今日「リストラ」という言葉はすっかり私たちの日常生活に溶け込んでいます。つい先日も3メガバンクの大規模な人員削減のニュースが世間を駆け巡りました。さて、皆さんは「リストラ」の具体的な意味や実情を知っていますか?漠然と企業の不採算部門の縮小による人員削減程度に捉えていませんでしょうか?一体「リストラ」とは、具体的にどのようなものなのでしょう。
「リストラ」という言葉は、英語のリストラクチュアリングを略した和製英語で、本来は「再構築」を意味しています。しかし日本を含む多くの国々では、90年代後半から、事業規模や従業員数を維持・増強した上での企業組織の再構築ではなく、もっぱら不採算部門や部署の縮小に伴う従業員削減(=整理解雇)を意味して「リストラ」という言葉を使うようになってきました。特に企業にとっては、本来の人員削減である「解雇」や「首切り」などという表現を避けて、「リストラ」と言い換えることににより、心理的な後ろめたさを回避・軽減させる効果があるとされ、いわば、婉曲語法の一種といえるでしょう。
そんなリストラですが、近年、要因や手法の多様化が進んでいるようです。まず、リストラの類型についてですが、私たちが普段想定している、不況や経営失敗などによる企業活動の再編、縮小は、発生要因が主として企業外に求められるため、「企業外在型」と呼ばれています。一方、積極的事業展開や合併などいわゆる「選択と集中」による企業活動の再編のためのリストラは「企業内在型」と呼ばれます。
その手法についても、様々なものがあり、もちろん、ルールに則ったものもありますが、「追い出し部屋」「ブラック企業」などという言葉に代表される、企業側が自らの権限を利用・濫用してのルール逸脱行為が問題となっている「企業濫用型」リストラと呼ばれるものも存在します。
濫用型の典型は、いわゆるハラスメントを用いることであり、例えば会社の方針に異を唱えた従業員を解雇したいが、合理的な理由が見つからなかったり、業績不振で退職勧奨したいが本人が承諾しないといった場合などに、会社ぐるみで仲間はずれにしたり、いじめ・嫌がらせなどのハラスメント行為を行って精神的に追いつめて自発的に退職に追い込むものです。
もし上記のような濫用型リストラの対象になったらどうすれば良いのでしょうか?また、逆に、企業でリストラを検討する必要が生じた際に、担当者はどのようなことに気をつければよいのでしょうか。
本書では、労働法のエキスパートである弁護士が、基礎知識から「会社・使用者側」「労働者側」双方の悩みに応える具体的な事例など、全96問のQ&Aで解説しています。本書を読んで、万が一の「リストラ」に備えてみてはいかがでしょうか。
第1章 はじめに
1 私たちの社会の雇用の現場は?
2 リストラの「日常化」とは
第2章 「リストラ」とはどのようなものか
1 「リストラ」とは
2 「リストラ」の経済的側面―「マーシャリアン・クロス」
3 「リストラ」の経済政策―「雇用流動化」論
4 日本型雇用システム
5 「新自由主義」時代の雇用システム
第3章 「リストラ」の現在
1 リストラの「日常化」の意味
2 リストラの諸類型
3 「従来型・企業外在型」リストラ
4 企業濫用型
5 企業内在型
6 リストラの「深化」
7 「合意」の調達
第4章 リストラに対する対処法(事例Q&A)【会社・使用者側】
・リストラのタイプ
・リストラと解雇法理
・人員削減の必要性
・解雇回避努力
・人選基準の合理性
・当事者との協議
・変更解約告知退職強要
・リストラと有期試用
・「PIP」型リストラ
・成果主義とリストラ
・限定正社員とリストラ
・「不更新条項」とリストラ
・派遣とリストラ
・「フリーランス」とリストラ
・親子会社とリストラ
・事業譲渡・会社分割とリストラ
・退職金規定の変更~不利益変更
・退職金規定の廃止若しくは個別決定
・退職年金の減額
・早期退職優遇制度の条件
第5章 リストラに対する対処法(事例Q&A)【労働者側】
・整理解雇の4要件(素)
・有期契約の整理解雇
・有期契約の更新派遣契約の中途解除
・有期試用
・就業規則による変更
・労働協約による変更
・転籍
・労組法の「労働者」
・複数労組と平等取扱
・任意退職・合意解約と解雇
・退職勧奨・強要
・リストラと「使用者」
・退職金規定の変更
・退職金前払制
・早期退職者優遇制度
・メンタル不全と労災補償
・解雇理由の開示
・改正高年法・雇用継続制度
第6章 「労働の尊厳」から「労働者の尊厳」へ
1 「労働の尊厳」の意識と限界
2 「労働者の尊厳」はなぜ必要か?