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“東へ北へ”―古川日出男、朗読イベントで東北への想いを届ける

  客席に三方を囲まれ、中央には4つの椅子と、マイク、机、ギターが置かれている。
 その空間の中で、ザ・ビートルズの軽快なロックンロールが鳴っている。
 次第に客席が埋まり始める。性別、年齢、服装…そこに集まる人たちに、共通した何かは見当たらない。幅広い客層が開演時間を待っている。

 8月10日、東京・墨田区のアサヒ・アートスクエアで、小説家・古川日出男さんによる朗読イベント「東へ北へ2013 ―アサヒ・アートスクエアより」が開催された。
 この「東へ北へ」というイベントは、2年ぶりの開催となった。
 2年前といえば、東日本大震災が起きた年だ。福島県郡山市出身である古川さんは、そのイベントで東北6県を舞台に狗塚一族の数奇な運命を描いたメガノベル『聖家族』(集英社刊)を朗読した。
 そして今回は、『聖家族』だけでなく、新たに震災後に出版された『馬たちよ、それでも光は無垢で』(新潮社刊)が朗読作品に加えられた。『聖家族』に登場する狗塚三兄妹の長男である狗塚牛一郎が登場し、被災直後の福島浜通りを舞台に作者の思いが綴られる本作は、出版直後から大きな話題となった。
 この2作を古川さんたちはどのように融合して表現するのか、期待が高まる。

 開演時間。ザ・ビートルズの音楽が鳴り止み、客席が設置されていない四方の残り一方の扉から女優の北村恵さんが入場して、語り始める。
 続いて登場した古川日出男さんの朗読がはじまると、その朗読を小島ケイタニーラブさん(歌・演奏)、黒田育世さん(踊り)、松本じろさん(演奏)、大友良英さん(演奏)が順々に中央の空間に現れ、各々の表現方法で古川さんの朗読を彩る。

 古川さんの朗読は、おおよそ私たちが普段イメージするような“単純に本を読み上げる”というものとは大きく異なる。自身が文字で書いた世界に生命を吹き込むように、身体的な表現を交えながら、声色を使い分けて読むのだ。オーディエンスが見つめる中央の空間には、常に緊張が張り詰めていた。

 終盤に差し掛かると、演者たちが中心に集い、各々の表現を古川さんの「朗読」に重ねて、狗塚三兄妹の物語を映し出していく。その光景はまさに「圧巻」の一言に尽きるものであり、演者たちが東北へ向けて祈りを捧げているようにも感じられた。

 真夏の夕方に、隅田河畔で奏でられた東北への想い。
 東日本大震災から2年が経過し、人々の間から震災の話題が少なってきているように感じる。そんな中で、古川さんの試みはそこに集まった人々に「東北」を強く意識させたに違いない。

文=新刊JP編集部
写真=朝岡英輔

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