普段、作家や著者たちに話を聞いている新刊JPが、「朗読」にスポットをあて、本を朗読している人にお話を聞くインタビュー企画。第3回は、オーディオブック版『デルトラ・クエスト』シリーズ(岩崎書店/刊、公式ページはこちら)の主人公・リーフ役や、オーディオブック版『桐島、部活やめるってよ』(集英社/刊、公式ページはこちら)の前田涼也役を演じている斉藤壮馬さんが登場。
斉藤さんは気鋭の声優として『アカメが斬る!』(タツミ役)、『残響のテロル』(ツエルブ/久見冬二役)、『ハイキュー!!』(山口忠役)など多数のアニメ番組に出演。今、最も勢いのある若手声優の一人といっても過言ではない。
そんな斉藤さんは、本を音声化した「オーディオブック」や、「朗読」をテーマとしたラジオ番組「ニッポン朗読アカデミー」に出演しているなど、「朗読」にも意欲的に挑戦している。また、根っからの「本好き」ということで、国内外問わずさまざまな文学作品を読み漁る読書家でもある。
今回はそんな斉藤さんに、前半は「朗読」について、後半は「これから朗読したい作品」や「読書歴」についてお話をうかがった。特に後半の展開は読みごたえアリだ!
(新刊JP編集部/金井元貴)
■高校時代の先生から教わったこと
――まず、斉藤壮馬さんは非常に読書が好きということで、いろいろなジャンルの小説を読まれていることを公言されていますが、本との出会い、読書の原体験というところからお話いただけますか?
斉藤さん(以下敬称略):これは本が好きになったきっかけでもあるし、声優という仕事にもつながっていくのですが、小さな頃、母親がよく本の読み聞かせをしてくれていたんですね。当時は民話や神話が多かったのですが、母親は読むのがとにかく上手で、女性にしては低めの声で、すごくワクワクしながらいつも聞いていました。
ただ一つ、僕よりも母親の方がはやく眠くなってしまうところがあって、僕は物語の続きが気になるから、自分で本を読むようになり、好きになっていきました。また、僕の家族みんな本が好きで、特に祖母はかなりの読書家で家に本がたくさんある環境でもあったので、そこからも影響を受けていると思います。
――では、「朗読」というといかがですか?
斉藤:国語の授業で文章を音読するというところが最初ですね。でも、昔から音読は得意でした! 小さな頃から本に慣れ親しんできたから読むことに抵抗がなかったし、たぶん、ページを開いたとき、一度に読みとれる文字数が多かったのかもしれません。自分はあまり前に出るタイプではなかったのですが、声に出して読むということは、あまり違和感があることではなく自然なことでしたね。また、はっきりと読むと先生が褒めてくれますし(笑)
朗読は、高校生のときに放送部に所属していたときにはじめました。顧問の先生から一貫して教わったことは、もちろん、上手く読むことや丁寧に読むこと、きれいに読むことはできるに越したことはないけれど、やはり「伝えること」が一番大切なことだということでしたね。
――今、斉藤さんは「ニッポン朗読アカデミー」というラジオ番組に出演されていらっしゃいます。身近な事柄について感情を込めておおげさに「朗読」をするコーナーがあったり、「朗読」で遊ぶようなコーナーがあったりと、「朗読」にスポットをあてた番組になっています。そういう意味でも、今でも「朗読」の近くにいらっしゃいますが、斉藤さんが考える「朗読」の面白さと難しさとはなんでしょうか?
斉藤:これは朗読に限らず、アニメやラジオ、他の媒体であっても同じですが、僕は目の前の空間に向かって話しているのではなく、その向こうにいる誰かに伝えることを一番に考えています。
仕事柄、聞き手がすぐに目の前にいるケースはあまり多くはありません。でも、先日「日本朗読アカデミー」のイベントをやらせてもらったときに、リアルタイムで盛り上がる様子を見たりとか、お手紙をいただいたりとか、そういった反応があって「伝えることができた」という満足感といいますか、何も代えがたい楽しさを感じたんです。多分それは、一緒に一つのものを作り上げる仲間やスタッフの皆さん、そして聞いて下さる方々がいて形になるという部分も大きいと思います。
一方、難しさもそれで、表裏一体なんです。自分はこう伝えたかったけれど、まったく違った捉えられ方をされることもありますし、例えば自分なりに悲しいという感じで演じても、人によって悲しさの度合いや受け取り方も違う。良くも悪くも答えがないという点が難しさだし、だからこそ、一生試行錯誤しながら、やり続けることができるものだと感じています。
――オーディオブックのお話をうかがいたいと思います。斉藤さんは『桐島、部活やめるってよ』と『デルトラ・クエスト』という2つの作品にご出演されています。この2作はいわゆるラジオドラマ風といいますか、キャラクターを演じているという点で、普通の朗読ではありません。また、もちろんアニメとも違い、絵がない。斉藤さんはこの2作にご出演されて、アニメとの違いはあると思いますか?
斉藤:あります。「間」の存在ですね。アニメだと自分勝手に「ここは黙りたい、間をとりたい」と言うことはできません。でも、オーディオブックの場合は、基本的に本を読んでいくものなので、必然的に「間」というものが生まれます。
『桐島、部活やめるってよ』の収録のとき、最初、「間」をたっぷり取らせてもらっていたんです。でも、聴いてみると、自分に都合のよい「間」、自分の芝居が成立している間と、聴いていて心地のよい「間」は違うということが改めて分かりました。これって、すごく面白いことだと思うんです。「間」の取り方でこんなに違うように聞こえるんだと。
――オーディオブック版『桐島、部活やめるってよ』では前田涼也という映画好きの高校生を演じていらっしゃいます。読む上で気を付けたことはありましたか?
斉藤:『桐島、部活やめるってよ』は、この話をいただく前から読んでいましたし、映画も観ていて、最初に読んだときはすごく読みやすい作品だと思っていたのですが、ひとつひとつの文章をちゃんと声に出して読んでいくと、視点の変化、展開…一つの段落の中で目まぐるしく変わるんですよ。その展開をどうやって声で表現しようかと、やりがいを感じていました。また、前田涼也君は僕の高校時代によく似ているなあと(笑)
――役柄としては、感情移入しやすかったのではないですか?
斉藤:映画版では主人公でしたが、小説ではエピソードの中の主人公の一人という位置づけですからね。(収録中に)ディレクターの伊藤さんから「もっと暗いキャラクターでいい」と言われて、「いつも通りでいいか」と(笑)高校時代の自分を思い起こしました。だから、『桐島、部活やめるってよ』はある意味で素の自分が出ているんじゃないかなと思います。
――また、現在は『デルトラ・クエスト』のオーディオブック版が順次配信を開始しているということで、斉藤さんは主人公のリーフ役を演じていらっしゃいます(10月23日に第3巻発売)。『デルトラ・クエスト』といえば2001年から出版されている世界的な児童書ですが、ちょうど斉藤さんもその世代でいらっしゃいますよね。
斉藤:そうなんです。小学校のときに読んでいました。ちょうどファンタジーものが流行していた頃で。主人公のリーフは機転がきくところはありますが、まだ世間知らずの子どもなんですね。特に第1巻の頃は子どもっぽさが強かったので、アドバイスをいただいて一度フラットにして、自分が子どもの頃に読んでいたときの気持ちを思い出しながら作品に向き合うようにしました。
――大人になって読み返してみて、新たな発見はありましたか?
斉藤:『デルトラ・クエスト』は児童書なので、謎解きも本当に悩ませるようなものは出てこなくて、少し考えてひらめきがつかめると解けるくらいのバランスになっているんです。だから、読み物としてのリズムがすごく良いですし、「分かった!」という気持ちの高揚感のまま読み進められます。オーディオブックとして聴いても、すごくワクワクできる物語だと思いますから、これまでそういう作品に少しでも触れたことがあったり、自分の中に冒険心やファンタジーへの憧れを持ち続けていたりする人にはぴったりだと思いますね。
(後編に続く/後編では斉藤さんに好きな本を3冊ピックアップしていただきます!)
■斉藤壮馬さんプロフィール
4月22日生まれ、山梨県出身。趣味は読書、映画鑑賞、散歩・楽器演奏、料理。
主なアニメの出演作品は「残響のテロル」(ツエルブ役<主役>)、「トライブクルクル」(天宝院ユヅル役)、「魔法科高校の劣等生」(五十里啓役)、「アカメが斬る!」(タツミ役)、「フューチャーカード バディファイト」(龍炎寺タスク役)、「イナズマイレブンGOギャラクシー」(ルスラン・カシモフ役)、「それでも町は廻っている」(真田広章役)、「戦国☆パラダイス-極-」(立花宗茂役)ほか。
オーディオブックにも出演しており、主人公のリーフ役を演じる『デルトラ・クエスト』シリーズは10月23日に第3巻が発売予定。
【関連記事】
・
朗読で広がる声優による復興支援の輪――声優・井上喜久子さんインタビュー(1)・
朗読で大切なのは「やりすぎないこと」――声優・笠原あきらさんインタビュー(1)・
あの人気作家が猫の着ぐるみを…? 笑いあり涙ありの朗読会をレポート・
ラジオならではの手法で“読書離れ”食い止めたい声優・斉藤壮馬さんインタビュー