「介護難民」という言葉を知っていますか?
「介護難民」とは、介護が必要な「要介護者」に認定されているにもかかわらず、施設に入所できない人で、なおかつ家庭においても適切な介護サービスを受けられない65歳以上の高齢者を指します。
2025年には、介護難民が全国で約45万人にも達するといわれ、介護はいまや日本にとって大きな社会問題となっています。
『「夫の介護」が教えてくれたこと』(アスコム刊)は、ある日突然夫が脳出血倒れ、左完全片麻痺、要介護5(意思の伝達も困難になり、介護無しには日常生活を送ることが不可能な状態)になり、予期せぬまま、最愛の夫の介護と向き合うことになった、川村隆枝さんの介護エッセイです。
宮城県仙台市で、麻酔科医として働いていた川村さん。
産婦人科医院の院長である夫が脳出血で倒れたという一報が入り、そこから川村さんの生活は一気に変わります。自身は医師として働きながら、リハビリができる病院を探したり、受けて入れてくれる介護施設と交渉したりと、今まで予想も経験もしたことのなかった過酷な現実の中で奮闘します。
要介護5は、通常では自宅介護ができないレベル。しかし、夫のことを考え自宅介護を選択した川村さんは、医師として家計を支え、妻として夫を支える決意をします。
しかし、大変な生活を送る川村さんの姿から、不思議と悲壮さを感じられません。それは、川村さんが介護生活を通じて、自問自答を繰り返しながら学んだ「自分が幸せでないと、介護する相手を幸せにできない」という教訓によるものです。
介護をする側が後ろ向きなままでは、お互いに疲れ果てて心理的に追い詰められてしまいます。2016年のデータでは、介護疲れによる自殺が1年で251人にものぼり、特に50~70代の高齢層が7割を超えています。
年々、自殺者の数は減っているのに、介護自殺が全体に占める割合は逆に増え続けているのです。
そんな中で川村さんが前向きでいられるのは、介護をしながら仕事も続け、ボランティアも行い、友人との食事にも出かけているからです。介護以外の時間を、意識的に設けるように心がけているからだといいます。
「これから夫の面倒を一生、見続けなくてはならない。そのためには、自分自身が元気で、明るく、前向きでいることが大事。それが、介護される側を幸せにする道でもある」
川村さんの、力強く、すがすがしいまでの決意は、今後増え続けることが予想される高齢の介護生活者が、幸せな人生を送るための、大きなヒントになるのではないでしょうか。
(新刊JP編集部)
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