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フランス現代思想でも紐解ける“嵐が熱狂的ファンを生み続ける理由”

 国民的な人気を誇る男性アイドルグループ・嵐。
 今、嵐のメンバーをテレビで見ない日はほとんどないし、最新シングル「誰も知らない」はオリコン週間シングルチャートで1位に輝いた。これは33作連続、通算40作目の1位獲得である。
 一方ツイッター上では、嵐のメンバーがテレビに登場したり、コンサート関連で何らかの動きがあったりすると、嵐に関連するキーワードがトレンドに並び、時にはネット上で一部の行き過ぎたファンのマナーの悪さが指摘されることもある。

 どうして嵐は、こんなにも熱狂的なファンを生み続けるのか? この人気は一体どのようにして生まれ、成り立っているのだろうか? 嵐ファンでない人も一度は疑問に思ったことがあるはずだ。
 そんな問いに対して、フランス現代思想の研究者が挑んだ一冊の本が登場した。
 明治大学法学部非常勤講師の関修氏が執筆した『隣の嵐くん』(サイゾー/刊)である。

■試験で「私が好きな嵐のメンバーは誰でしょう」と出題
 関氏は明治大学でユニークな講義を展開している。それが正式名称「自由講座」、通称「美男論」だ。
 この講義で行われるのは「嵐のPVを見ること」。もちろん、嵐だけを取り上げるわけではなく、20年にわたって行われてきたこれまでの講義の中では、SMAPやDA PUMP、さらには元サッカー日本代表の稲本潤一選手など、一世を風靡した美男=イケメンたちに焦点を当ててきたという。
 しかし、嵐の分析だけでまるまる一冊、本を書いてしまうのだから、関氏の嵐に対する思い入れはとても深い。
 ある年のこと、嵐のシングル「truth」(2008年リリース)のビデオクリップなどを見てもらい、試験に「関は嵐の中で誰のファンでしょうか」という問題を出題したそうだ。しかも、その問題に正解すれば「漏れなく成績をワンランクアップします」。

 もし、あなたが嵐ファン(アラシック)ならば、「truth」のビデオクリップから推測して、「この関という人は、きっと大野(智)君のファンだろう」と思うかもしれない。なぜなら、この曲は大野さん主演のドラマの主題歌であるからだ。
 しかし、テストの結果、300人の受講者の中で正解した人は、なんと一人もいなかったという。受講者の多くが「大野君」と答えたが、それは正解ではなかったのだ。

■“この5人”でなければ熱狂的ファンを生み出せなかった?
 このテストの出題は、単なる著者のエピソードではなく、実は本書の根幹部分を担う極めて重要な部分である。
 本書はフランス現代思想を代表する哲学者・思想家たち――ジャック・ラカンやジャック・デリダ、ロラン・バルトなどの言説を参照しながら、「表象」という概念を通して、嵐の人気という現象を考えていく。そこで浮き彫りになるのは「ヴァーチャルな最良な隣人」としての嵐の存在だ。
 それは、嵐の先輩であるSMAPが持つセレブと庶民の二元論でもなければ、「会いに行けるアイドル」として親近感を武器にブレイクし、大衆文化となったAKB48とも違う性質を持っている。

 関氏は嵐に「ヒーローやカリスマにならなくとも光る個性、しかもその個性と協調性が対立することなく、絶妙なバランスで『和』の雰囲気を醸し出す、五人五様という多様性の肯定」(本書P219-210より)を見出す。そして、匿名性や画一性に陥ることなく、メンバーそれぞれの顔が見えることに、人々は魅力を感じていると分析する。それを「嵐的(アラシック)」在り方と言うのだ。
 この考察の根拠になるものの一つが、著者によるラカンの「四つのディスクール」理論を応用した、メンバーの分析である。まず櫻井翔さん、相葉雅紀さん、二宮和也さん、松本潤さんという4人のメンバーの関係性を説明し、その上で“リーダー”大野智さんの立ち位置を通して、国民的な人気を誇る嵐独自の在り方を理解する。
 そこから分かることは、嵐が“この5人でなければブレイクできなかった”その理由である。

 本書は、表象文化研究、大衆文化研究を通して、「嵐のブレイク」という現象を分析するという態度で一貫している。この点は、他の嵐の本に限らず、今ブレイクしている人々を分析する本とは一線を画する部分であり、最大の読みどころともいえる。また、「アラシック」に対する批判の分析もなされていたり、ジャニーズにとどまらない他の様々なグループとの比較分析がなされていたりするので、“ファンじゃない人”こそ面白く読み込める一冊だ。
 ちなみに、「関氏の好きな嵐のメンバー」はここでは伏せておくが、その答えと理由を読むと「ああ、なるほど、そういうことか」と思うだろう。もちろん「好き嫌い」は個人的な感情だが、関氏がフランス現代思想を専門としている研究者であるということは、一つのヒントになるはずだ。
(新刊JP編集部)

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