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誰もが知る名作が勢ぞろい 読書が楽しくなるなぞりがきが登場!

  • 書名 『なぞりがき 日本の名作』
  • 監修・編集・著者名鈴木啓水
  • 出版社名ユーキャン

太宰治に夏目漱石、川端康成、谷崎潤一郎などなど。
普段それほど読書をしなくても、こうした「日本の文豪」の名前なら知っているという人は多いはず。もしかすると「恥の多い生涯を送って来ました。」(『人間失格』)、「吾輩は猫である。名前はまだ無い。」(『吾輩は猫である』)といった一節に、教科書などを通じて触れたことがある人もいるのではないか。

ただ、作家の名前は知っていても、作品となると「いつかは読んでみたいけどなかなか手が伸びない」ということになりがち。『なぞりがき 日本の名作』(ユーキャン刊)はそんな人でも日本文学の魅力に触れることができる一冊だ。また過去に読んだことがある作品も、「なぞりがき」をすることでこれまでとは違った側面が見えてくるだろう。

■誰もが知る名作が勢ぞろい!日本文学の粋に触れるなぞりがき

表紙

なぞりがきに集中することで、「瞑想」のように精神的な安定が得られる点はシリーズ前作の『なぞりがき 般若心経』『なぞりがき 百人一首』と同様だ。美しい手書き文字が身につくのもうれしい。

まずは『こころ』(夏目漱石)のページを開いてみた。この記事の筆者は高校の現代文の授業で触れた思い出があり、懐かしい。ちなみに夏目漱石といえば旧千円札でおなじみだが、紙幣の肖像に小説家が登場するのは漱石が初だったのだとか。

また小説家というと「ペン一本で勝負するフリーランス」というイメージが強いが、漱石は朝日新聞社の社員として月給をもらいながら新聞に掲載する小説を書いていたのだそう。ベストセラー作家になったのは死後のことなので、多額の印税こそ入らなかったが、収入は安定していたのかもしれない。作家たちにまつわるこうしたエピソードが本書には随所にちりばめられていて、読み物としても楽しい。

表紙

さて、『こころ』も漱石が朝日新聞に連載していた作品だ。
主人公の「私」と謎めいた「先生」との交流を描いた小説で、『なぞりがき 日本の名作』に載っている個所は、「先生」が自分の過去を暴こうと試みた「私」に対して、信頼に足る人物かを問う重苦しくも印象的なシーン。

なぞっていると、高校時代に現代文の教科書を忘れたペナルティとして全文丸写しした記憶が生々しくよみがえる。当時は早く終わらせたいばかりにひたすら書き殴っていたが、ゆっくりていねいに書くと、この場面からは人と人の魂が触れあうような神聖な雰囲気を感じとることができる。

もう一人、日本の作家の代表格が宮沢賢治だ。『銀河鉄道の夜』『雨ニモマケズ』『風の又三郎』などが知られているが、ここでは『注文の多い料理店』の一場面をなぞってみた。

表紙

『注文の多い料理店』は、実は『イーハトヴ童話 注文の多い料理店』という正式タイトルらしい。「イーハトヴ」というのは賢治が心の中に抱いていた架空の理想郷の名前。生前の賢治はこの理想郷を実現するための活動もしていたのだとか。

狩猟の途中で道に迷い「山猫軒」なる西洋料理店に行き着いた若い紳士二人が体験した災難をコミカルかつ不気味なタッチで書いたこの作品。「なぞりがき」になっているのは紳士二人が 「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません」 という、これから待ち受ける恐ろしい事態の「フラグ」に気づかないどころか、「道に迷って腹をすかせたところにレストランがあって渡りに船じゃん、ラッキー!」とばかりに大喜びする場面である。

表紙

幼少時に朗読テープで聞いた時も泣くほど怖かったが、書いてみても文章の一つひとつに不穏な方向への想像力をかきたてられ、宮沢文学の持つマジカルな力を改めて体感する。

このほかにも樋口一葉や中島敦の作品をなぞってみたが、どの作品も有名な一節、ハイライトになる場面が使われていて、ただ読むよりも深く作品世界に入れる印象だ。書いたものを朗読してみると、あたかも自分の作品のような達成感があったりも。

本書には石川啄木、永井荷風、志賀直哉といった明治から昭和の文豪の小説・詩歌に加えて紫式部『源氏物語』や鴨長明『方丈記』などの古典文学も揃っているため、気になる作家・作品がきっと見つかるはず。どの作品もあらすじと作品にまつわるエピソードが解説されているのが心強いし、随所に挟まれたコラムページで紹介されている文豪や文学についての豆知識を通して作家たちに親しみを持てるのもいい。「夏目漱石と芥川龍之介は互いにリスペクトし、評価し合う関係で、その芥川を斎藤茂吉は医師として診察していた」といった当時の作家たちの人間関係がわかれば、読書がいっそう味わい深いものになるだろう。

「書く瞑想」としてメンタルの安定が手に入るなぞりがきだが、名作ぞろいの日本文学に触れるきっかけにもなる。おまけに字もうまくなるということで、一石何鳥にもなる一冊である。

(山田洋介/新刊JP編集部)

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