ニューヨーク、ロサンゼルス、香港、台湾、上海、パリ…。世界中の人々を笑顔にする魔法をかける女性がいる。メイクアップアーティスト“ミワンダフル”こと横山美和さんだ。
巨大なピンク色のフレームを背負い、商売道具のメイクセットを持って、世界各国を旅する。現地ではそのフレームを立てて、その中でメイクを施す。そこに生まれるのは「笑顔」だ。
これまで、世界各国でメイクをしてきた人は10000人以上にのぼるという横山美和さん。しかし、どうしてそんな活動をしているのか? 主婦の友社から出版された『メイクで世界中を笑顔に!MAKE SMILE TRIP@Miwonderful』は横山さんにとっての初の書籍であり、彼女の半生と哲学が詰め込まれた一冊となっている。
今回のインタビューでは本の内容をたどりながら、横山さんが本当に伝えたかったメッセージを聞いた。その後編をお届けする
(新刊JP編集部/金井元貴)
◇ ◇ ◇
イベントの成功や長年付き合っていた彼氏と別れを経験した横山さん。早く彼のことを忘れたいという想いから、さまざまなアルバイトを掛け持ちするが、その中の一つだった古着屋で始めたイベントが、その後の人生を変える大きな出会いを手繰り寄せる。それは「Thanks Giving Make Up」――洋服を購入してくれたお客に、購入した洋服に似合うメイクを無料“プレゼント”するイベントだった。
「このイベントが縁になって、『SHIFT』というオンラインマガジンの編集長・大口さんの元でもイベントを開くことになります。当時、大口さんは『SOSO(ソーソー)』っていうギャラリーカフェを運営していて、そこでアートとメイクが混在したイベントを始めたんです」
2ヶ月に一度、「SOSO」で開催される「Thanks Giving Make Up」。そこでは、プロジェクションマッピングを使ったライブメイクや、DJの音楽に合わせたメイクなど、アートとメイクが組み合わさった斬新なイベントだった。
「大口さんの印象ですか? めちゃくちゃ怖いです(笑)今は40代になってソフトになられたけど、当時はオーラがバリバリという感じで。まさにアーティストですね。『SHIFT』ってオンラインマガジンの中でも、インターネットがフォーカスされる前から存在する媒体で、本当に先進的です。大口さんはそういったことを札幌でやっていらっしゃった方です。
YESとNOがはっきりしていますね。周囲からは『よく大口さんとしゃべれるね』と言われましたけど、怖さを感じつつアタックしていました。『失礼します!これ見て下さい!』って(笑)。で、大口さんからは一言、『これ、いい』とか」
イベントの度に泣いていたという横山さん。メンバーとぶつかることも多かったそうだが、「それが私を意地にさせた」と振り返る。また、大口さんのフォローに何度も励まされたそうだ。
「実はメイク屋台の発案者も、ピンクフレームのアイデアをくれたのも大口さんです。大口さんは世間一般でいう“いい人”ではないけれど、彼の言うことならば信じられる、頑張ろうと思えるんですよね」
イベントは順風満帆にはいかなかった。そこにはいつでもメンバーとの軋轢が起きていた。悩んだ横山さんは学校の勤務をやめ、テナントを借りてメイク活動の拠点を構えることにしたが、それでもお客はなかなか集まらない。
「逆にお客に会いに行くしかない! ということで始めたのが『メイク屋台』です。外でメイクをするための屋台ですね。設計図は大口さんに書いていただきました。昔、札幌にオーストラリアの花を売る屋台があったらしくて、そこに若いアーティストたちが集って、一つのカルチャースポットみたくなっていたらしいんですね。『それ、いいじゃん!』って(笑)それで友達の力を借りて、自分たちで屋台を作って。
すぐに話題になっているのは分かりました。テレビや新聞の取材を受けたりして。でも、何より嬉しかったのは、当時私は23歳でメイクアーティストとしては駆け出しなのに、屋台に来てくれる子たちがすごく喜んでくれたことでした」
ところが、メイク屋台をすぐにたたまないといけなくなる。横山さんが美容師免許を取得しておらず、保健所から厳重注意を受けてしまったのだ。そして「もう一度、メイク屋台をしたい」という想いで、3年間横山さんは美容師免許取得のために勉強する。
「社会に適合できていないとか、いろいろ言われるんですよ。噂もすぐに広まるんです、田舎だから(笑)。すごく孤独を感じることが多かったです。でも、お客さんの笑顔だったりとか、(記事を読んで)ヘアメイクさんがメイクボックスを送ってくれたりとか、そういう経験が励みになっていました」
現在の“ミワンダフル”のコンセプトができ、ピンクフレームというアイコンができたのは、美容師免許を取得してからだ。とんとん拍子に事が進んでいくと思いきや、ここでも紆余曲折があり、さまざまな葛藤が横山さんに襲いかかる。
英語も話せない、海外に友達もいない、スポンサーもいない。世界中の街をまわり、現地の人にメイクをする「Make Up Tour」で数年ぶりに訪れたロサンゼルスでは“完全な敗北”を経験し、ニューヨークでは市警に囲まれた。それでも、自分のメイクによって生まれる笑顔は支えになった。
この詳しい内容は実際に本を読んでいただくとして、実は横山さんは美容師免許を取得してから「株式会社ThanksGiving」を立ち上げており、経営者としての顔も持っている。最後にその部分についてお話をしてもらった。
「会社名の由来は、昔からやってきたイベントです。この名前には並々ならぬ強い想いがあって、関わってくれたすべての人に『“ありがとう”を返します』という意味なんです。また、会社としても自分が変な経営者にならないように、始めた頃の想いを忘れないようにという意味も込めています。
起業してからもう5年くらい経ちますが、2、3年目がいちばんきつかったですね。経営者とアーティストのバランスが取れなくなって。ピンクフレームがいろいろなメディアさんで取り上げていただいて嬉しいけれど、実は経営的には赤字を生んじゃう活動で、私が海外に行けば行くほど経営を圧迫するんです。でもミワンダフルがミワンダフルらしく活動できるのは、ピンクフレームがあってこそなので。
苦しい時期を抜け出せたのは支えてくれるチームミワンダフルのおかげです。社長業がかつて10だったのが、6、7になってきていて、横山美和として納めるべきところは納めて、ステージに上がったらミワンダフルのスイッチが入ってそれになれる。そういう切り替えができるようになっています」
横山さんはさらに言葉を続ける。
「経営者ってものすごくバランス感覚が必要で、感情的になれない仕事だと思うんですね。でもアーティストはその逆で、ものすごくわがままです。だから、アーティストのミワンダフルが好きだけど、経営者の横山美和は苦手という人もいるかもしれません。そういう意味では、自分を見せられる人と見せられない人がいるかもしれませんね。
でも、みんなを自分の夢に巻き込んでいるから、最後は自分が責任を取るという気持ちでいつでもやっています。みんなには感謝の気持ちしかないです。ありがとうございますと伝えたい」
アーティストと経営者という両極にある2つの顔を持つ横山さんは、これからどこに向かおうとしているのか。
「今回、本ができたことを、かつて手伝ってくれていたけど今では疎遠になってしまった友達たちにも連絡したんです。そうしたらすごく喜んでくれて。『あのときは楽しかったね』って言ってくれたり、『美和ちゃんが(自分に)きっかけを与えてくれたんだよ』って教えてくれたり…。
私、海外に行く前に、すごく悩んだんです。そのときに背中を押してくれたのが、登山家の栗城史多さんの本でした。だからある意味、本に動かされて人生が大きく変わった。この本にもそういうメッセージを書いていて、実は自分の考えていることを書くのって苦手なんですよね。でも、がんばって自分にOKを出して書きました。
今って自分らしく振る舞うことを、あまり是としないじゃないですか。でも、今でも私は時には共に作品をつくるクリエイターやチームミワンダフルともぶつかることもあるし、言い合うこともあるけれど、絆っていうそういう風にできていくものだと思います。この本を作る時も編集者の方と相当意見がぶつかって(笑)でも殻を破ることができました。今は札幌をメインに活動していますが、これから東京や大阪、福岡にもどんどん行きたいと思いますし、そういった地域の方々にこの本を通して『こんにちは』と言いたいです」
最後に、『メイクで世界中を笑顔に』をどのような人に読んでほしいか聞いた。
「自信がない人。『小さな勇気』という言葉を贈りたいです。最初にも言いましたけど、私めちゃくちゃ内気なんですよ。でも、小さな勇気を持って『怖いけどやってみよう』ということを10年間続けてきたら、今のミワンダフルになれたから。自信がなくて一歩を踏み出せない女の子にぜひ読んでほしいですね」
(了)
■横山美和さんプロフィール
株式会社ThanksGiving代表取締役。メイクスマイルアーティスト。札幌市出身。「メイクで世界中を笑顔に!」をテーマに活動するメイクスマイルアーティスト。10代の頃よりメイクアップ業界に従事。2011年頃、オリジナルのメイクブースを担ぎ世界中を旅する活動、通称『Make Up Tour』を開始。単身でNY、LA、香港、台湾、上海、パリなどをめぐり、路上にてメイクパフォーマンスを行う。STV「どさんこワイド」レギュラーほか、ラジオやコラボイベントなどで活躍中。
ミワンダフルオフィシャルページ
http://www.miwonderful.com
写真提供:サンクスギビング
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