スクリーンには「地方創生」という大きな文字。だからといって、真面目なイベントと思ったら大間違いだ。良さも悪さもすべて含んだ地方の面白さや魅力について語り尽くす「『あなたに似た街』出版記念!【地方ネタの逆襲!】」が11月21日、東京・お台場のイベントハウス「東京カルチャーカルチャー」(ニフティ運営)にて開催された。
このイベントは、ラジオ番組「オードリーのオールナイトニッポン」放送作家などを務める作家・藤井青銅さんの『あなたに似た街』(小学館/刊)の出版を記念して開催されたもの。『あなたに似た街』は佐賀県をモチーフにしたとある地方で起こる物語が20篇収録された短編集だが、どんな地方にも共通する風景や問題が映し出されている。
第一部は藤井さん(山口県出身)、イベントのオーガナイザーとして関智さん(東京都大田区出身)、どきどきキャンプの佐藤満春さん(東京都町田市出身)、お笑いコンビ・ビックスモールン(ゴンさんは福岡県北九州市出身、チロさんは静岡県出身)の2人が登壇。「オードリーのオールナイトニッポン」ファンにとってはお馴染みの面々が並んだ。
では、そもそも「地方」とは何か? 藤井さんの定義によれば「東京以外はすべて地方」だという。しかし、「(この定義は)厳しくないか?」という声が上がるなど、納得いかない様子の登壇者たち。藤井さんは「地方の中にもエリートとノンキャリがいる」と大胆に持論を展開し、「地方の間にも格差がある」と大阪府や広島県、札幌や横浜、名古屋などの地名を挙げながら「エリート地方とノンキャリ地方」の違いを語った。
続いては「地方あるある」ネタを藤井さんが披露。
メディア編でまず飛び出てきたのが、「とんでもない時間に『なんでも鑑定団』を放送している(しかも高視聴率)」というネタ。『なんでも鑑定団』といえば東京では火曜日21時からが定番だが、地方では土日の昼から午後の放送が多いようだ。(そもそもテレビ東京の番組が映らない地域もある)。
「(テレビ番組の)実況ツイートが盛り上がっているのに放送されていない」という問題があることを藤井さんが指摘すると、『たりないふたり』(日本テレビ)の構成を担当していた佐藤さんは「あの番組は関東ローカルで、放送当時ツイートのハッシュタグで盛り上がっていたけれど、半年くらい遅れて地方で放送されて、またハッシュタグを見かけたことがあった」と自身の経験を語った。さらに、ビックスモールンの2人も、東北地方に営業した際に煽りで使っていた『関口宏の東京フレンドパークII』の「パジェロ!パジェロ!」という掛け声を誰も知らず、“鬼のように”すべってしまったというエピソードを披露。「地方によってできないパロディがある。それ以来、絶対(地方で何が放送されているか)調べていくようにしました」と反省した様子だった。
他にも日常生活ネタとして「イオンモールで必ず知り合いに会う」「デートで行く場所の選択肢が少ない」「大学名より高校名を聞かれる」「全国区のようで、意外にそうじゃないチェーン店がある」「野菜と魚が安くてうまいのは事実」などなど、さまざま「あるある」が飛び出し、客席からも笑いが巻き起こっていた。
ビックスモールンのネタ見せ(「ボディアート」という2人の体を使った形態模写)を挟んでスタートした第2部では、藤井さん、関さん、佐藤さんに加えて『あなたに似た街』の担当編集者である村井康司さんが登壇し、これまで藤井さんが出版してきた本を振り返った。
たくさんの著作がある藤井さんだが、もともとは徳間書店から出版されている『アニメージュ』で、ライトノベルの先駆けのような小説を書いていたという。
最初に執筆した『死人にシナチク』シリーズ(徳間書店/刊)は、イラストをあさりよしとおさんが担当。青銅さんは「文庫化するときに頭にリードのマンガを入れて下さいと注文した」と述べ、「マンガを読みながら小説に入っていく構成にしたかった」という斬新な試みをしていたようだ。
また、藤井さんが1994年に出版したショートショート集『笑う20世紀』(実業之日本社/刊)は、ラジオ番組とコラボレーション。「本は売れなかったけれど、派生したラジオドラマがヒットした」という。
本から派生して大きな広がりを見せたケースといえば、2014年の『ゆるパイ図鑑 愛すべきご当地パイたち』(扶桑社/刊)だろう。渋谷ヒカリエでのイベントには1万人を動員し、一般社団法人「日本パイ倶楽部」設立の一つのきっかけにもなった。
そして、『あなたに似た街』も地方をフォーカスする形で出版され、モチーフとなった佐賀県とのコラボレーションイベントなど、広がりを見せている。まさに「出版」を超えた一大プロジェクトが進行しているような雰囲気さえ感じる。
イベント終了後にはサイン会も開催され、ファンの人たちとの交流を楽しんでいた。藤井さんの紡ぎ出した地方の物語は、今後どのような展開を見せるのか、注目だ。
(レポート:カナイモトキ/新刊JP編集部)
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