いよいよ来週金曜日、8月5日に迫ったリオデジャネイロオリンピック。
陸上競技も、体操も、レスリングもいいが、今回のオリンピックから競技に加わった新種目に注目してみてはいかがだろう。
その一つ、「サクラセブンズ」の名前で注目を集める「7人制ラグビー」の女子日本代表は、激しい接触プレーで大けがをする危険もあるこのスポーツに人生を捧げている。
「美人揃い」ということでも人気急上昇中の彼女たちだが、ここまでの道のりは平坦ではなかった。これまで長い間、日本には女性がラグビーをする「場」がなかったからだ。
では、そんな状況から彼女たちはいかにしてオリンピック出場までこぎつけたのか。
『自分、がんばれ! ~女子ラグビー「サクラセブンズ」の勇気が出る言葉~』(扶桑社刊)の著者でノンフィクション作家の松瀬学さんにお話をうかがった。
■「ラグビーの体をなしていなかった」女子ラグビー創成期
――『自分、がんばれ! ~女子ラグビー「サクラセブンズ」の勇気が出る言葉~』についてお話をうかがえればと思います。
「one for all、 all for one」という言葉があまりにも有名なせいか、「自分、がんばれ!」というタイトルはあまりラグビーっぽくないように感じました。このタイトルにどんな意味を込められているのでしょうか。
松瀬:今おっしゃったように「one for all、 all for one」はラグビーの精神で、チームワークの重要性を説く言葉としてよく使われます。
ただ、この言葉は誤解されがちで、「個としてのがんばりより、チームワークが大事」と受け取られることが多いんです。つまり、「自分の責任を果たす」という部分が抜けてしまっているんですね。
チームワークの肝は、あくまで「まず自分ががんばる」です。これができていないチームは、どんなスポーツでも弱い。だから「自分、がんばれ」は「one for all、 all for one」と矛盾するわけではないんです。
――7人制女子ラグビーは、今のところ一般的な注目度が高いとはいえないスポーツです。松瀬さんはなぜこのスポーツに注目されたのでしょうか。
松瀬:ラグビーに似ていて、タックルがない「タグラグビー」っていうスポーツがあるんですけど、やっているのは小学生くらいの女の子が多かったんです。もう20年くらい前の話ですけど。
こういう子たちが、「もっと本格的にやってみたい」となったら小学生のちびっ子ラグビーに行くのですが、その先の中学高校になると、ラグビーをやろうにもその場がないという状況でした。そんな時代に、日体大に女子ラグビー部があって、細々とラグビーを続けている女の子たちがいるという話を聞いたんです。
それで調べたところ、15人制の女子ラグビーの全国大会があるというので見に行ったら、男子と比べるとあまりうまくありませんでした。ただ、一生懸命さ、ひたむきさはすばらしかった。こういう世界もあるんだと心を動かされたのが最初でしたね。
――そんな状況から、20年ほどでオリンピックに出場するところまで来ました。これはすごいことですよね。
松瀬:2000年代になって「近い将来、男女の7人制ラグビーがオリンピックの新種目として入る」という話が出てきたことで、風向きが変わってきたんです。
「いずれオリンピック種目になるなら、今のうちから強化した方がいいのではないか」ということで、女子ラグビーの方も、中学生のユースチームを作ったり、強化合宿をしたりといった取り組みが2005年頃から始まりました。
僕は仕事で一度、当時の強化合宿を覗いたことがあるのですが、鈴木彩香選手や山口真理恵選手、加藤慶子選手がメンバーに入っていました。彼女たちがきちんと育って、今回のオリンピックの日本代表(バックアップメンバーを含む)になっているわけです。競技人口が少なくて層が薄いということもありますけど、これは奇跡的なことですよ。
――インターネット上でも、「サクラセブンズの選手は美人揃い」と言われて、注目度が高まっています。
松瀬:ビジュアルもいいんですけど、みんな性格がすばらしいです。とにかくどの選手も、ラグビーに対しては本当に一生懸命なんですよ。まじめなんです。
プレーを見たら誰でも、彼女たちがいかにラグビーを好きかがわかると思います。男女関係なく、一生懸命な人ってかっこいいじゃないですか。見ていると応援したくなるんです。
■笑われても言いつづけてきた「金メダル」
――この本で松瀬さんは、選手一人ひとりを丁寧に取材され、選手たちの熱い言葉を引き出されています。それぞれこれまでのキャリアも違えば環境も違うなかでラグビーへの熱意だけはどの選手からもひしひしと伝わってきますね。
松瀬: 山口真理恵選手のように海外にラグビー留学した選手もいますし、大学のラグビー部でラグビーを続けた選手も、男子の中に混じって練習してきた選手もいます。プレー環境に恵まれないなかで、それぞれのやり方で努力を重ねて日本代表に入ってきた。並外れた熱意がないとできないですよね。
――広告代理店の電通東日本に勤めている主将の中村知春選手、ANAに勤務している横尾千里選手、出版社の新潮社に勤務しているバックアップメンバーの竹内亜弥選手、フジテレビに勤務している冨田真紀子選手など、社会人として仕事をこなしつつクラブチームでラグビーを続けてきた選手も多くいます。
松瀬:彼女たちは理解あるいい会社に入ったなと思います。
強化合宿や海外遠征となると1週間とか2週間仕事に出られません。そういう事情を理解してくれる会社というのはやはり少ないので、定職に就けない選手がどうしても出てきてしまうんです。
ただ、女子ラグビーへの世間的な理解が得られてきていることもあって、就職して仕事をしながらラグビーをやる環境がようやく整いはじめたかな、とは思います。
――今回のオリンピックでメダルを獲れば、女子サッカーの「なでしこブーム」のように、女子ラグビーへの認知が一気に広がるのではないでしょうか。
松瀬:そうあってほしいですね。 7人制ラグビーが正式にオリンピック種目に採用されたのが2009年だったのですが、その翌年の2010年にあったアジア大会で、女子日本代表は5位でした。上位の香港や中国にはまったく歯が立たなかったんです。その時点で、オリンピックなんて夢のまた夢でした。
でも、ヘッドコーチの浅見敬子さんも選手たちも、周りから笑われながらも、当時から「オリンピックで金メダルを獲る」と言って、ひたすら練習を重ねてきました。昨年のラグビーワールドカップで活躍した男子ラグビーの日本代表の練習量もすごかったですが、彼女たちも負けていません。
リオオリンピックは女子ラグビーにとって大きなターニングポイントになるのはまちがいないので、ぜひメダルを期待したいですね。
(後編 いよいよ初戦!「サクラセブンズ」は強豪カナダを撃破できるか? に続く)
『自分、がんばれ! ~女子ラグビー「サクラセブンズ」の勇気が出る言葉~』(扶桑社刊)