「雑草魂」という言葉に聞き覚えはないだろうか。
これは現在、メジャーリーグで活躍する上原浩治投手の座右の銘で、高校時代は控え投手で甲子園も無縁だった自分自身を雑草に喩えた言葉だ。この「雑草魂」は松坂大輔投手の「リベンジ」とともに1999年の流行語大賞にも選ばれ話題となった。
踏まれても踏まれても立ち上がるたくましさのある雑草は度々、人の生き様として喩えられるが、『雑草は踏まれても諦めない』(稲垣栄洋/著、中央公論新社/刊)は、喩えとしての雑草ではなく、道端に生えている本物の雑草の強さを説明する一冊だ。
踏まれてもたくましく立ち上がる雑草。この雑草の強さの秘密とは何なのだろうか。
雑草と大雑把にまとめて呼ばれてしまうが、雑草にも種類がある。踏みつけの強い場所に生える代表的な雑草が、クサイやハマスゲだ。これらの雑草の茎の表面は固く、なかなか切れない。
しかし、茎の内側には、柔らかいスポンジ状の髄がつまっていて、とてもしなやか。つまり、固さと柔らかさを併せ持っている植物といえる。固いだけでは強い力がかかると耐えきれずに折れてしまうが、固さの中に柔らかさがあるから、その頑強な茎はしなやかで折れにくいのだ。
雑草はいわば“逆境を生きる道”を選んだ植物だ。抜かれたり、踏まれたりという生存にとって苛酷と思われる環境こそが彼らの活躍の場であるといえる。
ゆえに、雑草たちは逆境を乗り越える5つの知恵を発達させてきた。それが「適応力」「再生力」「反骨力」「忍耐力」「多様力」の5つだ。
例えば、適応能力のある雑草はヒエだ。田んぼの主要な雑草であるヒエは、茎や葉が作物のイネにそっくりなのだ。
イネは大切な作物、タイヌビエ(田犬稗)というヒエの仲間は雑草、またその種類もまったく別物の両種。農家の人でも一見してイネとタイヌビエを区別することは難しいという。カメレオンやナナフシのように、別のものに姿を似せたりして身を隠すことを「擬態」というが、タイヌビエは作物に似せる「擬態雑草」の1つである。田んぼにたくさんあるイネと同化することで、農家の草取りから身を守ってきた。
さらに、イネの姿に擬態しながら、田んぼの肥料をいっぱい吸って成長し、イネより頭1つ高く茎を伸ばす。そして、穂を出し、花を咲かせ、あっという間に田んぼ一面に種子を落としてしまう。タイヌビエの穂は、稲穂とは似ても似つかないが、農家の人がその存在に気がついた時はもう遅い。田んぼには、タイヌビエの種子がびっしりとまかれていることになる。
「剛」と「柔」を持ち合わせている雑草。環境の変化に反応しながら、雑草自身も生き残るために少しずつ変化していく姿に、たくましさを感じることだろう。
逆境にぶつかったとき、何かにめげそうになったとき、雑草に目を向けてみるのも良いかもしれない。あんなにも過酷な環境でも根を張っている雑草から、心を奮い立たせる「何か」を得られるはずだ。
(新刊JP編集部)
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