営業職にとって「商品・サービスをどれだけ売ったか」という営業成績は、自分の給料に跳ね返ってくる重要な指標だ。だから、一つでも多く売りたい、1円でも多く売りたいという気持ちは当たり前なのだが、「売りたいオーラ」が出過ぎると、かえって相手を警戒させ、敬遠されてしまう。誰も、よく知らない人からモノを売りつけられたくはない。
だからこそ、優秀な営業ほど「商品ではなく自分を売る」と言われる。初めから売ろうとするのではなく、まずは自分という人間を好きになってもらう。「この人が売っている商品なら買いたい」と思ってくれるようになれば、結果的に商品は売れる。営業として一流とされる人は、多かれ少なかれ「ファン」に支えられている要素があるようだ。
でも、やはり疑問だろう。
「じゃあ、どうやってファンを作るのか?」
リクルート、プルデンシャル生命でトップ営業マンとして鳴らした川村和義氏が自身の営業手法を明かす『ラーメンを気持ちよく食べていたらトップセールスになれた』(WAVE出版刊)に、こんなエピソードがある。
川村氏がプルデンシャル生命の支店長だった頃、通い詰めていた中華料理店のおかみさんから保険についての相談を受けたことがあったという。おかみさんは川村氏の仕事については知っていたが、川村氏はその店で生命保険の話をしたことはなかった。
どうしても、と言われたため、川村氏は自分の部下たちの中から担当を選んで欲しいとおかみさんに伝えた。ちなみに、部下たちも店の常連で、おかみさんとは顔見知りだった。川村氏は、彼らの店での振る舞いを判断材料に、担当営業を選んで欲しいと言ったわけである。
というのも、川村氏は常日頃から「ラーメン一杯でも、緊張感をもって、気持ちよく食べなさい。たまたま相席した人が『あなた旨そうにラーメン食べるね。あなたから保険入ろうかな』と言ってくれるかもしれないのだから」と部下たちに指導していた。
もちろん、ラーメンを食べる姿を見て保険に入ろうと思う顧客は、実際にはほとんどいないだろう。しかし、どんな人がどんな時に顧客になるかわからない以上、どこであろうと気を抜かずにいよう。普段の生活でできていることしか、お客さんの前ではできないのだから、というのが川村氏の考えだった。こうしておかみさんが部下のなかから選んだ3人は、案の定、支社のトップ3だったという。
かならずしも、SNSのフォロワーを増やしたり、セミナーや勉強会で名刺を配ることだけがファンを作る方法ではない。ファンをつくるチャンスは、足元の生活の中にたくさん転がっているものなのだ。
◇
ただ、営業はそもそも迷惑がられて、嫌われることが多い仕事である。この「嫌い」を、どうやって「好き」にするかが、ファンをつくるためのポイントだろう。
本書では、営業が嫌われる理由を分析した上で、その理由を「好ましく思われる武器」に変えることで、「また会いたい営業」「この人から買いたいと思われる営業」になる手法が明かされる。
川村氏が周囲から応援される営業の特徴として
・明確な目標を持っている人
・全力でがんばっている人
の二つを挙げているように、ファンづくりは「ノウハウ」でうまくいくものではない。川村氏が本書で提示しているのは、自分の人間性から磨き直すための、一つのきっかけだろう。
(新刊JP編集部)
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