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人格攻撃は「絶対NG」! 正しい批判の仕方とは? 前川喜平×谷口真由美対談(1)

  • 書名 ハッキリ言わせていただきます! 黙って見過ごすわけにはいかない日本の問題
  • 監修・編集・著者名前川喜平、谷口真由美
  • 出版社名集英社

理不尽だらけの日本社会とどう向き合うべきか。
元文部科学事務次官として文部科学省の事務方のトップだった前川喜平氏と、法学者で全日本おばちゃん党代表代行の谷口真由美氏による対談本『ハッキリ言わせていただきます!』(集英社刊)が、出版2週間あまりで重版になるなど話題だ。

本書は「批判の方法」に始まり、教育や政治、社会、憲法などさまざまなテーマを二人が論じていく。関西弁で次々と問題にツッコミを入れる谷口氏と、自身のバックボーンを下敷きに淡々と政と官の内実を語る前川氏。その二人の切れ味は本書の読みどころだ。

今回、「プチ全国ツアー」として、2月下旬に大阪・東京・那覇で行われた出版記念イベントの合間をぬって、二人にお話をうかがった。
(新刊JP編集部)

■二人は「お互いに気を使って話をしている」?

――本書はお二人の対談本になりますが、もともとは大阪のABCラジオでの対談がきっかけで本を作りたいという話になったそうですね。

谷口:これは私が一方的に「一緒に本を出したい!」って言ったんですよ(笑)

――ラジオ収録が初対面だったそうですが、それぞれの印象はいかがでしたか?

前川:(隣にいる谷口さんをチラッと見て)これはね、本人には内緒ですよ? 意外に可愛い人だな、と。

谷口:分かってますね(笑)。そうなんですよ。私の前川さんの印象はこんなにユーモアのある人なんだと驚きました。元お役人さんですから、すごく硬派なイメージがあったんですよ。

前川:まあ、文部科学事務次官とかやっていましたからね。

谷口:テレビで国会中継を見ていて、堅い人なんやろうなと思っていたんですよ。でも、すごく笑うし、その笑う顔を見て「ええ、笑ってる!」みたいなノリでした。

――では、実際にお話をされていかがでしたか?

前川:テレビでコメンテーターとして出演される谷口さんを拝見していて、僕が言いたいことをどんどん言ってくれる方だと思っていたので、やはり波長が合うと思いましたね。

谷口:うん、合ってる! 実は昨日、大阪でこの本の出版記念イベントがあったんです。そこでは「お互いが気を使ってお話されているのが印象的でした」なんていう感想をいただいたのですが、気を使っている感覚はなくて2人のテンポですね。

――昨日行われた大阪のイベントはどのような話で盛り上がったのですか?(*1)

谷口:2月24日に行われた沖縄の県民投票の結果ですね。あとは、この本の70ページに出てくる金髪の高校生。その子が壇上に来てくれはったんですよ。「ご本人登場~!」という感じでサプライズ感がありましたね。

(*1...このインタビューは2月25日に行われた大阪での出版記念イベントの翌日に行われた)

前川:これがすごく爽やかな好青年なんです。

谷口:すごくしっかりした子なんですよ。壇上に立っても堂々としていて。

前川:何のてらいもなく、普通にお話されていましたよね。

谷口:そうなんです。政治に関心があって自分で行動を起こすような、いわゆる戦うタイプではないんですけど、「何で金髪にしたらアカンの?」という疑問をしっかりと口に出せる高校生ですよね。

――本人が正しいと思うことを裏付けてちゃんと疑問を言えるというのはすごいです。

前川:おかしいことをおかしいと言える青年ですね。今はおかしいことをおかしいと思わせないようにする人が多いなかで。

谷口:そうなんですよ、都会の鳩のような人が多いですよね。都会の鳩って自動車が近づいてきても全然逃げへんでしょ。でも、私が「鳩!」って言うとビックリして逃げていく。自動車の方が私よりも全然強いんですけどね。

前川:都会の鳩って、良い比喩ですね。自分を潰そうとするものが迫っているのに気づかない。

谷口:そうです。都会の鳩って餌が豊富にあったりするから生きていけるんですよね。でも、危機に対する勘がすごくにぶくなっている。その意味ではカラスは鳩よりも利口ですし、よほど危機感もある。鳩を見ていると心配になりますよ。

――本書の冒頭で日本人の批判力のなさをご指摘されていますが、それに対する危機感がひしひしと伝わってきました。

前川:谷口さんによる「批判お作法5か条」(*2)からこの本は始まるわけですけど、ちゃんと批判ができていない人が多いと思います。

私も講演する際には事実に基づいて「これはおかしい」と言っていますが、あるとき安倍首相の言動を批判したら「前川さん、どうして安倍さんのことを個人攻撃するんですか?」とあとで聞いてきた人がいたんです。

私は個人攻撃をしたわけではないんですよ。安倍内閣の政策も評価すべきものは評価しています。例えば2017年度から導入された給付型奨学金制度は、政治の力がなければできない画期的な制度です。教育政策史という学問があれば、その学術書の中に書かれてしかるべき出来事でした。

その一方で「道徳」の教科化であったり、加計学園問題や森友学園問題については、批判をしなくてはいけない。加計問題では明らかに虚偽と思われる答弁を国会でしているのに、それを指摘しただけで人格攻撃と受け止める人もいるんです。

(*2...「批判のお作法 5か条」本書p.15より
第1条...批判されてもキレない
第2条...批判は「事象」「事柄」「発言」などについてすべし。人間性への攻撃はNG。
第3条...批判は「事実」に基づいてすべし。根拠が思い込みや固定観念はNG。
第4条...批判は「愛」が必要。その先に「よりよくなる〇〇」(〇〇には社会、会社、学校、地域など)があるべし。うっぷん晴らしはNG。
第5条...批判には「責任」がともなうべし。公益通報などの匿名性は守らなければならないが、安全地帯からの匿名での言いたい放題はNG。)

谷口:それは不思議な方ですね。

前川:人間そのものを攻撃しているわけではないんですよ。言ったことややっていることに対する批判ですからね。

谷口:2013年に当時大阪市長だった橋下徹さんが従軍慰安婦について発言されたときに、橋下さんのご家族を侮辱するようなことを言った人がいたんです。それは違うでしょ、と。

ご本人の言っていることに対して批判するのではなく、ご家族の存在を出すような感性は批判ではなくて、ただの攻撃です。私はそういうことをする人が大嫌いなんですよ。思想の左右関係なく言ってはいけない境目が大人でも区別がつかないんだなと、この数年色々な場面で感じますし、それは怖いですよね。

――言っちゃいけない言葉を簡単に使ってしまう人もいますよね。

谷口:そうなんですよね。特に政治では言ったらいけない言葉を平気で言う人がいますからね(笑)。でも、それに対して批判をすると、その方のファンから「人格攻撃だ!」と攻撃を受ける。

こちらは今までいろんな人権問題をずっと見てきて、いろんなものに則って「それはダメですよ」と言い続けてきたけれど、同じように「それは言ったらいけないでしょ」と指摘すると、「谷口が麻生(太郎)を攻撃している」という言い方をされるんです。

私は麻生さんを攻撃しようと思っていないし、彼に愛着もないです。でも言わないといけないことだから言っているわけで、言わないで社会の息苦しさを引き継ぐことはまかりならんと思うんですよね。

前川:好き嫌いと混同してしまいがちだけど、それとは別にしないといけませんよね。

■政治家の皆さん、言っていることが変わってませんか?

――前川さんは文部科学省にいらっしゃいましたが、おそらくちゃんと議論ができる俎上ができていたと思います。でも多くの日本人は「議論慣れ」していないというか、意見を戦わせることに慣れていないように感じます。

前川:政策をつくるためにはまず現状を把握し、ファクトを見定めることが大切です。そして、あるべき姿は何か、達成すべき目標は何かを共有する。教育行政であれば、「意欲と能力のある子どもたち、青年たちが、自分たちの学びたいことを学べるようにするにはどうすればいいか」――学習権の保障という憲法が求めている"国がなすべきこと"があります。その大きな目的に照らして、現状をどう変えていけばいいか、最も望ましい道筋は何かを考える。

しかし、その一方で財政的、制度的な制約もありますから、できることとできないことがあります。数ある選択肢の中から来年度予算でどのくらいまで進めるか。そうやって政策をつくっていくわけですが、そこにはファクトと目的と論理があるんですね。

ただ、(政策を)最終的に決断するのは政治です。国会議員や大臣は国民の皆さんが選んでいますから、国民の代表ですよね。憲法の前文にも「国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し」と書かれています。

役人も憲法15条で「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利」とありますし、私も試験で選ばれたとはいえ国民に雇われていて、国民のために仕事をしてきたつもりです。でも誰が責任を負うべきなのかというと、それは選挙で選ばれた人です。彼らがもし間違えた判断をしたならば、国民が次の選挙でその人を落選し、別の人を選ぶということをしないといけない。それは政策を最終的に決断するのは政治だからです。
ところが、往々にして政策判断に色々な醜い思惑が入り込んでしまうことがある。お友達のために獣医学部をつくってあげたり。

谷口:結局、四国枠の合格者は何人でしたっけ?

前川:四国には獣医学部がなくて困っているから特別に新設を認めるんだと言っていたはずなのに。

谷口:そうすると、四国枠の学生が集まるという見込みを持って新設しているはずなんです。それがファクトですよね。

前川:ですが、その理屈が全く成立していないことが分かってしまった。こういう判断は政治の世界では多いんです。こうなると役人は困ってしまうわけです。

もう一つ例をあげると、沖縄県の八重山地区で公民教科書の採択でもめたことがありました。八重山地区の協議会で多数派が推した育鵬社の公民教科書を、竹富町という自治体の教育委員会が「使わない」と拒否したわけです。最終的にはそれぞれの自治体が使いたい教科書を使うという決着になりましたが、途中政治の世界から「この教科書を使え」という圧力が入っています。ひじょうに無理筋な政治の介入でしたね。

谷口:それは筋が悪いですよね。ただ、無理筋でも政治的決断をして上手くいったケースもおそらくありますよね。

前川:政治決断で役人だけでは到底実現できなかったケースが実現できたケースもあります。例えば古い話ですが、昭和49年、森喜朗さん、河野洋平さん、西岡武夫さんといった当時若手文教族といわれていた自民党の政治家たちがとんでもないことを成し遂げています。

なんと全国の小中学校の教員の給料を25%アップさせたんですよ(*3)。

(*3...文部科学省「教員給与改善の経緯等一覧」によれば、予算上25%の改善がみられている。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo1/gijiroku/07022616/001/006.htm

谷口:それはすごい!

前川:教育に熱心な政治家たちが、「良い教師を集めるには給料を上げないといけない」と言ったんですね。こんなことは役所に任せていたら絶対できないですよ。民主党政権下では、高校授業料無償化もやっていますよね。これも政治の力がなければできないことです。年間4000億円必要になる政策ですから、文部科学省と財務省がちまちまと折衝したところでまず実現不可能。

こういう大きな決断は政治にしかできません。ただ、その一方で、大胆不敵で国民のためにならないようなことも時々するのが政治なんです。憲法15条第2項に「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない」と書かれていますが、総理大臣も国会議員もみな公務員ですからね。全体の奉仕者であるはずなのに、一部の人たちのために権力を行使してしまっている。

谷口:それをファクトでツッコんでいるのに、「そんなことはしていません」と。「私や妻が関係していたということになれば、まさにこれはもう私は、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員もやめるということははっきりと申し上げておきたい」(*4)と安倍さんは言っていたのに、いつの間にか「関係」の定義が変容していたんですよね。

(*4...第193回国会 予算委員会 第12号 平成二十九年二月十七日(金曜日)より
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/193/0018/19302170018012a.html

前川:金品の授与がある「関係」になっていましたね。

谷口:最初は奥さんが口利きをしたとか、本当に寄付をしたとか、そういう話ですよね。大半の人は「あ、そんな話やったっけ」って思ったと思います。でも、ずっとウォッチしている身からすると、「ああ、ここで騙される人おるわ」って分かるんですよ。そこでツッコミを入れる、つまり「言っていることが変わってませんか?」という批判をする声が大きくならないといけないのに、逆にもう忘れられてしまっているから「賄賂もらってないし、ええねん」という話で落着しちゃった。

(後編に続く)

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