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子育てには「お父さんの守備範囲」がある 教育研究家が語る父の役割とは

  • 書名 『お父さんのための子育ての教科書』
  • 監修・編集・著者名七田厚
  • 出版社名ダイヤモンド社

自分の子供にどう接していいのかわからなかったり、どんなしつけや教育をすればいいのかわからないという人は少なくないはずです。特に男性は子育ての知識が乏しいことから、すべてパートナーに丸投げしてしまうことも...。

でも、それは子供にとっても親にとってももったいないことかもしれません。
「子育てには父親にしかできないことがある」と語るのは、教育研究家で七田式教育の教育者である七田厚さん。七田さんは『お父さんのための子育ての教科書』(ダイヤモンド社刊)で、男性が子育てに関わることの必要性と、効果的な関わり方について解説しています。

お母さんとは違う、お父さんの子育てとはどのようなものなのか。七田さんにお話をうかがいました。

■「父親だからこそできる子育てがある」

――今の時代、お父さんが子育てに積極的にかかわっていくことはそれほど珍しいことではなくなりましたが、それでも戸惑うことは多いはずです。ご自身も男の子2人女の子1人と、3人の子育てを経験された七田さんですが、困ったことや戸惑ったことについて教えていただきたいです。

七田:まず、「迷子」ですね。自宅は島根なのですが、仕事で東京に来る時に、まだ幼児だった長男を一緒に連れてきたことがあったんです。ちょっと目を離した隙にいなくなってしまって慌てたことがあります。都心のデパートのトイレに子供を連れて行って先に用を足させて、今度は自分が...となったわけですが、その間に走ってどこかに行ってしまったり...。迷子にしないようにするのは大変でした。

また、おもちゃ売り場で新しいおもちゃがほしいと「実力行使」で床に寝そべってしまうのも困りましたね。あとは病気とか体調不良の時の対応です。妻の方はそういう時の対処がわかっているのですが、私しかいない時は、どうしていいかわからずおろおろしてしまった記憶があります。

――七田さんと奥様で子供への接し方に違いはありましたか?

七田:基本的には妻の方が厳しめで、私が甘めだったと思います。だから子供たちは私の方が本音を話しやすかったかもしれません。

本にも書きましたが、両親とも厳しいと子供は逃げ場がなくなってしまいますし、両方が甘くても過保護すぎてしまったりする。どちらかが厳しくてどちらかは甘めというのがバランスがいいのかなと思います。

――本書の中で「父親だからこそできる子育てがある」とされていました。これはどのようなものなのでしょうか。

七田:一つは「ワイルドな遊び」ができることでしょうね。肩車をしたり、抱っこしながら軽く上に放り投げて受け止めたりといったこともそうですし、アウトドア的な遊びもお父さんの方が得意なことが多いと思います。お母さんが家の中での遊びが得意だとしたら、お父さんは外遊びの方で子供に色々な経験をさせてあげるという方が向いていると思います。

もう一つは言葉がけです。一般的にお父さんとお母さんどちらが家の中で話すかといったら、お母さんの方だと思います。子供に対して細々と声をかけるのはお母さんが多い。

だからこそ、お父さんの言葉というのはいざという時に重みがあります。特に仕事が忙しくてあまり子供と話せていないお父さんは、休みの日だとか子供の誕生日や卒業式といった節目のタイミングで子供の将来について言葉をかけてあげると、すごく響きます。

「将来大物になるぞ」でもいいですし「おまえは友達が多いから、人と組んでチームでやる仕事が向いてるぞ」でもいい。親から見た子供の長所を教えてあげつつ、将来のことを話してあげると、大人になっても子供の中にその言葉は残る。それは親が亡くなった後も、子供を励ます言葉になるんです。

――性別によって違うのかもしれませんが、男性の自分の場合は確かに母親の言葉よりも父親の言葉の方が覚えていることが多いような気がします。

七田:あとは、いいことでも悪いことでも「こうしたら、こうなるよ」ということを教えてあげることも、お父さんにがんばっていただきたいです。

これは自分の経験なのですが、小学生時代、算数が人より得意なつもりだったんです。中学に進む時に、島根県内ではなく広島の私立を受験したのですが、残念ながら落ちてしまった。特に自信をもっていた算数は十分に勉強していたつもりだったのにダメだったわけです。

それでしょげているところに父が公文式のプリントをもってやってきて「これをやってみないか」と言う。それで、診断テストを受けたら、「小学校5年生のところからやりましょう」と、公文式の先生に言われたのです。

これから中学に上がるっていうのに、5年生のものからやるのかとまたしょげたのですが、父は「人が1枚するところを2枚やってごらんよ。そうしたら1年で2年分進むから、中学3年生になったら高校の数学もわかるようになっているかもしれないよ」と言いました。

それでパッと目の前が開けたんですね。「それならぼくは4枚やる!」って言って、それを2年続けたら、私の学年の公文の成績上位者のベスト10入りするところまでいけた。これって「こうすると、将来こうなるよ」というのを父の言葉で見せてもらえたからだと思うんです。

勉強だけじゃなくて、プロ野球選手になりたいというような夢でも同じで、「こうなりたいなら、こうするといいよ」っていう道を示してあげるのは親の役割ですし、これもどちらかというと父親の方が得意なんじゃないかと思いますね。

――子育ての目標設定のところは興味深かったです。七田さんは「一人で生きていける人間に育てること」が目標だったそうですね。

七田:この目標を作ったのにはきっかけがあって、私は3人子育てをしたのですが、上の子の時は「教育パパ」というか、結構あれやれこれやれと口うるさく言っていたんです。

うちにはちょっとしたルールがあって、親と暮らすのは15歳までで、高校からは親元を離れて寮生活をさせます。そんな決まりがあるわけですが、私は出張が多くて家を空けがちなので、帰ってくるまでにやっておくようにと子供に宿題を出していたんです。

でも、それとは別に学校の宿題もありますし、習い事も行っていたので、小学校の4年生くらいになると私からの宿題をやらなくなっていったんですね。こちらは「なんでやらないんだ」と注意したりしていたのですが、ある時はっと気づいて「この子はあと5年ほどで自分のもとを離れるのに、こんなことをやっていていいのかな?」と思ったんです。

つまり、このまま「やりなさいと言われてしぶしぶやるような子」を育てても、高校に行ったらうるさい親父から離れられてせいせいしたと思うはずで、それでは意味がない。そうじゃなくて、自主的に勉強する子にしないといけないと思って、それから宿題を出すのはやめたのですが、自分が漠然と子育てをしていたことに気づかされましたね。

――「一人で生きていける人間に育てること」は多くの親に共通する気持ちだと思います。特に気になるのが経済的な自立ですが、これについてアドバイスをいただきたいです。

七田:これは難しいですよね。実は私は大学生の時にローンであれこれ買い物をしていたら、結構な額になってしまって、「今回だけ」ということで父に残債を払ってもらったことがありまして、その時に身の丈に合った生活をするようにと教えられました。それ以来、住宅ローン以外は一括払いで払えるものしか買っていません。生活の中に本格的にお金が入ってくるのは大学生くらいからですから、実際的な金銭教育はその年齢になってから教えるしかないのかなと思います。

ただ、金銭感覚を身につけさせたり、計画的にお金を使うことを覚えさせるのは子供の時からでもできます。小遣い帳をつけさせたり、一緒に買い物に行った時に、大まかなものの値段感覚を教えたりといったことは小さなうちからやっておくといいでしょうね。

――本書では「愛・厳しさ・信頼」を実践すれば子育てはうまくいく、と書かれています。愛と厳しさのバランスが悩みどころだと思いますが、この点についてアドバイスをいただければと思います。

七田:ベースは常に「愛」です。厳しいことを言わないといけないこともありますが、それも愛があってこそなので。また、誤解されがちですが、悪いことをしても叱らないのは愛があるとは言えないですよね。

愛をベースにして、一人で生きていくための善悪の判断を教えていくのが親の役目です。子供が自立する時に「これからは親が近くにいないけど、この子にはやるだけのことをやってきたから、あとは信じています」と言える状態にするところまでは親の責任だと思います。

(後編につづく)

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