突然だが質問だ。あなたはこれから6年間、とある会社で仕事をする。では、以下の3つの賃金の受け取り方のうち、あなたはどれを選ぶだろうか。なお、その6年間で受け取る賃金の総額は同じである。
1)最初は低いがだんだんと上昇する。
2)6年間一定
3)最初は高いがだんだん下降する
これは、行動経済学者のローワンスタインとプレリックが行った調査で、結果、(3)を選んだ人は全体の1割にとどまり、大半は(1)を選んだという。
しかし、キャッシュフローの考え方を用いれば、(1)は合理的ではない選択になる。なぜならお金の価値は「現在」が最も高いので、早いタイミングで高給をもらったほうがキャッシュフローの現在価値は(1)よりも大きくなるのだ。また、初期に給与を再投資にまわして利益を得ることも可能だろうし、途中で退職せざるを得ないような事態が発生する可能性もある。
『お金はサルを進化させたか』(野口真人/著、日経BP社/刊)第3章では、この不合理な選択について触れていく。
年功序列制度の崩壊、実力主義時代の到来と言われて久しいが、今でも年功序列による賃金制度を採用している企業は多い。給与の給与が一番低く、長く働き続けることで上がっていく。つまり最初の問いの(1)の賃金形態だ。
こうした賃金形態を人々が望んでいるとした上で、どうして年功序列型を望む人が少ないのだろうか?
それは、今現在の給与が下がることを「損失」のように受け取ってしまうからだ。
著者の野口氏は、この判断には「効用」、つまり「感情的な満足度」が入り込んでいると指摘する。だから不合理な選択をしてしまうのだ。
また、野口氏は「時間」の感覚についてもう少し深く切り込んでいく。例えば、平均余命と割引率の関係(例えば20歳と80歳の人が現時点で感じるお金の効用が10年後にどのくらい落ちるか、といった話)や、今の自分と10年後の自分は“別人”であるといったことが解説されている。
冒頭の問いは、「早さ」と「儲け」どちらが大切かということを考えるための設問の1つであり、効用に関する判断は変わってくるということが本章では述べられている。
「今」という時点から全てはスタートする。そのときの「最も合理的な判断」とは一体どのようなものなのか。それが、お金を賢く使う知恵であり、その答えが本書に書かれているのだ。
(新刊JP編集部)
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