2020年の東京でのオリンピック開催が決まったが、今後しばらくはオリンピックが日本経済においての最大の“目標”になるはずだ。公共インフラの整備や不動産、観光をはじめ、さまざまなところに好影響が出ることが予想される。
しかし、その一方で東京オリンピック開催に反対をしていた人もいる。
アメリカの経済誌「フォーブス」の元アジア太平洋支局長で、現在はフリーランスのジャーナリストとして活動を続けるベンジャミン・フルフォード氏はその一人である。
フルフォード氏の最新著作となる『ファイナル・ウォー』(扶桑社/刊)では、ここ最近に世界中で起きた様々な事件・事象を、彼の独自の視点で切り込んでいく。その範囲は、世界トップクラスの金融会社の上級役員やエコノミストたちの死からはじまり、世界各地で起こる異常気象、資源の戦争など広範囲にわたる。
その中でも気になるのが東京オリンピックについての言及だ。
フルフォード氏は2020年の東京オリンピック開催に沸き返る日本を見て、違和感を覚えたという。それは、1964年の東京オリンピックとそれ以降の日本について誰も触れようとしないからだった。
1964年までの日本は高度成長の中、オリンピックに向けてのインフラ整備などを中心に経済も急成長を遂げていた。当時のGDPの成長率は名目で10%以上、実質でも1964年までの5年間のうち、4年で10%を超えるほどだった。
しかし、1965年になると名目成長率は10.2%、実質成長率は4.4%まで落ち込み、5%を割り込んだ。確かにこの数字も現代から見ればすごいのだが、当時としては「成長が鈍化した」と考えるのが自然だろう。
しかし、この1964年は日本の驚くべき戦後経済成長の一つの到達点であったとともに、大きな歪みを生むきっかけとなった年になっていたことも明らかになる。フルフォード氏が調べたところによると、1964年に山一証券が赤字になり、取り付け騒ぎまで発展。さらに、サンウェーブ(初代)や日本特殊鋼、山陽特殊製鋼などが次々と倒産する。
こうした背景を受けて、税収が急速に悪化した日本政府は、戦後初めて「特例国債」を発行することになる。この時初めて発行した赤字国債以来、一部期間を除いて発行が常態化し、現在の日本の財政赤字の要因になっているのは周知の事実であるとフルフォード氏は指摘する。
さらにフルフォード氏はオリンピックによる経済効果にも疑問を投げかける。
本書ではその根拠として、経済学者のジェフリー・G・オーウェン氏による「オリンピックのスタジアム建設などに伴って生じる雇用は、完全雇用ならば他の雇用を奪って生じたことになるため意味はない」という説を紹介。さらにオーウェン氏の論文から、1996年のアトランタでは、一時期的に雇用が増えたものの短命に終わり、観光資源としても他の観光地への客を奪っただけに終わったとし、2000年のシドニーでも建設された施設がその後及ぼした経済効果は「むしろ支出を増やすもの」になっているという事例も取り上げている。
それでも、2020年の東京オリンピック成功は今の日本にとってポジティブな“目標”であり、開催に反対していたというフルフォード氏も認めるところだ。
「あとがき」でフルフォード氏は、「オリンピックなどという『餌』に食いつくとろくなことがない」と言いながらも「決定してしまった以上は、そのオリンピックを爽やかな気分で観戦したいと思っている」と書いている。
本書では、国内外で起きている様々な出来事に対して、フルフォード氏が自身の取材を通して、その裏の奥の部分まで“憶測”を貼りめぐらせている。それをどう受け取るかは読者次第といったところだろう。
(新刊JP編集部)
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