「10年生き残るのは1割」といわれ、競争と淘汰が激しい飲食業界。
しかし、いつかは自分の店を持ちたいと思う人、すでに店を持っていて、もっと成功させたいと夢見る人は多いだろう。
多くの起業と同様、飲食業も事業のカギを握るのは「資金繰り」だ。ただ、事業を育てていくための資金繰りにはそれ相応の知識と戦略が必要となるのは言うまでもない。では、飲食業で成功するための資金繰りとはどのようなものか。
今回は『1店舗から多店舗展開飲食店経営成功バイブル: 23の失敗事例から学ぶ「お金」の壁の乗り越え方』(合同フォレスト/刊)の著者で公認会計士・税理士の廣瀬好伸さんにお話を聞いた。その後編をお届けする。
――軌道に乗って、事業が順調に回り始めたら、2号店、3号店を出して、いずれ多店舗展開しようということも考えられるようになります。ただ2号店を出すタイミングはすごく難しそうですね。どのように時機をはかればいいのでしょうか。
廣瀬:2店舗目、3店舗目を出すとなると、また新しく融資を受ける必要が出てきます。ただ、開業時もそうですが、事業を起こして日が浅いうちは、融資希望額を満額融資してもらえる可能性は低いんですよ。
だからこそ、ここでも手元資金が必要になります。新店舗を出すのに3000万円融資を受けたいとなった時、たとえば500万円くらいは手元資金がないと希望通りの融資が受けにくい。一方で、その500万円を新店舗に使ってしまって、手元にお金が全然残っていないという状態も危険です。
2店舗目の収支が思うようにいかず、軌道に乗るのに時間がかかることもあるわけですから、それまでカバーできるだけの手元資金を準備できているか、1店舗目の収支が安定しているか、というのが目安になります。「いい物件が見つかったから」「早く2店舗目を出したいから」ということで出すと倒産確率が大きく上がってしまいます。
よくあるのが、1店舗目、2店舗目が軌道に乗ったからということで、3店舗目でより大きな店をやろうとするパターンです。これもリスクが高くて、最初の2店舗の黒字が3店舗目の赤字で吹っ飛ぶということになりがちです。
――融資に関しての銀行の扱いはどのあたりから変わってくるのですか?
廣瀬:これはあくまで一般論ですが、民間の銀行は2年間の実績がないとなかなか融資してくれません。だからこそ、事業を始める時や始めた直後は、先ほどもお話に出た日本政策金融公庫から融資を受けるわけです。そこからスタートして実績を積んで、民間銀行と付き合っていけるようになったら扱いは変わってくると思います。
――民間銀行ということでいうと、本書では銀行側が企業を「格付け」していて、そのランクが融資等の条件に影響するということを書かれていますね。
廣瀬:そこがこの本の一番の特徴だと思っています。正直、日本政策金融公庫からどのように融資を受けるかといったことや開業時の資金面のアドバイスは他の税理士の方もやっていらっしゃいますが、店舗が増えてくると資金面のマネジメントが複雑になり、より高度な知識が必要になってくる。その最たるものが「格付け」なんです。
日本政策金融公庫から融資を受けられる額は限られるので、店舗を増やしていこうと考えると、いつかは民間銀行と付き合わないといけなくなります。だから、それらの銀行とどう付き合っていくかということがすごく大事になってきます。必要な時に民間の銀行から資金調達ができる状態を作り上げるためにも「格付け」は最も重要視すべきです。格付けのランクが低ければ融資の条件は悪くなりますし、格付けが上がれば融資を受けられる金額が増え、返済期間も長くなり、金利も低くなります。だから、「格付け」を上げることを意識しましょうということをまず言いたいです。
――この「格付け」はどうすれば上がるのでしょうか。
廣瀬:「格付け」の基準になるのは決算書です。もちろん、事業の未来を示す「事業計画書」も判断材料にはなるのですが、それよりも「過去の実績」である決算書の方を重視します。だから、「格付けの上がるような決算書」を作らないといけません。
一つ例をあげるなら、「節税」に熱心すぎるのは良くないという話になってきますよね。節税しようとするとどうしても利益を抑えた決算書になります。でも、これは銀行から見ると「業績が良くないのでは?」ということになってしまう。だから、節税のやりすぎは「格付け」の面ではマイナスになりがちです。
会社の決算書は税理士さんが作ることが多いですが、税理士は税金のことは知っていても銀行のことは知らないという方も多いです。だから、節税ばかりを意識した結果「格付けの上がらない決算書」を作ってしまう。
僕は会計士として銀行の監査をやっていた関係で、銀行の内部事情がわかっていますし、格付けの審査資料も見てきましたから、どのように格付けが行われているかをわかっています。それが自分の強みであり、自分の本の強みでもあると思っていて、本の中で「格付けを上げる方法」についてさらに詳しく解説しているので、ぜひ参考にしていただきたいです。
――決算書ということでいうと、経営者は財務三表のうち「損益計算書(P/L)」に目がいきがちです。ただ銀行側が見るのはそこばかりではないようですね。
廣瀬:確かに経営者の方は「損益計算書」ばかりを気にしがちですが、銀行の格付けにおいて重視されるのは「損益計算書」ではなく「貸借対照表」だというのは覚えておいた方がいいと思います。
「損益計算書」が何を表すかというと事業の結果です。それに対して「貸借対照表」はある時点での企業の状態を表すので、融資先の返済能力が気になる銀行側はこちらによりウエイトを置きます。
――「格付け」とも多少関係しますが、融資面などで銀行といい関係を築いていくためにどんなことが必要になりますか。
廣瀬:セミナーなどでお話するのは、「相手を知りましょう」ということです。
好みの異性と親しくなりたかったら趣味だとか好きな食べ物だとか、好みを聞くでしょう。それと同じで、銀行と親しくなりたかったら、銀行が何を好んで、それをどのように提供すれば喜ぶかを知らないといけません。これができている経営者の方は少ないです。
銀行といい関係を築くためのテクニカルなポイントは本の中でいくつか取り上げていて、「複数の銀行と付き合って競争原理を働かせる」「定期的に連絡をとって情報を提供し、突然融資の相談をしないようにする」などがあります。ただ、これらはいずれも「補完情報であって、あくまでも基本は「格付けをいかに上げるか」です。
――最後になりますが、飲食店経営で成功を目指す方々にアドバイスやメッセージをお願いいたします。
廣瀬:廃業率が高いとされる飲食業ですが、僕はこの業界から倒産をなくし、それぞれが個性を伸ばして店舗展開していけるよう支援しています。
廃業や倒産の一番の原因はやはり「お金」で、逆に夢を叶える会社は「お金に強い会社」です。この本ではそうした資金面で助けになる内容にしているのでぜひ読んでいただきたいですね。知っているか知っていないかは大きな違いです。
経営者であればどんな方でも事業に対する情熱や夢や思いがあるでしょう。でも、いくら夢や情熱があっても、お金に強くないと事業はうまくいきません。事業への思いの部分だけではなく資金繰りもしっかりできている「お金に強い会社」を作っていただきたい。そして、夢をかなえてほしいと思います。この本はその一助になると思っています。
(新刊JP編集部)
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