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12年つきまとわれて自殺…悪質クレーマーが引き起こした悲劇

 サービス業の人はもちろん、どんな仕事でも、時には顧客からのクレームを受けることがあります。

「クレームはサービス向上のチャンス」と、耳を傾けるのは大事なことですが、最近は「モンスタークレーマー」と呼ばれるような、理不尽で理屈の通じないクレーマーも増えているため、クレーム対応にはリスクがつきまとうのも事実です。

こうした状況に、企業と現場で働く人はどんな対処をしていけばいいのでしょうか。今回は『どんなクレームも絶対解決できる!』(あさ出版刊)の著者であり、クレーム対応研修で多大な実績のある津田卓也さんにお話をうかがいました。その後編をお届けします。
(新刊JP編集部)

――本書で「特殊クレーム」とされているような、理不尽なクレーマーによるクレームが大きな事件に発展してしまった例もあるようですね。

津田:栃木県某市役所の職員の方は、クレーマーに12年間付きまとわれた末に飛び降り自殺されました。印象的だったのは、その方は庁舎内に遺書を残していたのですが、恨みがクレーマー本人ではなく守ってくれなかった組織に向けられていたことです。

クレーマーの問題を放置していると管理監督者の責任問題になりえます。これは脅しでもなんでもなくて、そういう社会になりつつあるということです。

――こうしたクレーマーに対する取り組みを果たしている自治体はありますか?

津田:某市役所の取り組みはお手本になるのではないかと思います。市民に応対する窓口の机の下に隠しボタンがついていて、それを押すと録画用のカメラが回るようになっているんです。そして、会話は録音されています。

なぜこんなことをしているかというと、以前妊娠中の女性職員が窓口応対中に市民に暴行を受けて、お腹の赤ちゃんが亡くなってしまうという事件があったんです。

そんなことをするのははっきりいって異常者です。ですが、クレーマーの中にはこういう人もいるわけで、この件があってからその市役所は対策を始めました。

今では窓口応対の様子を別室で職員が見ていて、問題のあるクレーマーだと判断したら警察に通報したうえで、その場に割って入るようになっていますし、部署間で情報共有する仕組みもできています。

――ひどい事例ですが、自治体としては市民にそこまで強硬には出にくいものかもしれません。

津田:確かにそういうところはあります。特に裁判沙汰となると、役所は絶対に納税者である市民を訴えてはいけない雰囲気があるのですが、実際にはそんな法律は何一つありません。

あまりにもひどいクレーマーには法的措置をとってしかるべきですし、私も役所にクレーム対応のコンサルティングに入った時は、そのように言っています。

――企業に目を移しても、顧客を訴えるというのはなかなか難しいものがあります。

津田:徐々に増えてきてはいます。商品やサービスが期待より下回ったことで生じる「一般クレーム」はCS(カスタマーサティスファクション)の一環として真摯に聞くべきですが、それ以外のクレームは企業のリスクマネジメントの問題です。この2つははっきり分けないといけません。

――本書では「一般クレーム」「特殊クレーム(商品や企業と関係がないことにクレームをつける、理不尽なクレーム)」「悪意クレーム(金銭要求や営業妨害といった目的でのクレーム)」と、クレームを3つに分類しています。それぞれの見分け方についてアドバイスをいただきたいです。

津田:難しいのは「一般クレーム」と「特殊クレーム」の見分け方でしょうね。

まずは、本の中で書いたクレーム対応の手順「お詫び(部分謝罪)」「お客様の話を聞く(傾聴)」「お客様の気持ちを理解する(心情理解)」を行ったうえで、自分たちに非があるかどうかの事実確認をしてください。

何か被害が発生していて、その原因を作ったと考えているからこそこちらにクレームを入れているわけですから、具体的にどんな被害が出ていて、その原因は本当に自分たちにあるのか、というところです。

因果関係がないことでクレームを受けているなら、はっきり「NO」と言うべきです。それでも執拗に食い下がる相手はおかしいと思った方がいい。それと「精神的苦痛」とか「俺の時間を返せ」というセリフを聞いたら「一般クレーム」ではない可能性が高いです。

あとは、事実確認の過程で、肝心の部分をはっきり言わない人、ぼかした言い方をする人は、嘘をついているか言いたくないかのどちらかなので、これも「一般クレーム」でないと考えられます。

「悪意クレーム」の見分け方は、それほど難しくありません。クレームを入れる側に「何かせしめてやろう」という明確な意図があるので。

――前編では、クレーム対応について、現場だけでなく運営企業側の取り組みの重要性をお話されていましたが、残念ながらこうしたことに意識の高い企業ばかりではありません。もし、会社が何も対策をしてくれない場合、現場やそこで働く人にはどんなことができるのでしょうか。

津田:個人としてはもう、メンタルを鍛えて、クレーム対応で壊れない心を作るしかありません。

私は、クレーム対応だけでなくメンタルヘルスについての研修も手掛けているのですが、精神を安定させるといわれるセロトニンという物質を活発に分泌させるために、太陽光を浴びて散歩をしたり、納豆や豆腐など大豆製品を食べることをすすめています。

遠回りなようですが、心を整えるためには生活習慣や食べ物から変えるのが実は一番早いんです。ストレスを溜めて、気持ちに余裕のないクレーマーに対する時、こちらに気持ちの余裕がないと対応できませんから、普段から心身を整える取り組みはしておくべきです。

それと同じくらい重要なのが、スタッフ同士の連携です。もし、会社がクレーマー対策をしないのであれば、現場は自衛するしかありません。

クレーム電話であれば、助けを求めるサインを作っておいて、一定時間が経ってまだ解決しない場合にサインを出して、別の人に対応を引き継いでもらうなど、互いに助け合う仕組みを作っておいた方がいい。

会社が何もしない時は自分から働きかけていかないと、クレーム対応をする人は壊れてしまいます。

――最後になりますが、心身ともに負荷の大きいクレーム対応に関わっている方々に、アドバイスやメッセージをお願いできればと思います。

津田:まず、経営者は今すぐにクレーム対策を始めろと言いたいです。それが利潤の追求という、会社の最大の目的のためになる。

クレーム対応に追われている間に生まれる時間的損失や経済的損失ははかりしれないものがありますし、さらにいえば人的資源も失うことになります。

カスタマーサティスファクションとリスクマネジメント、両面の体制を整えるという意味で、クレーム対策は必須です。上の人間が動かないと、現場で頑張っている人たちがかわいそうですよ。

それと、現場の人には逆に、組織に頼り切るなと言いたいです。やれることは自分たちでやらないと。今お話ししたように、スタッフ同士で連携してクレームに対処体制ができれば、クレーマー相手に一人で孤軍奮闘することはなくなって、どんなお客さんにも気持ちに余裕をもって対応できます。

これは、自分たちの身を守ると同時に、最後には顧客満足にもつながります。みんなにとって良いことなので、会社が動くのを待つのではなく、自分から動いてこの体制を作っていただきたいです。

クレーム対応に対して、会社側がやるべきことも、個人としてできることも、本の中ですべて解説しているので、ぜひ役立ててみてください。

(新刊JP編集部)


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