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日本が直面する「製造業の死」を乗り越える新思想とは

 日本の液晶や造船、テレビなど、日本産業の代名詞だった製造業が衰退の一途をたどっているのと同様、ほぼすべての先進国で、製造業は新興国の追い上げに遭い、とって代わられようとしている。

 特に今はインターネットが普及し、ステルス戦闘機の開発データがハッキングされるような時代である。知的財産権や知的所有権は容易に盗まれてしまう。そして、先進工業国が長い時間をかけて築いた成果ともいえる製品は、新興国の安価な材料費・人件費によってはるかに安い価格で市場に出ることになる。こと製造業において、先進国が新興国と価格競争をするのは無謀だ。

■「Industrie 4.0」はドイツ危機意識の表れか
 現在ドイツが国を挙げて推進している「Industrie 4.0」は、こうした文脈でとらえると理解しやすい。
 「Industrie 4.0」とは情報技術を駆使し、製造業を高度にデジタル化することでマス・カスタマイゼーションを実現するためのプロジェクトだ。
 つまり、従来の工業先進国のモデルだった「大量生産」では、資源も人件費も安い新興国には太刀打ちできないため、早晩衰退する。ならば、大量生産(マス)に、消費者個々人に合わせた(カスタマイズ)の要素を加えた製品を生産できるよう、製造業を進化させよう。
 「Industrie 4.0」の裏には、新興国に追われ、価値を失いつつある自国の製造業に新たな付加価値をつけようと試みるドイツのこうした危機意識があるのだ。

■「マス・カスタマイゼーション」を可能にする新たな思想とは
 しかし、「大量生産しつつ、カスタマイズの要素を加える」ことは、言葉ほど簡単ではない。
 マス・カスタマイゼーションの基本的な考え方は、製品の部品のうち7割ほどは均一なものを大量生産し、残りの3割で顧客に合わせた何らかのカスタマイズを施すというもの。つまり、生産の過程では、一定数の部品は注文した顧客と結び付けて管理する必要があるが、従来の大量生産を目的とした生産管理システムは、そのための仕組みが脆弱なのだ。

 いかに、大量生産の過程で顧客と製品を結びつけて管理するか。
 『最適生産とは何か――「Manufacturing 4.0」と「GLOSCAM」。製造業の未来を担う新しい生産管理の在り方とは?』(四倉幹夫著、ダイヤモンド社刊)では、ドイツがまだ対処できていないこの課題を解決する、新しい思想が紹介されている。

 その一つが「Manufacturing 4.0」というもの。
 大まかに説明すれば、大量生産のための生産システムとして世界的に普及している「MRPシステム」と、オーダーメイドの製品を生産する時に、日本で古くから採用されてきた「製番システム」と呼ばれる生産管理システムを組み合わせる、ということになる。

 この二つを組み込むことで、大量生産の機能を持ちつつ、顧客に合わせたカスタマイズも可能という生産管理システムが可能になる。もちろん完全なオーダーメイドにも対応でき、何より生産期間内において急なオーダーの変更に対応する柔軟性が得られる。「Industrie 4.0」が実現できていない課題を、理論上は解決できるというわけだ。

 いかに在庫を適正に保ち、無駄なコストを減らし、そして顧客に合わせたカスタマイズができるか。大きな転換点にある生産管理の分野が今後どのように変化していくかについて、本書の内容は大きな示唆となるのではないか。
(新刊JP編集部)

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