いつの世も権力を求めて争うのは人の常。
特に政治の場での権力闘争は激しければ激しいほどメディアの注目の的となり、ゴシップとして報じられる。
その最たる例が中国だ。長年、ジャーナリストとして中国の表に出ない実情を取材してきた福島香織さんは、著書『権力闘争がわかれば中国がわかる―反日も反腐敗も権力者の策謀』(さくら舎/刊)で、「年がら年中権力闘争をして、経済や社会の安定、外交などに大いに悪影響を与えてきた」として、中国政界における権力闘争の激しさを指摘している。
興味深いのは、その闘争が政治家だけでなく、政治家を取り巻く人々も巻き込んでいる点だ。
■権力者の元に女性を提供「性賄賂」の実態
CCTV(中国の国営テレビ局「中国中央電視台」)は、かねてから中国共産党中央の政治家の妻や愛人の一大供給源とされてきた。そこにいるキャスターは才色兼備の野心家揃い。権力者、あるいはこれから権力者となる人物の妻となる「玉の輿」を狙って競い合っているという意味では、これも一種の権力闘争だろう。
今年6月、温家宝時代に公安部長を務めた周永康が汚職問題で失脚したというニュースは日本でも報じられたが、周といえば「百鶏王」とあだ名されるほど、その絶倫たる精力は知れ渡っていた。党内で大きな影響力を誇っていた周の機嫌を取ろうと、当時CCTVの副局長だった李東生の手によって、同局から多くの美女が周に「性賄賂」として提供されたという。
沈冰、賈暁?、葉迎春らは皆、周のもとに差し出されたCCTVの美人キャスターだったが、特に葉と沈が彼を取り合って争った。
こんなエピソードがある。ある日、沈の上司のもとに「沈冰は清純な見かけをしているが、その実非常なアバズレである」という旨の告発の電話がかかってきた。また別の部署には「CCTVには高級娼婦チームがいる。沈冰らである」と電話がかかってきたという。
沈らが犯人探しとしたところ、どうやらその電話の主は、当時CCTVの看板キャスターだった葉らしいということがわかってきた。葉が周にキャスターを「提供」していた李東生の愛人だということ(つまり李は周と同じ愛人を共有していた)は公然の秘密だったため、李を介して葉に注意したところ、葉は犯人であることを認め、泣いて許しを乞うたという。
実は葉は江西テレビからCCTVに移籍してきた「外様」で、学歴も沈より低い。そのため局内の権力者である李の愛人になることで看板キャスターの地位に上りつめたのだが、その頃の李の関心は沈など他のキャスターに移りつつあった。そのため、沈は、葉が嫉妬からこのような嫌がらせをしたと考えたのだったが、実際は違ったようだ。
当時、周の愛人だったのは沈で、葉の立場は「昔の愛人」だ。その葉はあらためて周に積極的にアプローチし、周からはうるさがられていたという。作戦がうまくいかないことに業を煮やした「昔の愛人」が「今の愛人」に嫌がらせをした、つまり「局内の出世争い」ではなく「権力者の愛人の席の奪い合い」だったというのが真相のようだ。
しかし、葉も沈もついに周の妻となることはなかった。その座を射止めたのは一番年若い賈暁?だったというのは何とも皮肉な話だが、周が汚職の疑いで身柄を押さえられる二日前の2013年11月29日、彼を監視していたとみられるカメラが、北京百盛店の駐車場で彼と葉が逢引きする場面(周と葉が乗り込んだ車が激しく揺れていたとされる)を捉えていたことを踏まえると、葉は最後まで周と深い関係にあったのかもしれない。
2013年から汚職撲滅を進める習近平政権だが、CCTVも「利権の温床」としてその利益供与の構造の解体が進められている。
周永康の失脚もそれと無関係ではなく、彼の失脚に伴って沈冰、賈暁?、葉迎春らも取り調べを受け、表舞台から姿を消したが、2014年に沈が『私と周永康の物語(我和周永康的故事)』と題した暴露本を出版するなど、話題には事欠かないようだ。
本書では、中国政界とその周辺にはびこる人々の権力闘争のエピソードが数多く紹介され、権力のためには手段を選ばない苛烈さを垣間見ることができる。
中には、事実か定かでない情報も混じっているが、それは中国国内の噂や民衆の声であり、別の意味で参考になる。それらはまちがいなく、中国という隣人を理解する助けになるはずだ。
(新刊JP編集部)
関連記事
・
なぜ中国人は世界で嫌われるのか?・
「韓国につける薬はない」倉山満氏インタビュー・
「中国五千年の歴史」は大嘘だった!? 中国の本当の姿とは・
出された料理にハエ…日本人・中国人・韓国人の反応『権力闘争がわかれば中国がわかる―反日も反腐敗も権力者の策謀』(さくら舎/刊)