資産として土地を所有している地主にとって、日本の高い相続税率は悩みの種。土地を活用せずに遊ばせたままでは「相続が三代続くと財産がなくなる」という言葉の通り、相続を重ねるごとに資産が減っていってしまう。
そうならないためにも、土地を活用し、土地から収益を得ることが必要、と説くのが『地主の決断 これからの時代を生き抜く実践知』(サンライズパブリッシング刊)だ。
今回は著者の松本隆宏さんにインタビュー。地主をとりまく厳しい環境と、それに負けないための方策、そして地主に必要とされる能力についてお話をうかがった。その後編をお届けする。
――本書では土地活用として賃貸用物件の運営を推奨しています。このメリットはどんなところにありますか?
松本:まずは先ほどのお話にもありましたが、賃貸物件を建てることで土地の資産評価額が下がることです。1億円持っていたら1億円のままですが、1億円で賃貸物件を建ててしまえば資産としての評価は下がるので。
また、その物件を建てるのに長期かつ低金利の借り入れができることです。今は1%とか2%の金利で借りられますからね。30年ローンを組んでその物件からの家賃収入で返済していけば、30年後には建物が無借金で残るわけです。もちろん、家賃という安定収入を得られるのもメリットですね。
――賃貸物件を建てるのに向いていない場所に土地を持っている地主の場合、その土地を売って現金を作ってから、都市部にマンションを建てるということになるのでしょうか?
松本:そうですね。郊外に土地を持っていたり、あるいは郊外にすでに物件を持っている方には、それらの資産を現金にして、街の中心部に建物を買っているケースが多いです。
――代々受け継いできた土地を売ることに対して抵抗を示す地主もいらっしゃるのではないですか?
松本:みなさん最初は抵抗感があるようです。でも、先祖代々といっても先祖の誰かが取得した土地ですからね。売って終わりは良くないですが、売って別のものと交換していけばいいんじゃないかと考えています。
―― 一方で、地主は相談できる人が少なく孤独な印象も受けました。
松本:おっしゃる通りですね。悩みがあっても自分が相談することで情報がどこかに漏れるのが怖くて相談できない人もいますし、知り合いや親族が原野商法に騙された話を聞いて、「自分は騙されるものか」とそもそも人の話をシャットダウンしてしまう人もいます。
正しい知識があれば相談することも怖くないですし、誰かの話をすべてシャットダウンする必要もないはずなのですが、誰も信じられないとか味方がいないという孤独感を持っている地主さんは多いはずです。
――本書のメッセージとしては土地を遊ばせずに活用しましょうというのと、相談できる人を作りましょうというのがあるのですか?
松本:土地活用については私じゃなくてもいろんな人が言っていますからね。「信頼できる味方を作りましょう」というのが今回の本の最大のメッセージです。
地主って中小企業の経営者と似ていて、税理士とか銀行とかいろいろな人と付き合いがある一方で、事業全体について包括的に話せる人があんまりいないんですよ。そういう人を作るといいですよ、というのはお伝えしたいですね。
――「相続税対策」ばかりに必死になって「経営の改善」という視点が抜け落ちている地主が多いという指摘は納得できるものでした。相続税対策という「守り」に重心を置きすぎることの弊害について教えていただきたいです。
松本:その場しのぎの決断をしやすくなると思います。たとえば、相続対策で10億円くらいの物件を買って賃貸で家賃収入を得ましょうとなったときに、10億円のビルを1棟買えば納税額はだいぶ圧縮できます。
それは確かなのですが、その1回の取引で何を覚えるかというと何も覚えないんですよ。それなら3億円、3億円、4億円で3棟買った方が、物件もたくさん見ることになりますし、融資の申し込みの回数も重ねますし、知識や経験、ノウハウとして身につくものが多いはずです。そうした無形の知識も子の代に受け継ぐことができる。
目先のことだけ考えたら10億円で1棟買った方がいいんでしょうけど、3棟に分散した方がいつか売る時も身動きがとりやすいですし、経験として学ぶものも多い。長期的に見てどうかと考えるのが経営じゃないかと思っています。
――最後に、本書の読者となる地主の方々にメッセージをお願いいたします。
松本:「迷った時ほど遠くを見ましょう」ということですね。地主の資産は自分一人のものではなく一族のものなので、だからこそ質の高い選択をしてほしいと思っています。
前の代が変な選択をして、子の代が困るというケースを私はたくさん見てきているので、迷った時ほどお子さん、お孫さんの代のことを考えて、長期的に見てメリットのある決断をしていただきたいです。そして、一人で何でも決断するのではなくて、信頼できる味方を見つけてジャッジしていくのが大事です。誰と手をつなぐかが地主にとって一番大事なのではないかと思います。
(新刊JP編集部、監修/税理士法人 深代会計事務所 副所長・横山洋昌)
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