出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
第57回となる今回は、新刊『豆の上で眠る』(新潮社/刊)が好評の、湊かなえさんが登場してくれました。
13年前に起こった姉の失踪事件を巡り、事件当時と現在に残された謎は何を示すのか?戻ってきた姉に違和感を持つ妹が記憶を辿り、真相に迫る物語には、ミステリ好きでなくても引き込まれてしまうはず。
この作品はどのように作られていったのか。その成り立ちに迫るインタビュー、第二回です。
■「書籍化されてから読めばいいや」は敗北感
―初めての週刊誌連載だったということですが、難しかったことはありますか?
湊:毎週15枚というペースだったので、15枚ごとに新しい発見があったり、謎が提示されたりと、読者の方々に次はどうなるんだろうと思っていただける終わり方を意識していました。これまでに書いた作品とは物語が進むテンポが違っていたと思います。
―15枚というのは作家さんからするとどういう量なのでしょうか?
湊:一気に60枚とか80枚とか書く中での15枚だと勢いで走り抜けられるんですよ。でも、15枚でひと枠と考えると難しいというか、勢いだけでは書けません。
―今回は後者だったわけですね。
湊:そうですね。60枚の中の15枚なら、そこに見せ場がなくても大丈夫なこともあるのですが、毎週15枚ずつ週刊誌に載るわけですからそういうわけにはいきません。一回でもつまらない回ができてしまうと「書籍化されてから読めばいいや」と思われてしまうかもしれませんし、そうなったら作家としては敗北感がありますから(笑)。
―湊さんといえば「イヤミス(=読んだ後に嫌な気分になるミステリ)」というジャンルで語られることがあります。ご本人の志向として、例えばバッドエンドを好んでいるというようなことはあるのでしょうか?
湊:それはないです。決してバッドエンドが好きなわけではないのですが、かといって無理に「いい話」にしようとも思っていません。
それと、バッドエンドがすべて悪いわけでもないんです。私が小説を書く時のアプローチとして「こういう事件が起きた時、制御しなかったらどうなるだろう、誰も止めようとしなかったらどうなってしまうだろう」というのを妥協せずに考えるというものがあります。
現実であれば、悪いことが起ころうとしていたらどこかで修正しないといけませんが、物語だから行きつくところまで行ける。それによって、最悪のところまで行かないためにどうすれば良かったのか、とも考えられるわけです。実際に、物事が悪い方向に向かっているところから軌道修正するお話も書きたいなと思っています。
要するに、自分の見たいものがどこにあるかによって結末が違うという話であって、読者の方を嫌な気持ちにさせようと思っているわけではないんですよ。
―子どもの頃からかなりの読書家だったと伺っていますが、最近読んでおもしろかった本はありますか?
湊:最近読んでいるのはミネット・ウォルターズというイギリスの女性作家の作品です。『遮断地区』などが有名ですが、閉鎖された空間で人の偏見や誤解によって事件が大きくなってしまうというような作品を書いている方で、自分が書いているものと通じるところがあります。見習うところもありますし、挑みたいところもあって読んでいますね。
―子どもの頃はどんな本を読んでいましたか?
湊:子どもの頃は、それこそ江戸川乱歩とか、赤川次郎さんやコバルト文庫など王道です(笑)。
―江戸川乱歩のシリーズは大体学校の図書室にありましたからね。今もあるのかはわからないですが……。
湊:文庫版で復刊したという話を聞きましたけど、今の子ってああいうのを読むんですかね。私の頃は、江戸川乱歩の「少年探偵団」シリーズや、モーリス・ルブランの「怪盗ルパン」シリーズはみんな読んでいましたから、図書室の棚はいつも歯抜けで、「早くあの巻が戻ってこないかな」と待ち遠しかった記憶があります。
―子どもの頃からミステリが好きだったんですか?
湊:そうですね。母の持ち物だったのですが、家に「怪盗ルパン」の少年少女向けのシリーズが2冊くらいあって、それがすごくおもしろかったんです。それで学校の図書室に行ったらもっとたくさんあったから読むようになりました。ミステリはそれが最初ですね。
やっぱり謎があるってドキドキするじゃないですか。特に江戸川乱歩は、非日常的な要素が多くて好きでした。変装ひとつにしても、「そこまで他人になれないだろう!」というのがあったり(笑)。あとは「不思議な洋館」とか。
―わかります。有名な変装に「郵便ポストに化ける」というのがありました。
湊:ありましたね。あとはバラバラ死体のパーツがデパートのマネキンの中に紛れ込んでいたり、暗闇に完全に溶け込んで歯だけが浮きあがっていたり、気球に乗って逃走したり、ワクワクするシーンが多かったです。
―「少年探偵団」のシリーズは、怪人二十面相が出てくるものと出てこないものがありますが、湊さんはどちらが好きでしたか?
湊「怪人二十面相が出てこないものの方が好きでした。二十面相は何となく展開が予測できるから、登場した時点でちょっとホッとしちゃうんですよ(笑)。それもあって、次第に「少年探偵団」シリーズ以外の、大人向けの乱歩作品に移行していきました。
高階良子さんが『ドクターGの島』として漫画化した『幽鬼の塔』などはドキドキ感が強くて良かったです。
―私もミステリから読み始めたのですが、それ以外の本を読めるようになるまで時間がかかりました。「謎がない本をどう読めばわからない」という状態だったのですが、湊さんは他のジャンルにも手を広げていけましたか?
湊:その状態はわかります。そもそもミステリじゃない本といっても、何を読んでいいかわかりませんしね。
私はコバルト文庫で新井素子さんの『星へ行く船』シリーズを読んだり、あとはSFの方に行きました。ただ、中学生になったら赤川次郎さんを読んだり、アガサ・クリスティを読んだり、ミステリは一貫して好きでした。ミステリ以外も読みましたけど、やっぱりミステリが楽しいなと思っています。
最終回 「絶対に小説を書いてやる!映像にできないものを書いてやる!」につづく
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