転職が当たり前になった今、「勤めている会社でいかに出世するか」だけでなく、「自分の人材としての価値をどう高めていくか」も大切な視点となる。
『キャリアロジック 誰でも年収1000万円を超えるための28のルール』(実業之日本社刊)は、転職市場にまつわる知られざる実情を明かすとともに、他社から求められる、価値のある人材になるために必須のルールを解説する一冊だ。
今回は著者の末永雄大さんにインタビュー。転職を取りまく現実と、その現実に対処するために知っておくべきこととやるべきことについてお話をうかがった。ここではその後編をお届けする。
――タイトルにある「年収1000万円」という数字にはどんな意味があるのでしょうか。
末永:正直に言うと、もともとは「700万円」だったんです。だけど1000万円の方がキャッチーだという意見があったりして、最終的に1000万円になりました。
じゃあこの700万円にどんな意味があるのかというと、年収600万円と年収700万円の間には境界があるんです。年収600万円は、一般的にいって今いる会社の昇給で稼げる上限くらい。もちろん、年功序列の大企業に行けばもっともらえるところもあるんですけど、多くの人はそういう会社では働いていませんし、たとえそういう会社にいたとしても、今20代の人が40代になった時に、今の40代の人がもらっているくらいもらえるかはわかりません。
一方で700万円はどうかというと、この本でいう「年収700万円」というのは、「転職市場で年収700万でオファーを受けられる」つまり市場価値での年収700万ということです。どんな人がそういうオファーを受けられるかというと、専門的な知識と経験があって、マネジメントができて、しかも自分の知識と経験を普遍化して、再現性のある形でアウトプットできる人です。こういう人は、会社のおかげではなくて、自分の実力で会社に利益をもたらすことができる。
ここに達することが、自由と柔軟性を持って働くためのひとつのポイントで、ここまで行けたらキャリアとして「成功」だと言っていい。逆に私はそれ以上の成功は求めなくていいと思っています。
――転職市場で700万円の価値を持つことで人生はどう変わるのでしょうか?
末永:たとえば、会社に勤めていると転勤があったりしますよね。でも、30代半ばで結婚していて子どもがいるのに、急に遠くに転勤しろと言われたら、多くの人は嫌じゃないですか。
でも、転勤が嫌だから辞めるかとなった時に、社内価値しかない人は、極端な話、転職したら年収が半分くらいになってしまう。だけど、市場で評価されるだけの専門知識やマネジメントスキルがある人は自分で選ぶ側に回れますし、今よりも年収が上がる形で転職できる可能性が高いんです。
また、その段階まで行った人は、一時的に自分のやりたいことを優先させて、年収が低い仕事に移ったとしても、人材としての需要がありますから、再度転職して700万円に戻ることができるんですね。こういう自由さと柔軟性は、幸せになるための切符だと思っています。
――有名実業家やインフルエンサーの掲げるキャリア論にはほとんど意味がないと書かれていました。よくあるのが「好きなことだけやっていれば、お金は後からついてくる」的な言説ですが、この言説の問題点はどんなところにありますか?
末永:「勝てば官軍」という言葉がありますが、そういう言説って、実際に好きなことだけやってお金がついてきた人が言っているわけで、その人にとっては間違いなく正解なんですけど、再現性とか汎用性があるかといったら必ずしもそうではないんですよね。
彼らの言うことに食いつくのは副業フリーランスをはじめたい人とか、起業したいっていう人ですけど、多くの人が望むのはそういう人生じゃないですし、彼らのように何千万円、何億円も稼ぎたい人って、そもそもそんなにいないでしょう。その意味で、彼らの言うことって「普通の人」向けではないんです。
私は「普通の人」のためのキャリア本が書きたかったんです。正しい努力をすれば「バリキャリ」じゃなくても人材市場の中で700万円くらいの価値を持つことができるということがこの本を通して伝えたいですね。
――その「市場価値700万円」を達成するためには、若いうちから、ゴールから逆算してキャリアを進めていくことを提唱されています。一例として末永さんご自身が新卒で入ったリクルートキャリア時代に描いていたキャリアプランについて教えていただきたいです。
末永:実は、今の話からすると、私は「キワモノ」なんです(笑)。学生時代に起業しているので...。
16年前にSNS事業で起業したんですけど、単純なコミュニティサイトだとマネタイズが難しかったので、転職市場を意識した「日本版LinkedIn」のようなものを作ろうと思っていました。ただ転職市場のことはわからなかったので、一旦リクルートに就職して、そこを学んでみようと。
それが主目的だったのですが、サブ目的として「法人営業を学ぶ」「色々な経営者に会って、うまくいく人とそうでない人を分析する」「起業するのをやめた時のリスクヘッジ」「様々なビジネスモデルを分析して、SNS事業よりもやりたいことを見つける」「ウェブマーケティングを学ぶ」ということも目論んでいました。
――ものすごく戦略的ですね!
末永:全部をシャープにやっていたわけではないですけどね。唯一ウェブマーケティングだけはリクルートでは身につかなかったので、転職してサイバーエージェントに行きました。
ここまで具体的に要件定義してキャリアを積むべきとは今でも思っていませんが、もうちょっとみんなキャリアについて考えればいいのに、と思うことはあります。ぼんやりとキャリアを思い描いて、たとえば「最初はこのベンチャーでこれを経験しよう」となったとしても、いざ就職活動をすると、その通りに決断できずに、「置きにいく」感じで大手を目指してしまったりするので。
――「キャリアはポジショニング戦略(働く業界・業種・職種を選択することでキャリアの優位性を獲得すること)と競争優位の戦略(入社先でいかに定着・活躍できるかを考えること)の掛け算で考えること」とありました。ポジショニング戦略よりも、競争優位の戦略の方が難しそうです。入社後に定着・活躍できるかを判断するためのポイントを教えていただきたいです。
末永:これは前工程と後工程があります。前工程はポジショニング戦略と同様で、入社先を選択する時の工夫で、後者は入社後の自己研鑽です。本に書いたのは前工程の方ですね。
後工程については様々な本が出ているのでここでは省略しますが、前工程で大事なのは自分の適性と志向性を把握することです。適性はご存じのように「何に向いているか」です。同じ「営業職」でも業務プロセスのどこに強み・持ち味があるのかは、人によって様々です。そこを言語化してみる。
志向性はもう少し中長期的なお話で、自分はどんなところに動機づけられる人間なのかということです。この二つを言語化できている人って、実はほとんどいないんです。
――そこが言語化できていれば、転職の場面でも役立ちそうです。
末永:そうなのですが、実際は「営業職は営業職」としか捉えていない人が多いです。
この本では「因数分解」と書いているのですが、適正も志向性も、応募する営業職の求人に対しても、もっと細かく分析して、言語化すべきです。それができていれば、自分も企業も、面接の場面などで「合う・合わない」を判断しやすくなりますし、合うとなったら内定を出しやすいので。
――転職がうまくいくかどうかは、それまでの実務経験も大切ですが、その経験を言語化できるかというところも大きいのだと感じます。
末永:そうですね。うまくいかない人はおうおうにして、新卒の感覚で「will(やりたいこと)」ばかり語ってしまう傾向があります。
厳しいようですが、中途採用はやりたいことをやらせてくれるほど甘くはないです。だって、やりたいことをやらせるなら、すでに一定の「できること」を持っていて新卒からがんばってきてくれた既存の社員にやらせるのが普通でしょう。
それでいて、やりたいことばかり語る人は、そのやりたいことのいい部分だけを見て、ミーハー心でやりたいと言っている人も多い。これだと、企業とのミスマッチも起きやすいんです。企業側としては、そこは適性なり志向性を因数分解して言語化して、「この人はうちの会社で活躍してくれそうだ」と思わせてほしいところです。
――より多くのお金を得たいと思うのが人間ですが、お金だけのために働くキャリアは嫌だと考えるのも人間です。やりたいこととお金のバランスが取れたキャリアを送るためのアドバイスをいただきたいです。
末永:そのために必要なのが、まさにこの本で書いている「市場価値700万円」を一つの成功として目指すことなんです。
もちろん、人によって満足できる年収は違うのですが、一般的に市場価値ベースで700万円くらい得られるような人って「歩兵」ではないです。専門スキルもあるし、マネジメントもある程度できる。そして知識や経験を再現性のある形でアウトプットすることもできる。ここまでいったら、あとはもう自分のやりたいことや幸福を追求していけばいい。
それ以上を目指したい人は目指してもいいのですが、700万円から先ってそんなに幸福度は変わらないのではないかと思います。お金を得た代償としてプレッシャーがきつかったり責任が重かったり、大変なことも多くなってくるので。
そして、ここが大事なのですが、最初に「成功」を目指すべきです。「やりたいこと」を先にやって、30歳を超えてから、さあこれからできることを増やして年収を上げていこうといってもなかなか難しい。
――最後になりますが、読者となる方々にメッセージやアドバイスをお願いいたします。
末永:キャリアについての本なのですが、キャリアはあくまで幸せな人生を送るための手段であって目的ではありません。だからこそ、幸せに生きるためにうまく活用して、使い倒した方がいい。今回の本がそのための助けになればうれしいですね。
(新刊JP編集部)
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