「ビジネスは数字で考えるもの」とはよく聞く話ですが、実際に、どのように数字を使いこなせばいいのか分からないというビジネスパーソンは多いはず。売上、原価、顧客数といったものから、店舗のある街の人口や世帯数などの周辺データも、ビジネスをするための重要なデータの一つになります。
『数学女子 智香が教える こうやって数字を使えば、仕事はもっとうまくいきます。』(深沢真太郎/著、日本実業出版社/刊)は、数学が得意な“理系女子”柴崎智香と、センス抜群の“超文系男子”木村斗真のコンビが中心となって、ライバル会社との戦いに挑むビジネスストーリーを描いた一冊。
なにからなにまで正反対の2人ですが、斗真のビジネスセンスに、智香が駆使する数字の使い方が重なった瞬間は、推理ドラマで探偵が次々とトリックを解き明かしていくような心地よさがあります。
今回は本書から、ビジネスで数字を使うポイントを2つご紹介しましょう。
■表面に出てくる数字だけで考えない
例えば、1000円の商品と700円の商品がそれぞれ5個ずつ売れたとします。この場合、売上額が多いのは1000円の商品の方ですから、1000円の商品を売るためにもっと力を入れよう!という考えになりがちです。
でも、ちょっと待って下さい。「効率」という観点から見たとき、これは正しいといえるのでしょうか。
本書の舞台であるアパレルショップを例に、「効率のよい働き方」とは、どんな働き方か考えてみましょう。
たとえば、アイテムごとの「粗利益」と、それを売るためにかかる「接客時間」に注目します。
ここでは、細かく正確な数字を使う必要はありません。
今までの経験をもとに、概算でいいので数字を持ち出すことが重要です。
トップスの1点あたりの平均利益が5000円、接客時間10分だとすると、1分あたりの利益は500円になります。
一方で、パンツ1点あたりの平均利益は6000円、接客時間の平均は、丈直しなどがあるので少し長めの30分。するとパンツの1分あたりの利益は200円になります。
たったこれだけの割り算で、トップスのほうが、1分あたりの利益が2.5倍も高いことがわかってしまうのです。
儲けの多い商品がわかれば、あとはそれを意識して接客するだけ。
もし複数のお客様が店内にいたら、トップスを探しているお客様に優先して声をかける。しかも、接客時間は10分を目安にして会話をすれば、利益の高い接客ができるようになります。
「このお客様はパンツを探しているけれど、儲けを増やすためにトップスも一緒にご案内してみようかな。その場合の接客時間は、効率の観点で考えたら〇分程度で収めないといけないな」などと考えながら接客すると、効率が上がるだけでなく、仕事が楽しくなるかもしれません。
「平均利益÷接客時間」という計算だけで、効率のよい接客方法と仕事におけるタイムマネジメントが一度にできてしまうのですから、数字で捉えることがどれほど役立つか分かるはずです。
■やってみると難しくない「回帰分析」
アイスクリームは、どんな日にたくさん売れると思いますか?
寒い日よりも、気温が高くて暑い日のほうがよく売れる、と推測できますね。ここまでは、数字を使わなくても感覚的に「まぁ、そりゃそうだろ」と思うレベルです。
しかし、「気温が△℃だったら、アイスクリームは○個売れる」ということがわかれば、仕入れや店頭レイアウトなどに活かせる、「ビジネスに使える数字」となります。
これを求めるために登場するのが、「回帰分析」です。
「回帰分析」といっても、難しく考える必要はありません。データさえあれば、あとは簡単なエクセルだけで大丈夫。
本書では、「回帰分析」の考え方とエクセルの使い方を会話形式で説明してあるため、誰でも迷わず、すぐに計算することができます。
たとえば、カタログ配布数と売上高、メルマガ配信数とホームページ閲覧者数、バナー広告の大きさとクリック数など、強い相関がある(関連性があると思われる)とわかっているものであれば、回帰分析を使って具体的な数字を求めることができ、次の戦略を立てやすくなるのです。
なんとなく「強い結びつきがあるのだろうな」と思うだけなら誰にでもできます。そこから具体的な数字をとらえて、仕事に活かせるビジネスパーソンが今後、さらに注目されるでしょう。
本書は、ビジネスにおける数字の奥深さとともに、数字を使いこなすための方法を教えてくれます。いずれも実践的なので、どんな業態・業種でも応用できる部分が必ずあるはずです。
私たちの周囲にはたくさんの数字で溢れていますが、時にはその数字に惑わされて、選択ミスを犯してしまうこともあるはずです。難しいからといって数字を遠ざけるのではなく、数字を身近にして上手に使うことが大切。どんなに数字が苦手な人でも、コミカルな会話を楽しんでいるうちに、いつの間にか数字の使い方を身につけられる本書は、まさにうってつけの一冊といえます。
(新刊JP編集部)
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