なぜ人を殺してはいけないのか、なぜ仕事をしなければいけないのか、なぜ勉強をしなければいけないのか――「あまりにも当然のことだから議論にあげる余地もない」、そんなたくさんのことが、私たちの周囲にはありふれている。制約、暗黙の了解など、法によって明文化されているルール以外にも、私たちの生き方を左右するようなものはたくさんある。しかもそれらは常に変化し続けていて、常に適応を求められる。
しかし、そういった枠組みから抜け出して外側から見てみる。すると、社会という私たちを規定するものの、本当の姿が見えてくるはずだ。そこから自分の生き方を考えてみてもいいのではないだろうか。
『次世代へ送る〈絵解き〉社会原理序説』(dZERO/刊)は、「社会」というものの基盤にある部分、つまり、私たち人間が存在し続けている限り変わることがない「根本的しくみ」について、映画監督であり作家であり、路上哲学者のさかはらあつしさんが優しく平易な言葉と手書きの図で説明する一冊である。
■円錐で示される社会の4つの階層
さかはらさんは本書の中で、コーン(円錐)によって社会のしくみを示す。その円錐は次の4つの階層から成り立っている。
(上)
第四階層…価値観
第三階層…政治活動
第二階層…経済活動
第一階層…自然
(下)
まず最も下の階層、つまり土台にあたるのが「自然」だ。私たちは自然を支配していると思いがちだがそうではない、自然がなければ私たちは生きていけない。社会は自然の中に存在するというのが本書の大前提となる。
次の階層は経済活動だ。自然、つまり、天然資源を使って経済活動は興る。その天然資源は有限であり、使いすぎると枯渇するおそれがあるし、「これは私のものだ」と主張する人間が現れて、資源をめぐった争いが起こるかもしれない。
しかし、天然資源はそもそも誰のものでもない。「所有」は人間が作り出した単なる概念で、「法律」というこれまた人間がつくった「構築物」で「権利」として縛りつけているだけなのだ。忘れてはいけないのは、自然はまったく変わらずに、そこに佇んでいるということである。
さて、「法律」は第三階層の政治活動にあたる。ここは、社会のルール決めをするところで、社会の資源をどのように配分し、どのように社会を動かしていくかを規定する。
つまりそれは、「何が大切で、何に価値があるのか」という基準、つまり第四階層の「価値観」と直結する。しかし、それは政治によってのみ作られるわけではない。例えば「歴史」「神話」「マスメディア」「教育」「文化」といったものも影響する。
このように、私たちの社会は大きな4つの階層によって成立しているとさかはらさんは説く。
■あなたの仕事は一体どうなるのか?
この『社会原理序説』の大きな特徴は、どうして私たちは仕事をしなければいけないのか、私たちそれぞれが選んだ仕事の先には一体何があるのかということを、全体のページ数の半分をさいて、懇切丁寧に教えてくれるという点だ。
4つの階層と、これから先も起こり続けるだろう大きな社会の変化を貫いて「仕事」というものを見渡したとき、それまでとは違った「仕事」像が見えてくるはずだし、個人としての生き方について考えるチャンスにもなる。
本書はなるべく若い頃に読んでおいたほうがいいように思う。若い人であればあるほど、自分の将来を考える余裕があるからだ。でも、もちろん、就職をしてからしばらくたったビジネスパーソンが読んでも得るものがあるはずだ。「仕事」というものを一から捉え直すきっかけになるはずだから。
(新刊JP編集部)
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