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パックンが語る、ハーバード流“頭の使い方”

  ハーバード大学出身という高学歴の持ち主ながら、22歳のときに来日し、異国の地で日本人とお笑いコンビを結成。バラエティ番組だけでなく、語学番組や教養番組にも出演し、軽妙なトークでお茶の間の人気者となった外国人といえば、パックンマックンのパックン、本名パトリック・ハーランさんです

 そんなパトリック・ハーランさんは、ジャーナリストで東京工業大学教授である池上彰さんの紹介で、2012年から同大学の非常勤講師に就任し、「コミュニケーションと国際関係」という講義を担当しています。
 その人気講義を書籍化したものが、『ツカむ!話術』(KADOKAWA/刊)。
 本書のテーマは「トーク術」。ハーバード大学で学んだ理論と、お笑い芸人やコメンテーターとして実践で磨いた話術を余すことなく伝授してくれます。
 今回は本書についてパトリック・ハーランさんにインタビュー! この前編ではハーバード流“頭の使い方”を教えてもらいました。
(新刊JP編集部/金井元貴)

■相手に嫌な印象を与えずに自分のことを自慢するには?

――本日はありがとうございます。『ツカむ!話術』はとてもロジカルながら、笑いの要素も織り交ぜられていて、新しい感覚のコミュニケーションの本でした。

パックン:ありがとうございます。

――今日はなんてお呼びすれば良いでしょうか。パックン先生はいかがですか。

パックン:パックンでいいですよ!パックン先生と呼ばれるとすごく中途半端な感じがしますね。

――わかりました(笑)今、パックンは池上彰さんのご推薦で、東京工業大学で非常勤講師をされているとのことですが、どうしてそのお話を受けたのですか?

パックン:自分にとっての社会貢献の一つですね。コミュニケーションスキルや話術は、国際的にも非常に重要なスキルですが、それを次世代に伝えていくことが自分にとっての責任というか、大事なテーマだと思っています。
 今回、角川書店さんが本を出しませんかという話をくださって、ありがたく受けたのも、授業の内容プラスアルファを、新書という形で多くの方々に知っていただくことができれば、自分の仕事として非常に大きなものになると思ったからです。

――パックンはお笑い芸人としてもご活躍されていて、立川談志師匠にも可愛がられたそうですけど、そういった方の話術を直に学べるというのは、学生にとってはすごく良い環境なのではないかと思います。

パックン:僕が言うと自慢に聞こえるかもしれないけど、彼らは恵まれていますよ。僕の授業を受けない他の何千人の学生たちは損していますね。

――(笑)この本の最初に、東工大の学生の8割がコミュニケーションに悩んでいるというデータを見つけて、コミュニケーションに関する授業をしようと考えたと書かれていましたが、具体的に接してみて、どういった場面でコミュニケーションのまずさを感じられましたか?

パックン:これは学生に限らず、国民性によるものだと思うんですが、自己PRが足りないですね。相手に自分の凄さを直接言わずに汲み取ってもらおうというやり方は日本人同士ならば空気を読んで成り立っていたんでしょうけど、国際社会の中ではそれでは通用しないと思うんですね。
 自分のいいところを、嫌な気分を与えずにアピールすることができると、外交でも貿易でも、すごく強くなると思います。決して威張る必要はありませんが、さりげなく自慢できるような力をつけないといけません。
 もう一つは、説得力を身につける必要があるということです。上からではなく、対等な立場や下の立場から、権力に頼らずに人を説得する力です。日本では議論というものがほとんど見られなくて、民主主義社会に必要なスキルを備わっている人はあまり多くないのではないかと思いますね。

――僕自身、このようにいろいろな方にお話をうかがっているのですが、相手に嫌な印象を与えないようにすると、どうしても突っ込んだ話ができなくなるときがあります。深堀りしたり、反対意見を言ったりするのは、すごく憚られてしまうときがありますね。

パックン:日本では意見が対立すると、個人攻撃にすり替えられるでしょ。意見が否定されたら、それが自分自身も否定されたと受け取ってしまう。実はそれは、話し手だけではなく、聞き手にも問題があるんです。“thick skin”つまり鈍感さを身につけて話を聞いた方がいいと思うんですね。
 個人攻撃と受け取ってしまうと、感情的になって議論が進まなくなりますし、お互い悪印象のまま終わってしまう。でも、悪印象にならないまま、伝える話術はあるんです。

――この本はその点で、とてもロジカルに話を聞く姿勢を身につけることができる、非常に冷静になれる一冊だなと思いました。

パックン:コミュニケーション力を身につけるというテーマの本は数え切れないほどあると思うんですが、この本のパトス・ロゴス・エトスという修辞学の構成に基づいて論理的に伝えていこうという特徴は、僕の性格的なものですね。

――論理的に理解していないと「才能があるんだ」だけで片づけてしまいがちです。

パックン:そうそう。魔法みたいに思えちゃう。でも、ツールを通して考えて、冷静に分析すれば魔法じゃなくなるんです。「人の気持ちを考える」ということも、相手の立場に合わせた言葉、相手が反応する言葉を選ぶということをすることが大事で、それは才能がなくても磨くことができると思います。

――そういえば、この本の中でパックンと池上彰さんの対談が収録されています。漫才的なやりとりも可笑しくて笑いながら読めるのですが。池上さんがパックンの授業を聴講していたら、しきりに「ハーバード出身」を強調していたそうですね。

パックン:いやらしいですよね……。

――でも、それもこの授業が役に立つと思ってもらうための「戦略」なんですよね。ところで、ハーバード大学の人たちの頭の使い方は、私たちのような普通の日本人と一番異なるところはどこだと思いますか?

パックン:それはいい質問ですね。ハーバードの現役大学生も、卒業生もピンキリだから一概には言えないところがあります。超エリートのビジネスマンや政治家もいれば、日本で中途半端な芸人になっている人もいるからね。
 ただ、素直じゃないという印象はあります。言われたことを鵜呑みにせず、反論もするし、話に乗るときも何かひとクセある。それも一つの話術になるんです。批判的思考とともに、プラスアルファ、何か付加価値をもたらして返そうとする、それがハーバード流ですね。
 有名な話ですが、テストで知らないことについて聞かれても、ハーバードの学生は小論文が書けてしまうんです。例えば、デカルトの「実存主義」という主張について論じよと聞かれて、全く知らないとしましょう。すると、その問題への突っ込みで小論文を仕上げてしまうんです。「存在の定義は」とか、「存在主義はパラドックスだ!」とか。素直に知らないとは絶対に言わない。

――パックンにもそのご経験が?

パックン:ありますよ。試験で0点とるならダメ元で誤魔化してみようとしたところ、稀に高得点を取った覚えもあります!

(後編では「お笑い」から学んだことを直撃!)

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