20世紀最高の物理学者と呼ばれるアルバート・アインシュタイン。今なお科学の世界に絶大な影響を与え続けているこの偉人が、1922年11月17日から12月29日までの約1ヶ月半の間、日本に滞在していたことを知っているだろうか。
1922年から1923年にかけて、アインシュタインは妻エルザとともに日本、パレスチナ、スペインをめぐる船旅に出た。
そのきっかけは日本の出版社である改造社からの招聘だったが、アインシュタイン自身、当時自分がドイツで危険に晒されていたことを認めつつ、極東に対する「憧れ」を抱いていたようだ。1922年12月20日に当時東京に駐在していたドイツ大使のヴィルヘルム・ゾルフにあてた手紙の中に次のような言葉を書いている。
私が日本招聘をお引き受けした理由はおもに極東への憧れではありますが、別の理由として、ひんぱんに私が困難な状況に陥ってしまう私たちの母国の緊張状態からしばらく避難する必要もございました。(草思社『アインシュタインの旅行日記:日本・パレスチナ・スペイン』p.240より)
「憧れ」とつづった旅行先の日本に対してはどのような印象を持っていたのか。
この旅行の間に書かれた日記・手紙類をまとめた『アインシュタインの旅行日記:日本・パレスチナ・スペイン』(アルバート・アインシュタイン著、ゼエブ・ローゼンクランツ編集、畔上司翻訳、草思社刊)は、驚くほどにポジティブな日本に対する感情を覗くことができる。
例えば1922年12月17日に長男ハンス・アルバートと次男・エドゥアルドに送った手紙においては次のように記している。
日本人のことをお父さんは、今まで知り合ったどの民族より気に入っています。物静かで、謙虚で、知的で、芸術的センスがあって、思いやりがあって、外見にとらわれず、責任感があるのです。(同書p.238-239より)
まさに「絶賛」といった具合だ。
日光に滞在していた12月5日の日記ではこんな記述が見える。
日本人はイタリア人と気性が似ているが、日本人のほうが洗練されているし、今も芸術的伝統が染みこんでいる。神経質ではなくユーモアたっぷり。(同書p.183より)
もちろんこのような最高度にポジティブな記述だけではなく、「ここの国民は知的欲求のほうが芸術的欲求よりも弱いようだ。――天性?」(同書p.184より)とあるように、日本人は知的好奇心が欠如しているのではないかと考察するシーンもある。
しかし、日本滞在中の日本に対する印象は最初から最後まで非常に良く、「皮肉や疑念とはまったく無縁な純然たる尊敬の心は日本人の特徴だ。純粋な心は、他のどこの人々にも見られない、みんながこの国を愛して尊敬すべきだ」(同書p.187より)とまで記しているのだ。
このアインシュタインの極東・中東をめぐる日記はもともと公表される意図なく書かれており、2018年に初めて英語版で出版された。その際には、この中でつづられていた中国人やスリランカ人に対する辛辣な心情に対して「人種差別的だ」という批判もあがっている。
そして、アインシュタインによる日本人像も来日前はポジティブなものではなかったようだ。
日本に向かう船の中で出会った日本人を見て、「ほとんど〈一定の型にはまっている〉みたいだ」(同書p.149より)「日本人は非常に敬虔。国家イコール宗教という不気味な連中」(同書p.156より)とつづっている。
では、アインシュタインは日本で何を見聞きし、感じ、どんな人たちと交流をしたのか。
その詳細は、ぜひページをめくって彼の言葉を読んでみてほしい。
アインシュタインという歴史上の偉人の感性、そして思考が一つ一つの文章から感じられるはずだ。
(新刊JP編集部)
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