経済だけでなく社会全体が変わりやすく、業界トップ企業であっても何かをきっかけにあっという間に没落してしまうような流動性が高まっている今、ビジネスの世界でリーダーの役割はいっそう重く、困難になっている。多くの現場でリーダーが直面するのは、逆境や達成が困難に思われる目標であり、「淡々と役割をこなしていれば合格」という立場はどんどん少なくなっているからである。
『逆境のリーダー ビジネスで勝つ36の実践と心得』(大塚明生著、集英社刊)は「今の時代に求められるリーダーは、一国の存亡を一身に背負う戦国時代の武将のようなリーダー」だとして、逆境を跳ね返して成果を出すリーダー像を説く。
時に厳しい指摘あり、覚悟を試すような記述もあるが、マネジャーとして成長していきたいのなら、耳を貸すべき意見でもある。
■決断する前に人の意見は聞くな
「ワンマン」や「独裁」といった言葉には、しばしばわがままさや、身勝手さのイメージがつきまとい、組織の中では忌避されがちだ。しかし、市場の変化が早い今、求められるのは決断と実行のスピードであり、そのスピードに立ち遅れないために、ある種の「独裁」はリーダーにはむしろ不可欠となる。
周囲に意見を求めること自体が悪いわけではないが、失敗した時に「自分だけが悪いのでではない」という逃げ道にもなる。まして、周囲からの反対意見が多いからやめる、ではリーダーの存在意義はない。
「話し合ってから決めるのではなく、決めてから周囲の意見を聞く。そして聞き入れる点があれば取り入れて責任は自分が負う」
現代のリーダーにはこうした「民主的独裁」とも呼べる素養が求められているのだ。自らリスクをとる覚悟があれば、独裁の誹りを受けたところで怖くはないだろう。
■リーダーは「有言実行」だけでは足りない
自分でやると宣言したことを、宣言通りに実行するリーダーの姿は、部下やチームのメンバーに大きな勇気を与える。その意味で、リーダーは「有言実行」であるべきだ。
ただ、本書によるとリーダーは「これを成し遂げる」だけでなく、「これを、こうやって成し遂げる」と、プロセスまで公言すべきだとしている。そうすることで成功までのシナリオ全体を考えることになり、うまくいかない時のリカバリーにまで頭が及ぶ。プロセス全体がチームで共有されていれば、成功の再現性も高まるのだ。
■大勢のゆるい味方ではなく、少数だが熱烈なファンを作れ
「どん底の時にも離れなかった人が本物の理解者」という言葉にあるように、逆境になると、これまで親し気な顔をしていた人が、手の平を返したように離れていく。
これは同じ組織で働く同僚であっても同じである。ならば、リーダーに必要なのは、いざという時に頼りにならない「ゆるい味方」ではなく、どんな時でも自分の味方になってくれる「熱烈なファン」だ。こうした人が周囲にいるからこそ、リーダーは軋轢を恐れることなく、チームを率いていけるのだ。
◇
ここでは、今リーダーが持つべきメンタリティを紹介したが、本書はこれにとどまることなく、人材育成や戦略立案、組織力を最大化する秘訣など、マネジメントに必要とされるあらゆる要素が明かされる。
高度成長期やバブル期と比較して、リーダーの仕事はより複雑で、困難になっているのは間違いない。本書はそんな中でも成果を出すための、どんな職場でも通用する汎用性のある武器を与えてくれるはずだ。
(新刊JP編集部)
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