みなさんは自分の名前をネットで検索したことがありますか?
実際に検索すると、たいていの場合は自分と同姓同名の有名人の記事や、学生時代の表彰記録などが出てくるはずです。FacebookやTwitterなどSNSを使っている人はそのアカウントが表示されるかもしれません。
しかし、中には、知られたくない過去や謂れのない誹謗中傷が名前とセットで出てくることがあり、その呪縛にとらわれ続けることになります。
こうした問題の中で、注目を集めているのが「忘れられる権利」です。これはネットが生活に定着することで生まれた“新しい人権”といえるもので、EUの法律案の中で初めて登場しました。
『ネット検索が怖い』(神田知宏/著、ポプラ社/刊)は、この「忘れられる権利」がどのように議論され、活用されているのか、その現状を解説する一冊です。
■個人、企業問わず炎上は誰の元でも起こる可能性がある
頻発する「ネット炎上」。有名アーティストがTwitter上で迂闊な発言をして多くの批判を浴びることもあれば、一般人が投稿した記事やつぶやきが拡散されて集中砲火を浴びるといったことも。
「自分は炎上なんてしないよ」と思っている人も多いでしょう。でも、これは誰にでも起こりうることです。
不倫、パワハラ、セクハラなどがネット上で“告発”されて炎上、軽いノリでやった“迷惑行為”の自慢は叩きの的になります。もちろん、身から出た錆ですから、ある程度批判を浴びるのは仕方ないとしても、問題なのはネット上に残り続けてしまうことです。
企業や店舗も同じです。飲食店において「店員の愛想が悪い」「隅っこにゴキブリが歩いていた」というような口コミは経営にダメージを与えますし、まったくブラック企業ではないのに、勝手に「ブラック企業」認定されてしまったというケースもあるといいます。
大企業であればマスメディア広告を通した自社の宣伝でフォローが可能ですが、中小企業だとそうはいきません。
■注目を集める「忘れられる権利」
では、一度アップされたネット上の書き込みにいつまでも苦しまなければいけないのでしょうか? そこで登場したのが「忘れられる権利」です。
2011年11月、フランスのある女性が、Google相手に訴訟を起こしました。理由は20代の頃、有名になりたい一心で一度だけ撮影したヌード映像が30万以上のサイトでコピーされており、彼女の名前を検索するとその映像が出てきてしまっていたからです。
その女性は、映像のせいで職に就くことができず、なんとかしてネット上から削除しようと考えましたが、30万以上のサイト全てに削除要請することはできません。そこで検索エンジンのグーグルに対して、検索結果から除外するよう訴訟を起こしました。結果的に女性は勝訴し、検索サイトに対する削除請求が認められます。
2012年1月、EU行政機関の欧州委員会は個人データの処理に関する規則案を提案しますが、その17条に明記されたのが「忘れられる権利」です。2014年5月にはスペイン人男性の訴訟でEU司法裁判所が「いわゆる忘れられる権利」という文言を用いて、忘れられる権利を考慮したうえで検索結果の削除命令をグーグルに下しました。
本書の著者で弁護士の神田知宏氏は、このEUでの判決を受けて「日本でも同じ請求が出来るのではないか?」と考えます。そして、「自分の名前で検索すると、犯罪にかかわっているかのような検索結果が出て困っている」と相談してきた男性とグーグル相手に訴訟を起こし、検索結果を改善させることに成功しました。
ネット炎上は犯罪や迷惑行為をしていなくても巻き込まれることがあります。ネットでは有象無象の情報が転がっており、何が本当で嘘なのか、その見分けは簡単にはつきません。だからこそ、おそろしいのです。
本書は決して被害にあっている人ためだけに書かれているわけではなく、むしろ、ネットを使う全ての人たちに必要な知識であるといえます。ネットを使ったコミュニケーションや情報収集が当たり前になった今だからこそ読んでおきたい一冊です。
(新刊JP編集部)
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