昨年から今年にかけて有名画家たちの作品展が日本の美術館を賑わせています。上野の森美術館の「フェルメール展」、国立西洋美術館の「ルーベンス展」、東京都美術館の「ムンク展」など、もしかしたら足を運んだことがあるかもしれませんね。
さて、名画を見るときに、どういう風に絵を楽しんでいますか?
実は名画は、その背景を知れば知るほど面白くなります。なぜこの絵が描かれたのか、その時代に何が起きていたのか、一見目立たない小物にはどんな意味が込められているのか。そして西洋美術史家の木村泰司さんは、絵画には「ある一定のメッセージを伝える」という目的が込められているといいます。
ところがそうしたメッセージは、絵のイメージから誤った解釈がなされてしまうことがあります。ここでは、木村さんの著書である『名画は嘘をつく』(大和書房刊)から、あの有名な絵画たちの本当のメッセージを探っていきましょう。
ヨハネス・フェルメール「牛乳を注ぐ女」(1658-60年頃)アムステルダム国立美術館
(『名画は嘘をつく』p.141より)
17世紀のネーデルランド(オランダ)の画家で、日本人からの人気も高いフェルメール。これはフェルメールが描いたメイドを主役にした絵で、「牛乳を注ぐ女」として知られています。
もともとメイドは男性を惑わす性的なシンボルとして描かれることが多かったのですが、このメイドはがっしりとした体形で素朴、そして忠実そうな雰囲気を漂わせています。
実はこの名画、誰かを称賛しているのですが、それは誰か分かりますか? 答えはこのメイドの女主人。当時、メイドの監督は主婦の大事な仕事でした。フェルメールはこのメイドの姿を通して、この絵には描かれていない女主人の「女性の美徳」を称賛しているのです。
ピーテル・ブリューゲル(父)「農民の婚宴」(1568年頃)美術史美術館、ウィーン
(『名画は嘘をつく』p.127より)
農民たちの素朴な姿を描いたネーデルランドの画家・ブリューゲルは「農民画家」というイメージを持たれています。しかし当の本人は都市暮らしの教養人であり、彼は自身の顧客である都市部の上流階級から「愚かな存在」と考えられていた農民たちを、エンターテインメント的に描いていたのが現実だと木村さん。
ブリューゲルが描いた農民や庶民たちは太っているのですが、食糧需給率が安定していない当時の彼らが丸々と太っているとは到底考えられません。なんせ飢饉があまりにも身近な存在だった時代です。ここに描かれている農民たちは、裕福な都市の住民たちの「想像」の姿だったのです。
ピエール=オーギュスト・ルノワール「洗濯女」(1877-79年)シカゴ美術館
『名画は嘘をつく』p.141より
今年で亡くなって100年を迎えるルノワール。「印象派」の代表画家として知られていますが、実はその印象派の中で唯一、労働者階級の出身でした。だからでしょうか、「楽しくなる絵しか描かない」と幸福感に満ちた作品を描き続けました。
当時の社会で女性にとって最もタフで過酷な労働だった「洗濯」。その仕事に従事する女性を描いた「洗濯女」ですが、どこかほのぼのとしていますよね。「労働者階級の現実を知っていたルノワールだからこそ避けたリアリズムだった」と木村さんは述べます。
また、本書では、この絵の後にエドガー・ドガの『アイロンをかける女たち』(1884年)を紹介していますが、彼女たちの真実の姿が暴き出されています。そのギャップはまさに「表」と「裏」という印象です。
他にもアルプス越えをするナポレオン・ボナパルトや、ミケランジェロの「最後の審判」などを誰もが知っている名画の本当の姿を暴いていく本書。絵画を見るときの視点を丁寧に教えてくれるようなそんな一冊といえます。
ジャック=ルイ・ダヴィッド「アルプス越えするボナパルト」(1801年)マルメゾン宮国立美術館、リュエーユ=マルメゾン(フランス)
『名画は嘘をつく』p.145より
ミケランジェロ・ブオナローティ「最後の審判」(1536-41年頃)ヴァチカン美術館
『名画は嘘をつく』p.191より
(新刊JP編集部)
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