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感情を客観視するべし! 「自分は怒りやすい」と悩む上司への処方せん

  • 書名 嫌われずに人を動かす すごい叱り方
  • 監修・編集・著者名田辺晃
  • 出版社名光文社

部下の育成は上司にとって一番の仕事だろう。 しかし今、どのようにコミュニケーションを取ったらいいのか、どうすればモチベーションを高めることができるのか分からない、と部下とのコミュニケーションに悩む上司は多い。

特に問題なのが「叱り方」だ。一時代前の説教タイプの叱り方は「パワハラ」と受け取られてしまう可能性もあり、どのように部下に改善してもらうか悩ましいところだ。

そこで、『嫌われずに人を動かす すごい叱り方』(光文社刊)を著した人材育成コンサルタントの田辺晃氏にお話をうかがい、最新型の「叱り方」について話を聞いた。
今の「叱り方」は「ほめる」「認める」「言い訳を聞く」ことが大事だと語る田辺氏。その後編をお届けする。

インタビュー前編はこちらから

(新刊JP編集部)

■思わず部下に逆上してしまった... その晩回の方法はあるのか?

――本書を読んでいる上司の立場の人は、新入社員や若手社員とのコミュニケーションに悩んでいる人も少なくないと思います。若い人たちを叱る際に気をつけるべきことを教えて下さい。

田辺:多くの上司の方々は、叱る際に今の自分と部下を比較して「なんでこんなこともできないんだ!」と怒ってしまうことが多いんですね。

でも、自分が新入社員の頃を思い出してほしいんです。当時、どれだけ社会のルールや仕事の手順が分かっていましたか、と。今だからこそ痛感するのですが、私は自分がまだ入社して間もない頃は何も分かっていなくて、今なら怒鳴られるような対応を普通にしていました。

新入社員の方々は、「何でそんなことをするんだ」と言われても、なぜ叱られているのか分からないと思います。それは物事をとらえる基盤となる常識が違うからです。打ち合わせ後のお礼メールの送信一つとっても、手順があることを知らないと抜けるのは当然です。

だから、一つ一つ説明することが大切で、教えては確認して、相手の意見を聞くということをしないと、ルールや仕事を覚えてはくれませんよ。

――自分の常識は相手の常識ではないですからね。

田辺:その意味では、上司は謙虚な姿勢が必要です。部下のおかげで自分は仕事をできていると内心思っておかないといけないですよね。

――また、自分ができていないことを部下に「そこは直せ」とは言えないというケースがあります。この場合はどうすればいいですか?

田辺:本の中では、私と妻の事例で説明しています。私が妻に「これやってないよね」と言うと、「あなたもやってないでしょ」と言い返されるというね(笑)。

部下に指摘しないといけないときもありますが、「上司の方こそ出来ていませんよね」と言われる覚悟をすることがまず大事。もう一つは「一緒に頑張って改善しよう」というスタンスで指摘をすることですね。誰しも完璧ではないですから。

――叱る立場は完璧でないといけないと考えてしまいがちです。

田辺:そうなんですよね。でも現実はそうではありません。だから謙虚な姿勢で、自分も変わっていくという姿勢を見せるスタイルを取るべきでしょうね。

――また、怒りやすい性格だという人もいます。そういう人向けに怒りのコントロールのポイントを教えて下さい。

田辺:これはアンガーマネジメントで「怒りを感じたら6秒待て」という方法があります。激しい怒りは6秒で静まるということですね。ただ、思わず逆上して怒鳴ってしまったというときは、もう一度リターンマッチをしてください。

その日の夜や次の日に、もう一度部下と話をするんです。「昨日のことで、ちょっともう一度話そう」と言って、怒ったことを素直に謝る。そして、叱る前に本書の54ページと55ページにある「叱り対話準備シート」を使って、自分を客観視してください。

怒りの中には私的な感情が含まれていますから、何が客観的事実(出来事)で何が自分の解釈・評価で、何が感情なのかを把握することがまず大事です。ここで主観的事実は、自分の見方であり実は自分の価値観や信念、思い込みからやってきています。
また自分の期待、つまり「部下はこうしてくれるだろう」という自分が抱いた思いを、部下に裏切られて腹が立つ、これが感情です。
このスキームをしっかり俯瞰できれば、叱り対話の準備としてはばっちりです

こうした、一度怒ったものの冷静に俯瞰して見て、改めて「こうしてほしい」という要望を客観的事実とともに伝えることを私は「2段階叱り」と呼んでいます。

――なるほど。では、普段から怒らないようにする方法はありますか?

田辺:日々、今日感謝できる出来事を寝る前に10個書き出すという方法があります。これを続けると、人の良いところを見ようとするようになってきて、謙虚さが身についてきます。

――もう一つ、何度も指摘をして改善を促しても同じミスを繰り返してしまう部下に対してはどのくらい根気強く指導すべきなのでしょうか。

田辺:2、3回くらいまでですね。同じミスを繰り返さないためにはどうすればいいかというスタンスで考えていくのが良いと思います。客観的事実を指摘して、「次は改善します」と言ったけどやはり繰り返されている。その原因追及は必要でしょうけど、「何で直らないんだ!」という相手を責めるようなことはしないで下さい。

また、何度も繰り返しているということは相手も分かっていて、反省をしているはずなので、威圧的にならないように正面で向き合うのでなく、90度の方向で座ったり自分と相手の間に紙を置いて、そこに何かを書きながら叱るというような演出も必要です。

――相手への伝え方で気をつけるべきポイントはありますか?

田辺:基本的には、どうすれば出来るようになるかという方法を探しつつ、その中で原因も考えてみようかというスタンスが良いと思います。原因追及は相手を責めるニュアンスが入るので、相手が委縮する可能性があります。

そして、「何度も同じミスを改善しようとしないのは、私は社会人として信頼できないと思う」というように、私を主語にした「Iメッセージ」で評価を伝えつつ、「頑張ろう」と言ってあげましょう。

――では、『嫌われずに人を動かす すごい叱り方』をどのような人に読んでほしいとお考えですか?

田辺:まずは40歳の頃の自分ですね(笑)。当時課長になったばかりでしたが、本当に自分本位な関わり方をしていました。そこから広げて、35歳から45歳くらいの部下を持つ管理職の方々にぜひ読んでほしいです。

実際、そこまで仕事一本でマネジメントを考えずにきたと思うんですね。マネジメント育成でよく使われる「カッツモデル」でいうところの「業務遂行能力」と「概念化能力」ばかりを伸ばしてきた人が多いと思います。
でも、マネジメントにとって劣らず大事なのは、対人関係能力なんですよ。そこに気づいてほしいです。私はそれを50歳を過ぎて気づいたので、10年早く知っていれば...と思っています。

この本のテーマは「叱り方」ですが、他者の見方やコミュニケーションの取り方についても触れていますので、そうした部分も含めてぜひ参考にしてほしいですね。

(了)

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