メディアに関わっている記者やジャーナリストたちは常に「スクープ」を取ろうとしている。
スクープというと芸能系のゴシップが注目されがちだが、企業や政治家の不祥事や、未発表の新事業を他社より早く明らかにするといった経済や政治のスクープとなると国が動く可能性も高い。
日経CNBCアンカーで、『Forbes JAPAN』副編集長兼Web編集長を務める谷本有香さんは、著書『何もしなくても人がついてくるリーダーの習慣』(SBクリエイティブ刊)の中で、成功するリーダーの習慣を明かしている。
トニー・ブレア元英首相、アップル共同創業者のスティーブ・ウォズニアック氏、スターバックスCEOのハワード・シュルツ氏といった1000人以上のVIPへのインタビューを行ってきたという谷本さん。インタビューをする際には常にスクープを取りに行っていると言うが、トップリーダーたちがそう簡単にスクープになるようなネタを話したり、本音を吐露してくれるようなことがあるのだろうか?
谷本さんは言う。「狙わないことでスクープが取れるんです」――その方法とは? お話をうかがった。
■スクープは「狙わないから取れる」の意味とは?
――谷本さんはこれまでハワード・シュルツ氏やジョージ・W・ブッシュ元米大統領など、3000人にトップにお会いし、1000人以上もの人たちにインタビューをしてこられたそうですが、今では月に何件くらい取材が入っているのですか?
谷本:取材件数だけだと、その月によって違いますね。カンファレンスや経営者が集まる国際会議なんかに参加すると、1日に何十人ともお話をします。また、もちろん1対1での長い取材もありますし。でも平均すると少なくとも一週間に一回は取材をしていますね。
――取材時間も短かったり長かったり。
谷本:そうですね。2時間じっくりお話できるときもあれば、15分くらいのときもあります。
――では、短い時間しかもらえないときと、長い時間もらえるときの取材の準備の仕方は変わりますか?
谷本:短いときは「こういうコメントがもらえたら!」という狙いを持っていきますが、長時間の取材では話の流れに任せてしまうことが多いです。
これは何も考えずにインタビューをするのではなく、経験上、流れに身を任せてしまうことのほうが、まだどこにも出ていないスクープが取れるんです。深堀りをしていくという感じですね。
――流れに身を任すということは、常に質問し続けるということですよね。
谷本:質問というか話をする感覚ですね。相手の話が止まらないように、話題を繰り出しいきます。そして、相手の一番話したいことを話してもらい、掘り下げる。事前に質問がほしいと言われれば出しますが、それは一旦忘れて向き合うことが多いです。
――経営者の方へのインタビューだと、おそらくお近くに広報の人がいると思いますが…。
谷本:広報の方はあまり気にせずインタビューさせていただいております(笑)。そちらを見ると、視聴者や読者のために良いスクープを取れなくなるので。
――広報の人はそわそわするでしょうね…。でも、スクープの内容はだいたい目星がついているんですか?
谷本:目星がつくくらいのネタは基本的にどの媒体も狙っていますから、他と同じ話しか聞けないんです。本当のスクープは意外と「狙わないようにする」と取れたりするんですよ。
こちらから話題を投げて、相手の目が輝いた瞬間を逃さない。私は「あのエピソード、今までに聞いたことなかったです」と広報の人が言うくらいことを探しているので、あたりをつけないほうが良かったりするんですよね。
――狙わずしてスクープを取ると…。
谷本:最初から狙っているネタは確かに間違いないし、そういう記事としてコレクトなものが求められているときもある。けれども、私の場合は裁量をかなり与えられているので、自由に宝探しをしているような感覚でインタビューをすることが多いですね。
――自由があるということは、その一方で結果を出さないといけません。相手から話を引き出さないと!と気張ってしまうことはないんですか?
谷本:私は、インタビューというのは会話や議論だと思っています。「聞けばいい」「質問をすればいい」というわけではなく、自分の意見をぶつけて相手がどう思うのかを引き出しながら話をすることが大事だと思っています。
私の言った意見が相手の考えにないものならば「そんな見方はしたことなかった」と思うでしょうし、一般論とは違う視点で議論を進めることができますよね。
――意図的に取材対象者を怒らせる取材方法があると聞いたことがありますが、そういうことはあるんですか?
谷本:さすがに私は怒らせませんよ(笑)。でも、話をしていく中でそういう展開になってしまうことはあります。そのときは、怒らせないようにフォローをしますね。
「あなたの言っていることは間違っていると思います。でも、それは私の勉強不足によるものだと思っているので、説明してくれませんか?」という感じで。不躾には言わないようにしますね。
――まさに話術ですね。
谷本:そうですね。自然と話し方のテクニックを駆使しているのかもしれません。
■「器の小ささを利用させてもらいました」意地悪な政治家への対応
――私自身もインタビュアーとしてさまざまな方にお話をうかがうのですが、やはりインタビュイーの方々はその肩書きなり、その人物像なりを演じる、つまりペルソナを作ってお話をしていると感じることが多いです。
谷本:完全にそうですよね。
――そのペルソナをはぎ取らないと「自然体」は見えてこないと思うのですが、それがまた難しい…。
谷本:私は取材する部屋に入った瞬間からはぎ取りにいっています(笑)。一つ方法があって、フォーブスや日経CNBCの記者としてではなく、谷本有香という個人としてお話を聞きたいということをアピールすることです。
相手の肩書きを下ろしたいのであれば、まずは自分の肩書きを取り払う。それで初めて対等に自由にお話がうかがえるわけですね。
だから、スクープになるネタを話してもらうために、こちらからスクープを教えてしまうこともあります。「こういう情報が実はあります」「他社ではこういう話があるそうですが、どうお考えですか?」って。
全部手の内を晒してしまうことで、「そこまで教えてくれたなら話そう」ということはままある話です。
――本の中でも、「素の谷本有香」として話すようにしたことで、いい答えが引き出せるようになりスクープを取れるようになったと書かれていましたよね。まさに、対等な関係に基づく交渉です。
谷本:もちろん、インタビュアーはインタビュイーをリスペクトすべきだけど、ただリスペクト一辺倒の姿勢だけだと経営者は喜ばないことも多いんです。反対の立場になると分かるのですが、リスペクトだけ向けられ、「すごいですね、すごいですね」と言われても「この人、本当にそう思っているのかな?」と思ってしまう。
トップリーダーたちはイエスばかり言う人を好きではありません。インタビューは畏まった雰囲気になりますけれど、そういう場を超えた談義をすることで、求めている真実がつかめるということですね。
――そんな谷本さんにもインタビューがやりづらい人はいるんじゃないですか?
谷本:基本的にはどんな方でも嫌いにはなりません。全然答えてくれないとかやりづらい人もいますけど、自分の手腕次第だと思っていますし、スクープを引き出せる自信はありますよ。
ただ、中には本当にいじわるな人もいます。ある政治家の方はインタビュアーをいじめるので有名な方で、テレビ番組のCM中に「お前みたいなバカなキャスターは見たことない」「お前を(番組から)辞めさせるから、収録が終わった後、(テレビ局の)社長のところにいくぞ」とまで言うんですよ。
言われたキャスターはもちろん号泣ですし、スタッフも演者もシーンとしてしまう。いじめたいのか、食らいついてきてほしいのか、その政治家の意図は分からないんですけど、ただ、私はそれを言われても泣かなかったんですね。
――よく耐えられましたね…。
谷本;「自分の手腕を試せる良い機会だ」と思っていたので(笑)。逆に器の小ささを露呈してくれてありがとう、と思うくらいでした。実際に本番の討論でも、その器の小ささを利用させてもらったり。さじ加減の問題ですね。
(後半に続く)
谷本有香さん