経営者が経営哲学を語った本は数多あれど、松下電器(現パナソニック)の創業者である松下幸之助にまつわる本ほど読まれている経営者本はそうないだろう。
松下幸之助の言葉は非常にシンプルで、とても素直であり、謙虚だ。だから、人々の心を打つ。彼の言葉は、上に立つ者特有の“嫌み”のようなものがまったくないのだ。
テレビ番組などにも出演している経営コンサルタントの小宮一慶氏が執筆した『松下幸之助 パワーワード―強いリーダーをつくる114の金言』(主婦の友社/刊)は、松下幸之助が遺した114の金句を解説する“名言集”だ。
まず、表紙カバーのそでの部分に書かれているこの言葉から紹介しよう。
「君ならやれる。わしだったらやれないけれど、君ならやれる。」
なんと印象的な言葉だろう。これは、スーパーアイロンの開発者である中尾哲二郎にかけた一言だ。全くの専門外だったアイロンの開発を頼まれ、難色を示していた中尾は、この松下の言葉によってやる気が湧き上がり、見事開発を成功させたというエピソードが残っている。
「君ならやれる」というセリフはモチベーションを高めるときによく使われるが、「わしだったらやれないけれど」という言葉はそう出てくるものではない。松下幸之助のリーダーシップは謙虚さによって支えられていることを感じさせる金言だ。
「いっさいの責任は我にあり。」「それは私の責任です。」
リーダーはチームが失敗してしまったときに責任を負う役目を持つ。しかし、いざそうなったとき、「すべて自分の責任です」と言い切れるリーダーはどれくらいいるだろうか?
著者の小宮氏はこの言葉を取り上げ、リーダーの「覚悟」の重要性を指摘する。リーダーは責任を背負い込んでこそ、責任者となりえる――これも松下幸之助の言葉だ。この強い想いもまた、部下たちをまとめる大きな要素だったのだろう。
「自分の長所にうぬぼれてはならない。自分の短所に劣等感を持つ必要もない。長所も短所も天与の個性、持ち味の一面なのである。」
良きリーダーの特徴の一つに、部下の長所を伸ばすことができるというものがある。しかし、人間たるもの、どうしても短所が目についてしまい、そこばかりを改善するように仕向けてしまう。
最初の項目でも分かるように、松下幸之助は部下のモチベーションをあげる天才だ。本書では、自分と同じ考えのプランを持ってきた部下に「それはいい考えやな!」と声をかけ、やる気を高めたというエピソードが披露されているが、松下電器が世界的企業に成長できたのは、そのような松下幸之助の懐の深さがあったからだろう。
小宮氏は「松下幸之助さんの言葉は、生き方の姿勢に関わるものが大部分です」と言い、ビジネスだけにとどまらず、人生における本物のバックボーンを得ることができるとしている。
確かに、本書の114のパワーワードの中には、「働くとは何か」「幸せとは何か」といったことまで触れられていて、どの言葉からも松下幸之助の「素直さ」「謙虚さ」を読み取ることができる。
あなたの背中を押してくれる一言を、ぜひ本書から見つけてみてほしい。
(新刊JP編集部)
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