「考えます」
「上(決裁者)に確認します」
といった一言は、すべての営業マンにとってまさに「天敵」だろう。
この言葉が出たらもう、その日のうちに契約にこぎつけることが難しくなるからだ。
『即決営業』(サンマーク出版)は、顧客にこれらの「先延ばし」を許さずに、その場で契約を勝ち取るという、アグレッシブな営業スキルを指南する一冊。
今回は著者の堀口龍介氏に、このスキルの前提となる考え方と、契約を取るために営業マンが顧客と築くべき関係性についてお話を聞いた。
■顧客と営業マンはWin-Winになりえるか?
――『即決営業』について、「顧客に先延ばしを許さずその場で契約させる」という積極性には驚きました。堀口さんがこのスタイルになったきっかけがありましたら教えていただきたいです。
堀口:僕は22歳から営業を仕事にしているのですが、最初の頃は「お客様とは分かり合える」と思って営業していました。つまり、自分の気持ちやスタンスをお客様は理解してくださると思っていたんです。
でも、元々お客様は営業マンのことなんてどうでもいいんです。むしろ自分の思いや希望を聞いてほしい。
お客様と営業マンの間に「譲り合いの精神」は当てはまらないというわけです。
いくらこちらが、お客様に譲歩したとしても、お客様は一切、譲歩してくれません。
「お客様が我々の気持ちを分かってくれるかも知れない」という甘い考えは捨てるべきなのです。
――うまい解決策を提案できれば商品は売れる、ということでしょうか。
堀口:ところが、そう簡単にはいきません。改善策を提案しても、お客様はいつまでも迷って態度をはっきりさせないことも多い。ほとんどのお客様は常に「買いたい気持ち」と「買いたくない気持ち」の間で揺れていて「あいまい」なんです。
――なるほど。
堀口:この「あいまいさ」に付き合っていたらキリがないということに、あるところで気がついたんです。お客様のペースに合わせていると、いつまでも買うか買わないかという「答え」を出してくれない。それなら、営業マンはお客様に「即決」を迫ることで、背中を押すべきなんじゃないか、ということですね。
――今のお話にもありましたが、「営業先といい関係を築くことができても、売れない」というのは多くの営業マンが悩むところだと思います。「売ること」が営業の目的であると考えると、そもそも「いい関係を築く」こと自体がまちがっているのでしょうか。
堀口:まちがっています。売り手と買い手というのは、「売れてよかった・買ってよかった」という意味ではWin-Winの関係になる可能性がある一方で、「できるだけ高く売りたい・できるだけ安く買いたい」という意味ではWin-Winはありえません。割引したらその分だけ売り手は損をするわけで、つまり、お客様と営業マンは本来的には相反する関係であり、時には敵対する関係なんです。
このことを踏まえて、営業の種類のお話をしましょう。
営業には「友好営業」と「敵対営業」の二種類あります。
「友好営業」というのは、極端にいえば「ペコペコしていれば買ってもらえる営業」です。飲食店ですとか、コンビニ、100円ショップなど、安価な商品を扱うビジネスであれば、このスタイルでも問題ないのですが、30万円を超えるような商品だとそうはいかないんです。
どんなにお客様と営業マンが親しくなって、いい関係を築いても、大金を払うとなったらお客さんは迷うんですよ。決断を先延ばしして、こちらの「契約してほしい」という要求に抵抗するわけです。これが「敵対営業」です。
こういうタイプの営業では、営業マンの側がお客様の抵抗を抑え込むということが時として必要になります。「即決営業」はそのための営業スタイルなんです。
――お客様側の「抵抗」の代表的なものが、契約するかどうかを保留する「考えさせてください」というわけですね。
堀口:そうですね。体よく断ったり、先延ばししたりする時に「考えさせてください」がよく使われます。営業マンはこの言葉を何とかしないと契約を取れません。
スポーツで例えるならば、営業は「社交ダンス」ではなく「格闘技」なんです。「格闘技」では、相手の「抵抗」を前提とした心構えが必要です。こちらの攻撃に対して、相手は抵抗してきますし、逆に攻撃してきます。こちらの攻撃を受け入れてくれる相手などいないのです。
営業も同じく、こちらの「即決してください」を受け入れてくれるお客様は10人中1人いるかいないかです。高額商品を売る場合、お客様は、こちらの「即決してください」に対して「考えます」と言って「抵抗」してくるものなのです。
ですので、「話せばわかってくれる」とか「相手に好かれよう」というスタンスではなく、
「相手の主張を抑えこむ」というスタンスが重要なんです。つまり、お客様の「考えます」を抑えこむスタンスであるべきなんです。
――堀口さんが提唱している「即決営業」に向いている商品の例をいくつか教えていただけますか?
堀口:訪問販売系は向いていますね。具体的には生命保険ですとか、不動産、学習教材などの営業にも有効です。
「即決営業」のスタイルを学んでいくことで、お客様に対して変に下手に出ずに、きちんと交渉できるようになるんですよ。つまり、お客様の要求を聞きつつ、自分の要求も主張できるようになる。
――「必ずその場で契約を取る」と決めてしまうと、商談の中での駆け引きの幅を狭めてしまうような気もしますが、そのあたりはいかがですか?
堀口:「必ずその場で契約を取る」といっても、「勝負のタイミング」は職種や相手によって変わってきます。
たとえば、僕は十年前から学習教材を売る営業をやっているのですが、どうやってアプローチするかというと、まず電話をかけます。ただ、そこでは売り込みはせずに、「案内状を送らせてほしい」とだけ伝えるんです。そして、了承してくれた人に案内状を送る。
送ってから三日後くらいしたら、「案内状は見ていただけましたか」ともう一度電話します。そこで、「一度、無料説明を受けてみてください」と伝えます。それで会うことになった人にプレゼンテーションをするのですが、そこではじめて勝負です。
飛び込み訪問の場合は最初の接触で勝負しないといけないでしょうし、職種によって勝負のタイミングはさまざまです。「即決営業」というのは、その勝負のタイミングでお客様に決断させる、ということですね。
(後編につづく)
関連記事
・
なぜ仕事の遅い人はいつまでも手が動かないままでいるのか?・
いつまでも成功できない「ダメな下積み」とは?・
100万部突破の『嫌われる勇気』は本当に人生の役に立つ本なのか?・
「考えます」を許さない カリスマ営業マンの超アグレッシブなセールス営業マンと客に「Win-Win」は成り立つか?