河に流された幼児が、一大王国を築き上げる――。
恵まれない環境で育った「捨て子」が、王や英雄になる・・・・・・いわゆる「捨て子伝説」は世界中に存在し人気を博しているが、その最古の例を知っているだろうか?それは「サルゴン伝説」だ。
■メソポタミア王・サルゴンとは
サルゴンは、紀元前24世紀にメソポタミアを統一し、史上初の帝国「アッカド」帝国を築き上げた「世界一の出世男」。数多くの伝説が残されているものの、そのほとんどが謎に包まれている。
そんな彼の一代記を壮大に描く歴史エンターテイメント小説が『サルゴンI ―天下をとった捨て子―』(大久保和展著、幻冬舎メディアコンサルティング発行)。
生後すぐにユーフラテス川に捨てられた彼は養父に恩を返すべくキシュ国の王、ウル・ザババの晩酌人となる。王の夜の相手を務めながらも勉学に励むが、やがて肉体が成長し、晩酌人としての役目はお払い箱になってしまう。そんな彼は生きるために軍人への道を目指す。
ひ弱な肉体のサルゴンは、過酷な兵役では足手まとい。あっという間に同僚たちの信頼を失い、行き場を無くすが、当時の宰相の手引きによって諜報員となる。そして、この職が彼をメソポタミアの覇権争いへと導くカギとなる――。
決して成功だけを重ねてきたわけではない。捨て子・ひ弱というハンディキャップを抱ええるサルゴンがそれでもチャンスをつかんでいったのは、自らの身に降りかかる出来事に対して諦めることなく真摯に取り組み続けたからだろう。
■あの豊臣秀吉もサルゴンをリスペクトした?
実は本作を執筆するに当たって、著者は古今東西の文献から、ある大胆な仮説を立てている。あの「豊臣秀吉」がサルゴンをリスペクトしていたのではないか?というのだ。
秀吉のあだ名が「サル」というのは有名な話だが、実は彼の上司である織田信長は秀吉に「禿ねずみ」というあだ名をつけていた。このニックネームが現代に伝わったとしてもおかしくはないのだが、「サル」が現代にまで残っているのは彼自身が「サルゴン」のようになりたいと願ってそう呼ばせていたからではないだろうか。
また、彼は自らの子どもを「捨(丸)」「拾(丸)」と名づけている。「捨て子」から「拾われる」という、どこか「捨て子伝説」を想起させるこのエピソードも、下賎の身からの立身出世を狙う自分自身を「サルゴン」に近づけるために名づけたという見方ができるかもしれない。
「全土の王」「世界の王」と呼ばれ伝説となりながらも、実態は謎に包まれた英雄サルゴンに光を当てた本作。運命に奔走されながらも立身出世をひた走る若き英雄の生き様に触れてみてはいかがだろう。
(新刊JP編集部)
『サルゴンI ―天下をとった捨て子―』(幻冬舎メディアコンサルティング発行)