岡山県内でも屈指の広さを持つ真庭市は人口4万6千人ほどで、その面積の8割を山林が占める典型的な農村地域だ。
「木材のまち」、そんな看板が立てられていることからも分かるように、この地域を古くから支えてきたのは林業と製材業だった。しかし今、木材産業は苦境に喘ぎ、全国的にも右肩下がりの産業となっている。
そんな製材業界において、「発想を180度転換すれば、斜陽の産業も世界の最先端に生まれ変われる」と息巻く人物が真庭市にいる。
中央公論新社主催の「新書大賞2014」で大賞に輝い、30万部のベストセラーとなっている『里山資本主義』(藻谷浩介、NHK広島取材班/著、角川書店/刊)は、そんな人物の紹介から始まる。
真庭市に住む中島浩一郎さんは、住宅などの建築材を作るメーカー・銘建工業の代表取締役社長だ。彼は1997年末、建築材産業の衰退を感じ、日本で先駆けてある秘密兵器を製材所内に導入した。
それはなんと、「発電施設」である。この発電施設では、製材の過程で出てくる木くずをエネルギー源として発電を行っている。「木質バイオマス発電」と言われるものだ。まさに、製材所だからこそできる発電といえるだろう。
東日本大震災以来、原子力依存の見直しの声が次々にあがり、自然エネルギーへの移行が叫ばれた。こうした事例を聞くと、「これが原子力発電の代わりになるのか?」と考える人も少なくないはずだ。
しかし、中島さんはそういった議論とは異なる視点で「木質バイオマス発電」に期待を寄せている。それは、会社や地域の経済の活性化だ。
「原発一基が一時間でする仕事を、この工場では一ヶ月かかってやっています」というように、発電量は微々たるもの。しかし、「目の前にあるものを燃料として発電ができている」ことが中島さんにとって大事なのだ。
この発電施設のおかげで、電気代を払わなくてもいい。これで年間1億円の経費削減だ。さらに、あまった電気を電力会社に売ると年間5000万円の収入になる。つまり、年間で1億5000万円のプラスとなるのだ。これだけではない。木くずを産業廃棄物として処理するのにも年間2億4000万円が必要になる。1997年末に10億円の建設費を投入した発電施設は十分すぎるくらいに元が取れているのだ。
時代の最後尾を走っていた製材業。しかし、中島さんは発想の転換で再生を果たした。そしてこれは、“市域の8割が山林”で製材業が盛んな真庭市だからこそできたことなのだろう。
しかし、中島さんの発想はこれだけではない。製材工場から出た木くずの一部を加工し、木質ペレットとして販売している。ペレットストーブやペレットボイラーなどの燃料として用いられ、石油とほぼ同じコストで、ほぼ同じ熱量を得ることができることから、21世紀の燃料ともいわれる。
“木材のまち”真庭市には、可能性がまだたくさんある。その地域の特徴を生かした経済再生の道が開けているのである。
本書ではこうした、「地域からの経済再生」をテーマとした国内外の事例が次々と紹介される。マネーに依存しないシステム、地域の再発見、自然との共生を通しての経済活性などがキーワードだ。その意味で、「里山」という書籍名にも使われている言葉は象徴的だ。
経済が行き詰まりを見せて、混迷を極める現代。私たちは足下にあるものを忘れてはいなかっただろうか。本書は読者から「元気になれる本」という声が届いているそうで、読み手に希望を与えてくれる一冊になっている。『里山資本主義』は世の中を変えていくためのヒント、そして日本という国が豊かになっていくためのヒントが大いに詰まっている。
(新刊JP編集部)
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