『ニューヨーク・タイムズ』の編集者、デーナ・ジェニングスは前立腺癌を患い手術を受けるが、癌は早期ではなかったことが判明。放射線治療とホルモン治療をおこないながらの自宅での闘病生活のあいだに、愛犬ビジューが彼にとっていかに大切な存在かに気づかされると同時に、人生や愛や癒しについて多くを教えられることになった。
『小さな犬が教えてくれた人生と愛と癒しについての大きなレッスン』(デーナ・ジェニングス/著、橋本夕子/訳、彩雲出版/刊)は、それらをつづったブログをもとにまとめられたものである。
ただし、「深刻な病に直面した飼い主と、それを支えた犬」というステレオタイプにあてはめて物語を期待すると、少々肩すかしを食うかもしれない。本書は、いわゆる患者を癒すセラピードッグの物語ではない。また『ハチ公物語』や『南極物語』のような一途な献身や自己犠牲、あるいは『名犬ラッシー』のような際立った賢さが感動を生むといった仕立てになっているわけでもない。
ジェニングスの愛犬ビジューは12歳になるメスの老犬で、体力の衰えは隠せず、てんかんの持病を持つがゆえに彼女自身が毎日たくさんの薬を服用しなければならない身である。一日の大半を寝て過ごし、脚が弱ってきたせいで二階へ行くのも敬遠する日々。
だがビジューが「スーパードッグ」ではなく、むしろ弱い存在であることが、著者に人生や命について考えさせ、多くの真実を教えることになった。盲導犬は目の不自由な人の目の代わりをするが、ビジューは人生を見つめる手助けをしてくれたのである。
決して押しつけがましくなくて、さり気なく、しみじみと心に沁みる話が、随所にわたって紹介されている。動物映画などにありがちな「感動」を安売りしないところが、素直に読めて好感がもてるという評価もあるだろう。本当の感動とは、こういうものかもしれない。
ビジューがごく普通の犬であり、「奇跡の犬」でないところは、実は本書の一番の魅力でもある。犬を飼っている人ならば、読んでいるうちに自然と自分の愛犬と重ね合わせて微笑むだろうし、かつて飼った経験のある人なら、その犬のことを思い出し、もう一度飼ってみたいと思うにちがいない。
どの犬にも飼い主を幸せにしてくれる普遍的な価値があることに気づかせてくれる本といえるかもしれない。
犬好きの読者には、元気の出る一冊である。
(新刊JP編集部)
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