なかなかならないんです。長男ががめつい人だと保険金の方は置いておいて「3人で1,000万円ずつね」と平気で言ったりする。

「自分はそんなことは言わない」と今は思うかもしれませんが、その場になったら結構こういうことを言うんですよ。だって、相続の時にたまたまリストラされて仕事がなかったり、何らかの理由でお金が必要だったりすることもあるわけじゃないですか。なんだかんだ一度にまとまったお金が入るのって退職金と相続くらいですからね。

――相続では財産目録を作ったり、相続税の申告をしたりと税理士のお世話になることが多いと思いますが、信頼できる税理士の見分け方はありますか?

木下:一年に相続税の申告を何件やっているか聞いてみるのがいいと思います。年間の申告件数を税理士登録者数で割るとだいたい1.8くらいになるので、単純計算で平均すると、税理士って年に2件相続をやるかやらないかなんです。

それを考えると年間に10件くらいやっている税理士だったらまあ慣れている人なのかなという感じですね。でも、こういう数字は誇張できてしまうものなのですが。

また、相談した時に節税の話ばかりする人はやめた方がいいです。相続で何を大事にするかは人によって違うはずなので、その価値観に寄り添える税理士の方がいいでしょうね。

――先ほどお話に出た「遺言」についてもお聞きしたいです。遺言は書くべきだが、書けばすべて丸く収まるわけでもないと。

木下:そうです。さっきのお話のように「遺留分をよこせ」と言われることは多々あります。

そこには遺言を残す側の心情が絡んでくることが多いんです。勘当した息子がいて「あいつには分けなくていい」と遺言に書いたとしても、息子の方が「俺にももらう権利がある」といって遺留分を求めてきたり。

あとは、地主の家などは不動産を継いでいかせないといけませんから、相続の時に長男に偏らせることが多いのですが、やはり弟や妹が不満に思うケースが多いですね。いきなり長男の家に内容証明を送りつけてきたり、なかなか物々しいですよ(笑)。

――となると、財産を残す側は遺言に加えてどんな準備をしておけばいいのでしょうか。

木下:今のお話を踏まえると、遺留分だけは用意しておかないとまずいですよね。分け方が不公平だと誰かが言ってくる前提で、その人が最低限もらえる分のお金は用意しておくという。

それをやっていないと、たとえば1億円の自宅を相続した兄が、預貯金の2,000万円を相続した弟から不公平だと言われて、遺留分を払うために家を売らないといけなくなったりするんです。

あとは、遺言の付言事項を利用するという方法もあります。遺言には付言事項といって最後にメッセージを書けるんです。そこに「兄弟仲良くね」とか「こういう思いで遺言を書きました」というメッセージを残しておくのもいい方法です。人間って最後は感情論ですから。

――遺言の内容が生前に聞かされていた話とちがったり、知らなかった事実が遺言で明かされていたりするとトラブルになりやすいように思います。遺言は書いたら生きているうちに相続人に見せた方がいいのでしょうか?

木下:本当は見せた方がいいとは思います。ただ、親の気持ちとしては遺言を見せて財産を明かしてしまうと、子どもたちに当てにされるというのがあって、あまり見せたがらない方が多いですね。

――遺言を見て、自分の相続分が1億円あると知った息子が、ある日突然仕事を辞めてしまったり......。

木下:そういう感じです(笑)。逆に取り分が兄弟より少ないと知ったら、孫を利用してでも親と交渉しますよ。こういうのは相続の現場では本当によくある話です。

――これまでに手掛けた変わった相続の事例がありましたら教えていただきたいです。

木下:離婚歴があるバツイチ同士の夫婦の相続の事例が風変わりでした。実際にあったケースなのですが、その夫婦には息子が1人いて、妻の方には前夫との間に娘が1人。実子である息子の方は両親とケンカ別れして出て行ってしまっていた一方で、妻の連れ子は継父である夫とも仲が良くて、3人で暮らしていました。

このケースって、妻が亡くなった時の法定相続人は夫と息子(ケンカ別れ)と連れ子の3人になるわけですが、夫が亡くなった時は妻と実子である息子(ケンカ別れ)の2人だけです。夫は妻の連れ子をすごくかわいがっていたのですが、その子には財産を残すことができません。

で、夫が亡くなったんですね。かわいがっていたのなら、連れ子を養子縁組しておけば財産を残せたのですが、養子縁組もしてなければ遺言も残していなかった。夫はケンカ別れしていた息子に財産を残す気はなかったのですが、遺言がない以上半分は息子(ケンカ別れ)に権利があります。誰が相続人なのかでもめた事例ですね。

――最後になりますが、相続を控えた方々にアドバイスやメッセージをお願いいたします。

木下:節税は後回しでいいので、まずはみんなが納得するような相続を心がけていただきたいです。

そのためには親と普段から会話しておくことです。都心に出てきてしまっているとどうしても親や実家との関係が希薄になってしまうのですが、そうなると実家の家屋や不動産にも思い入れがなくなって「財産」という目でしか見られなくなってしまいます。

だから、経済合理性だけで「売っちゃえばいいじゃん」となるのですが、親の気持ちとしては残しておいてほしい思い入れのある自宅かもしれません。売らずに残してほしいと生前ちょっとでも言われていたら、どうにかして守ろうという気にもなりますが、両親と会話をしていないとそういう親の思いがわかりません。不動産をどうするかによって兄弟との財産の分け方も変わってきますしね。

また、財産を相続させる側は自分の意志を子どもの側に伝えておくべきです。相続っておもしろいもので、親が死んだ時に財産の分け方で散々苦労した人が、自分が死ぬ時は遺言も何も残さずに同じ苦労を子どもたちにさせてしまったりする。あとあとトラブルにならないためにも、お互いにコミュニケーションをとっておきましょう、ということはお伝えしたいですね。

(新刊JP編集部)

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