2019年も残すところ1ヶ月。そろそろ年末年始に向けて準備を始めようと考えている人は多いだろう。
年末年始には、日本の伝統的な風習が見られることが多い。おせちや雑煮といった料理を食べ、家の中に鏡餅をお供えし、1月11日は鏡開きを行う。家の外でお正月らしさを感じるものといえば、軒先に飾られる門松やしめ飾りだ。
都市部の住宅街で門松を見かけることは少ないが、しめ飾りを玄関上やドアに飾っている家はマンションなどでも見受けられる。しめ飾りには多様な造形があり、大きさも様々。そもそもなぜしめ飾りが飾られることになったのか?
そんなしめ飾りの歴史と技法を知ることができるなんともマニアックな一冊が『しめ飾り 造形とその技法』(ことほき、鈴木安一郎、安藤健浩著、誠文堂新光社刊)である。
まずはその歴史を簡単に説明しよう。
しめ飾りは、新たな1年の実りと幸をもたらす年神様を迎え入れるための飾りだ。今は家の玄関に飾られることが多いが、かつては居間や台所、納屋などにも飾られてきた。
その原型は神社の「しめ縄」で、内と外、浄と不浄といった対立する空間を分ける境界を示すものだった。歴史は古く、古事記の天照大御神の岩戸神話で原型を確認できるほか、万葉集の歌にも「標縄(しめなわ)」という言葉が出てくる。
お正月にしめ縄を用いはじめたのは、平安時代から中世にかけてという見解。ただ、装飾的な要素を備えた「しめ飾り」となると近世に入ってからのようだ。明治維新を経て近代に入ると、意匠を凝らしたしめ飾りが登場し、その多様化は第二次世界大戦後の高度経済成長期に大きく花開く。これは減反政策の影響が考えられ、食用の米作りを控える代わりに、しめ飾り用の稲を育て、しめ飾りを制作する農家が増え、時代も豪華なしめ飾りを求めるようになっていったという。
ただし、これらはあくまでも説の一つとして考えてほしい。しめ飾りはお正月が終わると焚きあげられてしまい、実物が残らないため、少ない記録を頼りに推測するしかないことから「歴史を断定的に語るのは難しい」と著者は述べている。
戦後になって多様化、豪華化を見せたと考えられる「しめ飾り」だが、その造形は実に奥深く、職人の素晴らしい技が細部に施されている。
本書の最大の特徴は、その制作過程や技法を知ることができることだ。
例えば「海老」。おせち料理などにも登場する海老はお正月と縁深い生き物だが、しめ飾りにおいても多様な海老の造形が存在する。本書にも3つの海老の造形が紹介されている。
1つめが「縦海老」
鳥取地方を中心によく見られる造形で、髭がピンと張った威勢のいい形がユニーク。シャープな形が特徴。
ちなみに、海老は縁起がいい食べものとされているが、その理由は「腰が曲がるまで元気に長生きしますように」という健康長寿、そして目玉が飛び出ていることから「目出たい」に通じるということ、さらに赤い色は魔除けとされていることから。
2つめは「海老」
こちらは横に長いタイプの海老。「大根じめ」と呼ばれる締め方を応用し、右側のねじれた部分は海老の髭を示しているとされる。また、房の部分は足にあたるといわれているそう。
3つめは「海老(大)」
最後に特大サイズの海老である。横向きの海老飾りの意匠は地方によってさまざまだが、これは伊勢地方で定番の「笑門」の木札をつけたお飾りと構造状はよく似ていることから、伊勢海老を模しているのかもしれないと著者。
他にも「杓子」「めがね」「鳥」「宝珠」など、ユニークで縁起の良いしめ飾りの作り方が本書には掲載されている。材料にワラが必要だが、ホームセンターやインターネットで入手できる。本書でしめ飾りの技巧の凄みを知り、自分で実際に作ってみたり、お正月に街先で見つけたときに誰かに教えてあげるということも可能だ。
しめ飾り作りの楽しさが伝わってくる本書。材料が揃うならば、次のお正月のしめ飾りを自分で作ってみる、なんてこともいいかもしれない。
(新刊JP編集部)
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