『飛び込みなしで「新規顧客」がドンドン押し寄せる「展示会営業」術』の著者、清永健一氏
中小企業には、商品やサービスの質は良いのに世に知られていない、というケースが多くある。
そこで、自社の商品やサービスを大々的にアピールしようとすると、真っ先に思い浮かぶのはテレビCMやWEB広告といった王道の手段だ。
しかし、そうした方法は大企業であれば存在感を示せるが、資金や知名度で劣る中小企業では太刀打ちできないのが現実だ。では、中小企業が効果的に営業を行える場がどこにあるのだろうか?
その答えの一つが「展示会」だ。
その教科書とも言うべき一冊が、展示会営業のコンサルティングを行う清永健一氏の『飛び込みなしで「新規顧客」がドンドン押し寄せる「展示会営業」術』(ごま書房新社刊)だ。
今回は著者の清永氏に「展示会営業」とはどういうものか。また、「展示会営業」のメリットは何かを伺った。
(取材・文/大村佑介)
■「売り込み」で成功できなかった営業マンは何を変えたのか?
――「展示会営業」術が生まれたキッカケはなんだったのでしょうか?
清永:私は以前、大阪にあるケーブルテレビの会社の営業をしていたんですが、全然売れないダメ営業マンでした。
そんな中、当時ちょうど地上デジタル放送が始まるころで、株主である大阪市が地上デジタル放送に関するシンポジウムを開催することになったんです。
そこに500人以上の人が来ます――結果的には、もっと来たんですが――たくさんの人が来ますと。
だから「ケーブルテレビの会社も出展して地上デジタル放送について説明しなさい」と言われて、営業では成果を上げられていなかった私がその仕事をやることになり、ほとんど一人で準備をして、来場者の方々に説明をしたんです。丁寧・親切に、そしてわかりやすくお伝えすることを心掛けていたことを覚えています。
そうしたら、後日、シンポジウムでわたしが対応したお客様から「清永さんから買いたい」と、たくさんの問い合わせが会社にきたんです。今まで、お客さんに「買いたい」なんて言われることがなかったので、とてもうれしかったのと同時に、「このやり方はすごくいい!」ということに気付いたんです。
――何がそれまでの営業と違っていたのでしょうか?
清永:ポイントだったのは、「教えてあげる」ということだと思います。
いきなり教えようと思っても、「売りたいから言っているんじゃないか?」ということになりますよね。そうならないための仕掛けというのが必要で、それこそが展示会なんです。展示会という場所自体が、そういう効果をもっているんですね。
人は、「売り込まれる」のは大嫌いだけど、「教えてもらう」のは好きなんです。
私は、営業でいつも「売り込もう」としていたのですね。でも、展示会という場になったことで、売ろうとする気持ちはなくなり、教えてあげるということに専念できたんです。資料をつくって、わかりやすくお教えするということを一生懸命にやりました。
結果的に、そのほうが売れるということがわかったんです。
展示会に来る人は、情報収集に来るんです。何かを知りたいから来る。その人たちの得たい情報を、「プロとしてお伝えしますよ」というスタンスでやれば、うまく教えてあげられるんです。
教えられ好きの人に、教えてあげる人として登場しやすくなる。これが展示会の大きなメリットですね。
――展示会の出展数や様相は、今と昔では違いますか?
清永:はい。15年くらい前は、どちらかと言うと「付き合いで出展する」とか「ずっとやっているから惰性で出展する」というケースが多かったですね。
ところが、リーマンショックなどの影響で、一旦、かなり出展社数が減りました。
今は、そこから出展社数も回復してきて、展示会が有効なビジネスの場として見直されている、という状態です。
――清永さんはこれまで1000社以上の「展示会営業」を手がけられてきましたが、展示会が成功しやすい「業種」や「社風」というのはありますか?
清永:私は「展示会営業」のコンサルタントですが。展示会が、唯一、必ずいいものだとは思っていません。会社によっては展示会に出なくても、中にはウェブでやるほうが向いている会社もあります。
総合的に見て、価値が伝わりにくかったり、良く説明しないと分らなかったり、教えるということをしないといけない商品やサービスは、展示会が向いています。
たとえば、電化製品の中に入っている、「デバイスをスムーズに動かすための高性能組込みシステム」があったとします。
そのシステムはとてもいいんです。すごいんです。でも、それが組み込まれている製品を見ても、すごさは伝わらないですよね?
そういうものを展示会で見せるんです。そういった部品として使用するスペックイン製品や、BtoB商材それに専門的な分野の商材がいいですね。たとえば、あるモノを切るためだけのカッターとか。
それがものすごくよく切れるカッターだったとします。切れ味が鋭いから、切った後に断面を磨かなくてもいい。研磨の工程を削減できるから、その分、製造原価が下がります、とかね。
それを目の前で見せれば、動画などで見せるよりも説得力があります。やっぱり直接、見て、触れることのできる展示会がおすすめです。
――確かに実演してもらったほうが分かりやすいですね。
清永:モノではなくて、技術を展示会で見せるというケースもあるでしょう。職人さんの技術を目の前で見せれば「これはスゴイ」ということになる。実際、多くの中小企業はそういう商品をつくっていたり、すごい技術を持っていたりしますよね。
――なるほど。では、展示会に向いている社風というのはありますか?
清永:堅くて真面目な会社のほうが効果は出やすいですね。
そうした会社は、「技術がいい」「物がいい」という企業は多いけれど、「お客さんにとってどうなのか?」という部分が考えられていないことが少なくないんです。
展示会は、生身の見込み客と実際に対面で接する場です。
だから展示会に出展しようとすると、いやでもお客さんのことを徹底的に考えることになります。展示会の出展を通して、「お客さんにとってどうなのか?」を考える社風に変わっていくキッカケになる
あとは、営業と製造の仲が悪い会社は向いていますね(笑)
――「仲が悪いほうが向いている」というのは不思議な感じするのですが。
清永:たとえば、営業部門が取ってきた仕事を、製造部門が「そんな受注をされても納期が間に合わない」と言って揉める。製造部門の「これしか作れない」という主張を、営業部門が「それじゃあ売れない」と言って険悪になる。そういうことって多いですよね?
そういった関係を融和していくためにも、展示会の出展はいいんです。
やらないといけないことが決まった、という状態にすると、お互いに「どうしようかな?」と考えるわけです。
そこから「これをするためには、製造の意見を聞かないといけない」「営業のことを知らないといけない」という歩み寄りが生まれて「お互い大変だけどお客さんのために一丸になってがんばろうね」という気持ちになるんです。
――イベントならではの一体感が社内の空気を変えていくんですね。
清永:そうなんです。中小企業の中には、マーケティング部門がない企業が多いですが、大きな会社だと、マーケティングとセールスの関係でも同じです。
中小企業の製造と営業、または、もう少し大きい企業の営業とマーケティングの部門間のセクショナリーと言いますか、それを突破していくためにも展示会はいいですね。
展示会で売上が上がる余地もあるし、部門間のコミュニケーションが良くなることであらたなイノベーションが生まれやすくなるという相乗効果も期待できるわけです。
――社内で一体感を出すためのポイントはあるのでしょうか?
清永:展示会に出るときは、いろんな部署から主要な人物を集めたプロジェクトチームをつくることが重要です。そして、経営者がプロジェクトオーナーになり全体を差配していきます。
展示会の出展をするときにやってしまいがちなのは、誰か一人に押し付けるパターンです。
文化祭の実行を丸ごと一人に任せてしまうようなものです。それでは、成果が出ないですよね。
展示会というイベントをお祭りみたいに考えて、皆でやったほうが、成果は出やすくなります。
(後編に続く)