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「社長にしか見えない景色がある」 新卒入社から社長に昇り詰めた経営者が今、見ているものとは

  • 書名 苦労して成功した中小企業のオヤジが新人のボクに教えてくれた 「上に立つ人」の仕事のルール
  • 監修・編集・著者名嶋田有孝
  • 出版社名日本実業出版社
  • ISBN978-4534055231
「上に昇って社長にならんと見えへん景色がある」

これは、『苦労して成功した中小企業のオヤジが新人のボクに教えてくれた 「上に立つ人」の仕事のルール』(日本実業出版社刊)の中に出てくる一節だ。

本書は、嶋田氏が新卒から勤め、現在は社長を務める株式会社日経サービスでの経験を元に、「上に立つ人」の振る舞い方や仕事の進め方、そして周囲とのコミュニケーションの取り方を、物語仕立てで教えるビジネス書である。

「上に立つ人」は一体何を見ているのだろうか? そして、上に立たないと見られない景色とは一体どのようなものだろうか?

著者である嶋田氏へのインタビュー後編は、「上に立つ人」が見ている景色について、そして部下との接し方についてお話をうかがった。

(新刊JP編集部)

■社長になって初めて分かる「社長にしか見えないもの」

――本書を読む中で、良くも悪くも「オヤジ」のカリスマ性がとても目立つように感じました。当時の社風としてはやはり「ワンマン企業」だったのですか?

嶋田:今回の文章は、社内の人達にオヤジの人物像を伝えるために書いたものです。
当時、オヤジの周囲には、個性豊かな幹部がいましたが、彼らについては、言及していません。だから、今回の文章だけを読むと、ワンマンに映ると思います。

実は私も、入社当時、「オヤジはワンマンだ」と思っていました。オヤジが、強烈な個性とリーダーシップで会社を引っ張っていたからです。しかし、今振り返って考えると単なるワンマンではなかったと思います。

オヤジは、役職や社歴に関わらず、「お前はどう思う?」と常に皆の意見を求めていました。「偉い奴と話してもおもろない」と言い、お昼はいつも一般社員と食事に行き、若手の意見を積極的に聞いていました。

だからといって人の意見に流される訳ではありません。重要な意思決定をするときは、たとえ周囲の反対があっても、自分ひとりで決断する強さを持っていました。
「衆議独裁」という言葉があります。これは、「意見を出し合い、最後はトップが決める」という意味ですが、ワンマンというよりも、この言葉のイメージですね。

――「会社全体を見ろ」の章で「オヤジ」が「上に昇って社長にならんと見えへん景色がある」と言っています。嶋田さんも会社のトップに昇り、今や上から見ている立場ですが、その景色はどのようなものですか?

嶋田:私は、社長に就任する前に8年間、副社長を務め、会社の政策立案や意思決定に関わりました。

その際、ある大学の理事長から「トップの責任は重い。社長と副社長の距離は、副社長と一般社員の距離よりも大きい。それぐらい違うんだ」と言われたことがあります。
当時は「そんなはずはない」と思っていましたが、社長に就任して、この言葉の重みを実感することになりました。

社長の決断は、会社の意思決定そのものです。それを誤ると、やがて会社を衰退させ、倒産させてしまう可能性もあります。そうなると社員を路頭に迷わせてしまうのです。責任の重さは計り知れません。

今、わが社の業績はとても順調です。しかし、将来衰退するなら意味がありません。
例えば、今期の業績を高める政策でも、長期的に見れば不正解というケースもあります。したがって、短期・長期の両方の視点でしっかり考えた上で意思決定をしなければなりません。

「社長になると全体が見える」というのは、オヤジの言う通りだと思います。
しかし、見えるのは、会社全体だけではありません。同時に、会社の直面している危機、乗り越えるべき課題もよく見えるようになりました。それも、一個や二個ではありません。何十個、何百個です。見たくなくても見えてしまうのです。

ところが、見えている課題を一気に解決することはできません。自分たちの力量を高めながら、優先順位をつけて、一つずつ乗り越えていく必要があります。
オヤジは、一日中会社のことを考えていましたが、私も同じです。何をしていても、何を見ても会社のことを考えてしまいます。
それが社長の定めであり、社長の見る景色なのだろうと思います。

――改めて、嶋田さんにとって「オヤジ」はどんな存在ですか?

嶋田:今振り返ると、時期によってオヤジは、変わったような気がします。
入社した当初は、スポーツ指導者のような存在でした。日々課題を課され、不出来な部分を指摘され、厳しく鍛えてもらいました。
幹部になってからは、様々なことについて親身に相談にのってもらいました。経験豊かな良きアドバイザーでした。
社長になった今は、継承者としてオヤジの考えを受け継ぎつつ、そこに新たなものを加えていかねばなりません。

私は、3歳で父親を亡くしています。そのせいかもしれませんが、オヤジを父のように慕う気持ちがあります。
また、オヤジは、私にとって上司であるだけでなく、師でもありました。仕事について、生き方について、その言動から学び、背中で教えられたことが山ほどあります。 一言では、その存在を表現しづらいところですね。

――「オヤジ」は厳しさの中に愛情を込めて嶋田さんに接しました。ただ、今の世の中、「パワハラになってしまうのでは」ということでなかなか叱れない、叱り方が分からないという上司も少なくないと思います。それを乗り越えるヒントがオヤジの叱り方にありそうですが、嶋田さんはどのようにアドバイスしますか?

嶋田:最近は、叱られることに免疫を持っていない人が増えています。
そういう人は、厳しく叱ると、反発したり落ち込んだりして、正しい内容でも受け入れません。これでは、いくら叱っても意味がありません。

本来、叱るという行為は、相手を否定することでも、罰を与えることでもありません。
「できていない部分を指摘して、そこに気づかせ、改善のきっかけを与える」。
これが叱ることの本質です。言葉を換えれば、叱ることは、「部下に対する改善提案」なのです。

営業活動で改善提案を行う時に「あれもできていない」「これもできていない」とお客様を非難する営業マンはいないと思います。
なぜなら、そういう姿勢では、相手がこちらの提案を受け入れてくれないからです。だから「こういうことをしませんか? こうすればきっと良くなりますよ」と伝えるのです。

部下を叱るときも同じです。ミスをした部下を叱るときは「君はここがダメなんだ」と伝えず、「君はここを直せばよくなるんだ」と伝えましょう。プレゼンテーションの意識を持ち、相手を否定せず、肯定的に改善すべき点を伝えるのです。

「君はここを直せばよくなるんだ」という言葉なら、部下に向かってどれだけ激しく、大声で叫んでも、相手は傷つきません。同じことを叱るのでも、ほんの少し伝え方を工夫すれば、部下はすっと受け入れることができます。

ハラスメントに敏感な人が増えて、部下指導が難しい時代です。叱ることの本質を正しく理解し、伝え方を工夫して、こちらの思いをうまく届けましょう。

――最後に、本書をどのような人に読んでほしいとお考えですか?

嶋田:仕事で悩みを抱えている方々です。

時代の変化のスピードはますます速まっています。また、雇用形態や働く人達の価値観も多様化が進んでいます。
そういう中で、リーダーは、二つのことを成し遂げねばなりません。

一つは、業務遂行です。チームの目標を決め、それを部下一人ひとりにまでブレイクダウンし、仕事をやりとげなければいけません。
もう一つは、人材育成です。部下のエネルギーとパワーを引き出し、成長させること。同時に後継者を育てることも必要です。

これらは文字で書くのは簡単ですが、実際に実行するのは、とても大変です。
仕事の上では、思い通りにならないことがたくさんあります。部下指導も、営業活動も、会社の業績も、何一つとして事前に考えた通りにはいきません。

悩みを抱えている方もたくさんいらっしゃるはずです。
オヤジは、常に仕事に全力で取り組み、私たちを励まし、導いてくれました。きっとオヤジの言動の中には、悩みを克服するヒントがあるはずです。
仕事に悩みを抱えた人が、オヤジの言葉に励まされ、明日に向かって力強く歩んでいただけるなら、これほど嬉しいことはありません。

(了)

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