日本人ならば誰でもかるた遊びなどで親しんだことがある「小倉百人一首」。
何首か知っている和歌があるかもしれないし、競技かるたをやっている人であれば全首暗記している人もいるはずだ。
自然の美しさを詠んだものもあれば、恋の切なさや苦しさを詠んだものもある。1首目から読むとさまざまな和歌がちりばめられている印象を持つ百人一首だが、「実は本来あるべき別の順序があったのではないか」とするのが『秘められた真序小倉百人一首 1000年の歴史ミステリー これこそ真の小倉百人一首か?』(野田功著、幻冬舎刊)だ。
テーマや表現、そして口に出して読んだ時の語感から、百人一首はいくつかのグループに分けることができる。すべての和歌を丹念に検討し、順序を入れ替えた著者の野田さんは、小倉百人一首を「一つの壮大な100行詩」だと結論づけた。
野田さんによると、100首を大別すると、遠島にある天皇を想う60首と、式子内親王へのかなわぬ恋心が秘められた40首に分けられるという。野田さんは前者を小倉百人一首の「第一部」、後者を「第二部」と位置付けた。
そして「第一部」は、「やまとの国の自然や風物を描いたもの」、「やまとの自然から浮かんだ思いを詠んだもの」、「遠島の天皇への思慕を詠んだもの」と3つの章に大別される。「第二部」は「恋の始まりとその行く末を詠んだもの」と「しのぶ恋、かなわぬ恋を詠んだもの」の2つの章に分けられる。こうして、100首を整理し、並べ替えると驚くべき規則性と叙事詩性が立ち現れてくるという。
たとえば、小倉百人一首の最初の4首は ・秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ わが衣手は 露にぬれつつ(天智天皇)
・春すぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山(持統天皇)
・あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を ひとりかも寝む(柿本人麻呂)
・田子の浦に うち出でてみれば 白妙の 富士のたかねに 雪は降りつつ(山部赤人)
となっている。
しかし、野田さんが並べ替えた「真序版」では、
・君がため 春の野にいでて 若菜摘む わが衣手に 雪は降りつつ(光孝天皇)
・春すぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山(持統天皇)
・秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ わが衣手は 露にぬれつつ(天智天皇)
・田子の浦に うち出でてみれば 白妙の 富士のたかねに 雪は降りつつ(山部赤人)
である。4首のうち3首は共通しているが、柿本野人麻呂の歌を光孝天皇の歌と入れ替えて順番を変えると、春夏秋冬という季節の移り変わりが鮮明な歌の集まりとなる。歌の最後も「~つつ」がそろい語感がいいし、「衣手」「白妙」といった共通のワードも出てくる。順番を入れ替えたことで、テーマと語感とイメージがマッチした、歌の美しいワンセットが出来上がるのだ。
『秘められた真序小倉百人一首』では、このような歌のセットが節となり、章となって、最後に一つの壮大な叙事詩の様相となる。
それぞれの歌を個別に見ているだけでは絶対にわからない、100首をある順番で通して読むことではじめて体験できる世界観は圧巻。百人一首に親しんだことがある人であれば、没頭できる一冊である。
(新刊JP編集部)
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