帝国データバンクが2015年におこなった調査によると、日本における女性管理職の割合は平均6.4%、さらには「女性管理職ゼロ」という企業が50.9%にものぼることが分かっている。
これらのデータを見る限り、「ダイバーシティ」や、そこに含まれる「女性の社会進出」はいまだ道半ばといったところ。「女性の社会進出」は日本社会が今後真のダイバーシティを獲得していくための一里塚だといえる。『思い通りの人生に変わる 女子のための仕事術 会社では教えてくれない女性のためのビジネス作法とルール36』(ダイヤモンド社刊) の著者、竹之内幸子さんにお話をうかがった。
――インタビュー前編の最後にも少し話が出ましたが、本書の特徴の一つは「男女の脳の違い」に着目した上で論を進めているところにあると思います。竹之内さんは、どういう経緯で「脳の仕組み」に興味を持つようになったのでしょうか。
竹之内:この本にも書きましたが、 私自身、男女の脳の違いに気づくまで、空回りの連続でした。たとえば、同じ提案をしているのに、私の場合は通らず、同僚の男性の場合はすんなり通って、「なぜ?」と思うことがよくあったのです。他の女性スタッフを見ても、私と同じような思いをしている人が少なからずいるようにも感じました。
そこで、提案の内容そのものではなく「伝え方」に問題があるのではと思い、書籍や講座を使って心理学やコミュニケーションについて学ぶようになったのがきっかけですね。その後、5、6年ほど、そういった分野を学びつつ、同時に学んだことを実際に「ああしてみたらどうか、こうしてみたらどうか」と試すうち、以前のように男性の上司とぶつかることがなくなっていったのです。
――心理学などを学び、男女の脳の仕組みに気づき、そのことを踏まえて働き方を変えていくなかで、「女性がスムーズに働くためのノウハウ」を見つけていったのですね。本書で「私たちが向かうべき先は、男女が肩肘張り合う世の中ではありません」と書かれていたことも印象的でした。
竹之内:その点は特に強調したいところです。本書を通してお伝えしたいのは、男性を打ち負かすことでも、男性の考え方に従うことでもありません。あくまでお互いの違いを認め合い、コミュニケーションをしていくなかで理解を深めていくために、男女の脳の違いを理解することが重要だということが言いたいのです。
冒頭で「ダイバーシティが実現された企業とは“対話のできる”企業のこと」というお話をしましたが、たとえば男性側の「女性に重要な仕事を任せるのは可哀想だ」という一方的な思い込みだけで、組織の様々なことが決められていくのではなくて、いったん「それは本当に可哀想なことなのか」について、男性と女性、両方の視点を交えて対話する機会をつくる。その結果、「やっぱり可哀想だよね」ということになるならそれはそれでいいと思っています。
――少し話が逸れてしまうかもしれませんが、「思い込み」という言葉が出たのでお聞きしたいことがあります。本書には「仕事、家事、育児の三つ合わせて100点なら合格!」というメッセージが出てきます。このくだりを読みながら、こういう書き方をされているということは、「仕事も家事も育児も、“それぞれ”100点じゃなきゃダメなんだ」と思い込んでいる女性が少なくないのかなと思ったのですが。
竹之内:そういう部分はあります。私がクライアントとしてお会いする女性の方に関して言えば、本当に真面目な方が多い。そして、真面目だからこそ「全部、完璧じゃないと!」と思ってしまう人が多いようです。でも女性にとって重要なのは、何から何まで自分でやろうとすることではなく、うまく周りの助けを借りるということだと思っています。
――どうすれば、うまく周りの助けを借りられるのでしょうか。
竹之内:たとえば自分が時短勤務制度を使っているのなら、退社後のフォローをお願いしている後輩女性に、「いつもありがとう」という感謝の気持ちを込めて、ランチをおごったり、スイーツを差し入れしたりといったことをしてみるといいでしょう。
私はよく「相手矢印」という言葉を使うのですが、相手の立場、視点に立って物事を考え、行動することを心がけると、周囲の反応はガラリと変わります。なので、先の例でいえば「私って大変!」と自分本位に考えるのではなく、まずは「手伝ってくれる人たちに、自分は何をギブできるのか」と考えてみることが、うまく周りの助けを借りるためのポイントだと思います。
――竹之内さんが「相手矢印」の重要性に気づいたきっかけは何ですか。
竹之内:息子に発達障がいがあると分かったのは大きなきっかけでしたね。分かった瞬間はショックでしたが、すぐに「息子をどういうふうに育ててあげたら、彼は幸せになれるだろう」と、彼が向かうべき「ゴール」について考え始めていました。そして、そのことを考えるなかで、私は彼からもう一つ大切なことを教わったのです。
――それは何でしょうか。
竹之内:「自己内対話」の重要性です。自己内対話とは、何か心がザワつくようなことが起きたとき、自分の感情にフタをするのではなく、「なぜ自分はそう感じているのか」を納得いくまで自分に問いかけてみること。
そうして問いかけるなかで見えてくる、弱い自分や逃げたくなるような感情をしっかりと見つめることで、自分の価値観や軸がクリアになるのです。私の場合、息子の将来について自己内対話をした結果、「人からお世話になるだけでなく、“ありがとう”と言われる人生を送ってほしい」というゴールを設定することができました。彼は今、23歳ですが、某小売業のスタッフとして働いています。
――自分の価値観や軸を見つけることが、「相手矢印」にどうつながるのでしょうか。
竹之内:自己内対話の結果、「この軸で行くんだ!」と決断することで、自分の考えや行動に自信を持てるようになります。そしてそれは心の余裕につながる。心に余裕が生まれれば、「私はこう思うけど、あなたはどう思う?」と、他人の価値観やモノサシにも理解を示すことができるようになるのです。それはつまり、相手矢印で物事を考えることができるようになったということです。
――最後になりますが、読者の皆様へメッセージをお願いします。
竹之内:なぜ私が自己内対話を通じて「自分なりの価値観や軸を持ちましょう」と申し上げているのかというと、それは時代の要請だからです。これだけ世の中の価値観が多様化してくると、「自分のモノサシはこれだけど、あの人はどれ?」と、多様性を認め合い、理解し合うために、いくつものモノサシが必要になってくるでしょう。
そして、そこで求められるのが、自分の思いを大事にしながらも、人の思いに寄り添うことができる、という女性脳的な価値観です。
女性脳的な価値観と男性脳的なそれとがうまく掛け合わされ、自然と「みんな違って、みんないい」と言い合えるような社会にしていけたらと思っています。
(了)
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