ハーバード大学出身という高学歴の持ち主ながら、22歳のときに来日し、異国の地で日本人とお笑いコンビを結成。バラエティ番組だけでなく、語学番組や教養番組にも出演し、軽妙なトークでお茶の間の人気者となった外国人といえば、パックンマックンのパックン、本名パトリック・ハーランさんです
そんなパトリック・ハーランさんは、ジャーナリストで東京工業大学教授である池上彰さんの紹介で、2012年から同大学の非常勤講師に就任し、「コミュニケーションと国際関係」という講義を担当しています。
その人気講義を書籍化したものが、『ツカむ!話術』(KADOKAWA/刊)。
本書のテーマは「トーク術」。ハーバード大学で学んだ理論と、お笑い芸人やコメンテーターとして実践で磨いた話術を余すことなく伝授してくれます。
今回は本書についてパトリック・ハーランさんにインタビュー! この後編でもパックン節がさく裂しています!
(新刊JP編集部/金井元貴)
■「痛い目は美味しい目、失敗は笑いの種」
――パックンが子どもの頃に読んでいた本で、最も印象に残っている一冊はなんですか?
パックン:これはいっぱいあります。小説が大好きで読んでいたし、あとは、聖書も好きでした。ミサの説教がつまらないから、ずっと読んでいた! 周囲からは聖書を読んで偉いねと言われるし。旧約聖書はファンタジーみたいで、『ロード・オブ・ザ・リング』と通じるものがあって、読んでいて楽しかったです。ただ、その結果、神様を信じられなくなったのですが……。
ギリシャ神話も読みあさったし、キップリングも30冊くらいは読んでいます。それと、アーサー・コナン・ドイルの『シャーロックホームズ』シリーズも好きでしたね。普通のアメリカのジャンキーな小説も読んでいるし…。テレビがなかったので、子どもの頃は本ばかり読んでいました。
――コナン・ドイルといえば、映画『名探偵コナン 異次元の狙撃手』で声優のお仕事をされていますよね。
パックン:そうなんですよ。意外にもお仕事が来てしまいましたね。あっ、エドガー・アラン・ポーも多少読んでいます。
――今でも本はたくさん読まれるのですか?
パックン:以前ほどは読まなくなりましたが、今は池上さんの本を読んでいます。前は吉本ばななさんの本も読んだし、最近ならカーレド・ホッセイニというアフガニスタンの小説家が書いた『カイト・ランナー』という小説も読みました。それは中近東やアフガニスタン、パキスタンの勉強をしようと思ったのがきっかけですね。
雑誌では外交の専門誌とか『TIME』誌なんかも読みます。読んでいるとあっという間に時間が過ぎ去りますね。
――後半ではプレゼンや交渉術など、実践的に使える話術を紹介されていますが、特にディスカッションやディベートのスキルが詳しく書かれていて新鮮に感じられました。日本人が最も不得意としているところの一つですね。
パックン:確かに日本人は議論やディベートがあまり好きではないということは感じますね。僕は天の邪鬼だから、反対意見を言いたいときがある。議論をしたくて、あえて反対意見を言っているのに、全く乗ってこなくて寂しいときがあります。
――相方の吉田眞さん(マックン)とは議論をすることがあるのですか?
パックン:議論より喧嘩になります。それも兄弟みたいなもので、感情的になってしまうんですよ。マックンはストレートに物事を言うので、僕が「自分はそうは思わないけど、まあいいよ」で終わるか、喧嘩になるかどちらかです。
喧嘩の原因は、ネタのダメ出しが多いですね。一生懸命相方のためにネタを書いてきてストレートに「これつまんないよ」って言われたら、怒るでしょ? 「じゃあ、あんたが書けよ!」って言いたくなる。そんな感じなので、兄弟みたいなんです。一番議論ができるのは、妻ですね。
――お笑いのステージに立っている中で学んだことはなんですか?
パックン:たくさんあります。この本の帯を見てください。表に「ハーバード流」とでっかく書いてありますが、裏に小さく「笑いのコツ」と書いてあるでしょ。でもこの本は、「ハーバード流」と同じくらい「芸人流」で磨いた話術が入っているんです。「笑いのコツ」は本当に小さい字ですけどね。
「笑いのコツ」はその場のことを拾って使うことです。上手い司会者はみんな使っていますよね。3分前、5分前に出た話の内容をカウンターの上に置いておいて、いずれ使える武器として揃えておくんです。舞台や番組ではそれを心がけておいて、一回笑いを取って、さらに二回目も取るという。
――話している中でも、頭の中を整理し続けるということですね。
パックン:出来るならばそうしたほうがいいですね。だから、同じ話に参加している他のお笑い芸人が、自分より早く前に出たことを持ち出して笑いを取ると、スゲエ悔しい!みんな同じ武器を持っているわけで、いつどのタイミングで出すかというのをはかっているんです。
あとお笑い芸人を通して学んだことをもう一つ言うと、これは僕の生きざまでもあるのですが、「痛い目は美味しい目」です。失敗は笑いの種です。それをどこかで話すことによって笑いが取れる。痛い目にあって損をしたじゃなくて、どこかで元が取れるんです。
例えば以前、僕は自転車に乗っていたときに落ちて鎖骨が折れてしまったことがあるのですが、もう十分すぎるくらい元が取れました。あとは、これから走ろうと思って準備運動をしていたらギックリ腰になった話もそうです。怪我をしないためにストレッチなのに、ポキッと。悲しかったですが、ネタとして十分使えます。
――失敗談というのは大変盛り上がりますよね。ただ、失敗に対して厳しい目を向ける人もいます。
パックン:うん、だからお笑い芸人だからできる技というのもあるかも知れません。僕はちょっとした失敗を笑いに変えられるのは余裕があるからでもある。勝ち組だからねでも、日本人もアメリカ人も失敗したときは悔しがるし、怒るけれど、後々にそれで話が盛り上がるし、何より敵を作らないですよね。
もちろん、株のトレーダーが「自分、これだけ損しちゃいました」と言うのは、クライアントからの信頼を失うことになるのでしない方がいいです。でも、昔の大恥かいた話を、飲み会で晒してみるというのも、「あなたは面白い人ですね」となるかもしれない。面白がられることが大事だし、かばってもらえるようにもなりますから。
アメリカには主賓をいじるパーティーも結構あるんですよ。「今日は誰々の引退パーティーです。それでは、何々さんにお言葉をいただきます」「うちのボスは、本当に最高のボスです。だって、全部仕事をまわしてくれるんですよ。あの企画も私が考えたものなんです」といって笑いを取ったりしてね。「ロースト」というのですが。
――主賓の心はいかばかりか…。
パックン:それは主賓の人間の大きさ次第ですね。たまに間違えてとんでもないブッキングをしてしまい、可愛いローストどころではなくなってしまうこともあります。それは注意が必要ですね。
――では、この本をどのような方に読んで欲しいですか?
パックン:みんなに買って欲しい。読むかどうかは自由で、買ってください! この本は、いろいろな方の役に立つと思うけれど、特に新しい何かに挑戦したいと思っている皆さんには、効果を発揮します。学生生活、社会人生活、結婚生活、子育て、婚活、就活……『ツカむ!話術』というタイトルの通り、何かをつかみたい人はこの本を懐に入れて、攻め込んでもらいたいですね。
――ありがとうございます。このインタビューの読者の皆さまにメッセージを。
パックン:話術はいわば思考術です。話術を鍛えることで自分の頭も鍛えることができます。だから、人との付き合いだけではなく、自分のためにも磨くべきものだと思うんですね。自分の人生を明るく、楽しく、より世界がはっきりと見えてくるように話術を磨いて、学んでもらいたいなと思います。
(了)
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