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日本でイノベーションはなぜ起きない?その本当の理由

  • 書名 「見えない資産」が利益を生む: GAFAMも実践する世界基準の知財ミックス
  • 監修・編集・著者名鈴木健二郎
  • 出版社名ポプラ社

バブル崩壊後の「失われた30年」から未だに脱却できない日本だが、新興国の追い上げのなかで世界経済から取り残されつつある現状を変える活路は、案外さまざまな企業の中で、誰にも注目されることなく眠っているのかもしれない。

『「見えない資産」が利益を生む: GAFAMも実践する世界基準の知財ミックス』(鈴木健二郎著、ポプラ社刊)は、特許や商標権、ノウハウやブランド力といった、広義の「知財」を組み合わせ、活用することで新たな価値を生み出す「知財ミックス」を推奨。これこそが、日本経済が低迷から脱却するカギだとしている。

日本経済の低迷がここまで長引いた理由もまた「知財」と無関係ではない。「失われた10年」はなぜ「失われた30年」に延びたのか。そして、知財を活用して日本が蘇るために、企業はどんなことをすべきなのか、鈴木さんにお話をうかがった。

■日本でイノベーションが起きない真の理由

――『「見えない資産」が利益を生む: GAFAMも実践する世界基準の知財ミックス』についてお話をうかがえればと思います。この本を書くにあたって鈴木さんの頭にあった問題意識のようなものがありましたら教えていただきたいです。

鈴木:問題意識に直結するかどうかはわからないのですが、リーマンショック直後の2009年から2011年にかけて、私は三菱UFJ銀行に出向していたんですね。

当時、経済環境の悪化を受けて日本のそうそうたる企業が経営難に陥っていました。JALさんですとかSHARPさん、パナソニックさん、ソニーさんなど、誰でも知っているような代表的な企業も経営が苦しくなっていた。

ただ、世界を見渡すとそれでも元気な会社はあったわけです。なぜ大勢の優秀な技術者や貴重な知財を生み出している日本の企業がこんな目に遭わなければならないのか、というのは銀行員の立場で思っていました。これはどうにかしなければならない、と。

――リーマンショックはもう10年以上前の出来事ですが、日本企業は依然として元気がない状態が続いています。それは、本の中で鈴木さんも指摘されていましたね。

鈴木:ええ、本の中で1989年と2023年の時価総額ランキングを比較しているのですが、1989年時点ではトップ50のうち30社以上は日本企業だったんです。それが、2023年には1社もランクインしていません。バブル崩壊後の「失われた30年」がよくわかるランキングになっています。

――1989年のランキングではトップ10に日本の金融機関が4社入っていたのですが、2023年のランキングには入っていません。一方でアメリカや中国の金融機関はランキングに入っています。日本の金融機関の凋落はなぜ起きたのでしょうか?

鈴木:金融工学を駆使した新しいファイナンスのスキームを海外の金融機関はものすごい勢いで開発し、稼ぐしくみを整えているのと比べて、日本の金融機関はこの分野での立ち遅れが目立っているのが実情です。

アナログからデジタルへの移行が進んでいない業界でIT人材が少ないですし、世界のトップクラスのイノベーション人材が入ってくるわけでもない。そういった要因から成果が出せなくなっているということはいえると思います。

――本書で鈴木さんは日本経済の「失われた30年」を総括されています。当初「失われた10年」と呼ばれていたものが20年30年と伸びていってしまった原因について、鈴木さんのお考えを改めてお聞きできればと思います。

鈴木:さまざまな原因があると思います。政府の政策が後手に回ったこともありますし、企業もデフレ環境から脱却できませんでした。

ただ、政府の政策や市場の変化を要因として挙げる経済学者はたくさんいますが、それは私の役割ではないと思っています。こうした外的要因がありながらも個人や企業レベルで何ができるのかを考えてこの本を書きました。

というのも、「失われた30年」は、経済が低成長だった30年ということだけではなく、イノベーションが生まれなかった30年でもあるからです。個人や企業に着目するのであれば、日本の凋落を防ぎ復活させるために打つ手はたくさんあります。私がこの本で提唱しているのは新しい切り口で、「宝の持ち腐れ」になっている知財を生かしてイノベーションを起こし、新しい価値を生み出しましょうということです。

――日本は新しい産業を生み出せていないこと、イノベーションを起こせないことなどが指摘されています。これは知財の活用が十分にできていないことと関係があるのでしょうか。

鈴木:あると思います。イノベーションには3段階あって、1段階目は技術やアイデアを生み出す段階なのですが、ここは日本は得意なのです。それがよくわかるのが特許の件数で、日本は中国、アメリカに次いで世界3位です。

――イノベーションを起こすための下地はあるわけですね。

鈴木:その通りです。ただその技術やアイデアをサービスや商品に置き換えて「稼げるネタ」として市場に出していく、という2段階目と、ビジネス上の対価を獲得するという3段階目が弱い。

この3段階がすべてそろって初めて一つの産業が生まれるのですが、アイデアや技術を生かすことができなかった結果、日本を引っ張っていくような新しい産業を生み出すことができなかったというのがこの30年だったのだと思います。

――なぜ日本はイノベーションの土台となる技術やアイデアはあるにもかかわらず、それを使って新たな価値や産業を生み出すのが苦手なのでしょうか。

鈴木:企業やそこで研究をする研究者に「バックキャストの思考(最初に目標とする未来像を描き、その未来像を実現するための道筋を未来から現在へさかのぼって考えること)」がないからだと思います。

たとえばアップルが20年後、30年後にこういう社会を作っていきたいから、今のうちにこういう研究開発をやろうという視点で開発テーマを設定しているのに比べて、日本は先輩から引き継いだ研究テーマをそのままやっていたりするわけです。どうしてかというと、その方が組織側は主従関係を作りやすいですし、先輩が後輩の研究成果についてレビューしやすいんですね。

ただ、自分たちが今まで培ってきた研究を後の世代が引き継ぐというやり方だけではイノベーションは起こりにくい。成果はたまっていくものの、それを何かに生かそうという頃にはもう時代が変わってしまっていたりするわけです。

――先輩から引き継いだ研究を地道に進めるだけではイノベーションは起こせないというのはよく理解できるお話です。

鈴木:だから、日本の企業にはバックキャストの視点が必要で、20年後にどんな未来を作るかというところから研究開発のテーマを設定することが必要だと考えています。

未来の社会がどうなっていて、そこで日本はどんな技術で勝っていくのか、そこに対してうちの会社はどういうポジションで事業を作っていくのか、と逆算することで今後5年間の研究テーマが見えてくるわけです。

(後編につづく)

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