むし歯や歯周病の怖さは誰もが知るところ。
だからこそ、歯を失わないために「歯みがき」に余念がない人は多いはずです。
でも、ちょっと待ってください。あなたのその歯みがきはまちがっているかも。
『「歯みがき」するから歯は抜ける』(現代書林刊)の著者で歯科医師の大岡洋さんは「適切なケアをすれば歯肉は老化しない」として、本書で正しい歯肉ケアの方法を紹介しています。
今回はその大岡さんにインタビュー。歯周病やむし歯、そしてこれらの予防のための、一般的な「歯みがき」とは一線を画す正しい「ブラッシング」についてお話を伺いました。
大岡:そうですね。これは日本に限ったことではなくて、全世界的にいえることです。
歯周病は数年前からアメリカでも「サイレント・エピデミック」(沈黙の疫病)として報告されているんですが、症状があまり自覚できず、蔓延しているから皆さん気づかないんです。
大岡:一番多いのはブラッシングをしている時の出血ですね。
大岡:その通りです。それがまた問題で、だいたいの人は血が出たら怖くなってその部分にブラシを当てるのを避けるんですよ。これが余計に進行を早めてしまうことにつながります。
大岡:歯周病の進行は階段状です。たとえば、しばらく症状が落ち着いたかと思うと、大きな病気をしたり、体調を崩したりして、免疫力が落ちたタイミングでガタッと次の歯周病のステップに進む。徐々に進行するのならどこかで本人もわかるのでしょうが、症状の「踊り場」を経て、あるタイミングで急に悪化するから、対応が遅れやすいんです。
大岡:定期的に歯科医院に行って検診を受けるしかないと思います。ただ、歯周病にしてもむし歯にしても、自覚症状がなかったり軽かったりする時間がすごく長いんですよ。むし歯であれば症状がひどくなって、進行の最終局面になるまでに3年くらいはかかりますし、歯周病はもっと長い時間がかかる。
なので、患者さんが自治体の検診で来られて、口の中を診ると5、6本むし歯が見つかったりする。だけど、本人は自覚症状がないから、それを伝えると「そんなわけがない」といって怒ってしまうケースがあるんです。歯周病についても同じことがいえます。
これとよく似ているのが癌(ガン)なんです。癌はいかに早期発見できるかがその後の治療の鍵になる病気なのですが、やはりはっきりした症状が最後の局面になるまであらわれないことが多い。それで顔色が急に悪くなったりだとか、突然痩せたりということがあって、びっくりして病院に行くと末期だったということが起こりうるわけです。
ただ、癌の場合は要因になることがたくさんあるため予防の手立てが難しいのですが、むし歯や歯周病というのは口の中の汚れをコントロールできさえすれば予防できます。そこが癌との大きな違いで、この本では効果的にそれを行なうための方法を紹介しています。
大岡:結論からいえば難しいでしょうね。毛先が細くなっているタイプの歯ブラシが今流行っていますが、あれは結果的に歯肉を引っかいて傷つけるだけになってしまうことが多いんです。これだとかえって歯肉が下がってしまうことになりやすい。
歯周病の予防のアプローチとしては、血管の集合体である歯肉をマッサージして引き締めることによって歯周ポケットの中の汚れを出やすくするというのが正解です。
大岡:たくさんあるのですが、一番大きいのは「歯周病は加齢変化だから、年を取ったら歯を失うのは仕方がない」というものです。これは間違いですね。
大岡:この誤解の根本にあるのは「歯周病は歯肉の病気である」という考え方です。テレビのCMでも歯肉がぐしゃっと潰れて歯が抜け落ちるアニメーションが流れていますからそう思い込む方は多いのですが、これは正確ではありません。
正確には、歯周病は「骨の病気」なんです。というのも、歯を支えているものは歯肉ではなく、その内部にある骨です。歯肉はというと、その骨の周りに乗っているカバーのようなもので歯を支えているわけではありません。
骨というのは細菌やウイルスにすごく感染しやすい特徴があって、外界に露出すると問題です。だから、通常、骨は皮膚や筋肉に守られて外界には出ないようになっていますが、口の中は別で、歯を介して骨と外界が間接的につながっています。
大岡:そうです。じゃあ何が感染を防いでいるかというと、歯肉の接点部分が防いでいるんです。ここでバリアして、細菌が骨にいかないようにしている。
だから、きれいにして歯肉の状態を安定させておけば、歯周病の症状は悪化しません。そして、歯肉の代謝能力というのは、実は20歳でも80歳でもさして差はありませんから、歳をとっても歯肉をいい状態に保つことは可能なんです。
(後編につづく)
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