著者(34)は、3年前の2016年2月8日に急性骨髄性白血病と宣告された。
急きょ、勤務していた東京の会社を辞め、愛知県に帰郷しての闘病生活は200日に及んだ。絶望の中、その日からつけ始めたという日記が編集部に送られてきた。
「闘病記」というジャンルは、本を編む側からすると手強い印象がある。病と闘っている患者数は膨大である一方、他人の治療経過を読みたいと思う人は限られる。必然的に重いものが多く、まして死に至るような病では、なかなか明るいというわけにはいかない。
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ところがこの著者の場合は違った。根っから楽天的で、幼少のころより人を笑わせることに使命感があったようだ。
テーマが深刻がゆえの笑いもこみ上げてくる。
死を覚悟した日、身辺整理としての最初の行動は、大切に保存していたエロ動画の全削除だった。見舞いに来た実父が若い看護師にデレデレするさま、病室でWifiがつながらないストレス、医療用タイツの指先に施されたナゾなど、いわばどうでもいいことに、ことさらこだわってみせる。
「こんなに明るい闘病記を読んだのは初めてです。ぜひ出版させてほしい」
編集部から手紙を送って約1年半。著者は、盆と正月を返上して、膨大な原稿を3分の1に削り込み、2019年7月、本書は全国の書店に並んだ。
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書籍名にある「30才 男 白血病」は、著者がインターネットで検索したときに使った単語3文字を並べたもの。裏表紙には、著者の希望で遺影用に撮っておいたという写真をあしらった。社会をナメた感じが、闘病記の域を超えた。
考えてみれば、不安で押しつぶされるより、こんなふうに明るく過ごすというのはアリなのだろう。
27歳の若さでこの世を去った女優の夏目雅子さん、38歳で亡くなった歌手の本田美奈子さん、闘病の末に復帰したハリウッドスターの渡辺謙さん、現在、闘病中の競泳女子のエース池江璃花子選手など、数々の有名人をも襲った「急性骨髄性白血病」とは、いったいどんな病気なのか。どんな治療を受けて寛解を目指すのか?
本書には、あくまで著者の目線で、検査や治療の手順、その様子なども詳しく書かれている。
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「5年後に生きている可能性が50%と言われて。それは「生きていない可能性」の話なんですかね」
「さすがにちょっと、生命線とか見てみたよねぇ、こんときは」
著者の言葉は、そのまま本書の帯文に採用した。
「僕はとても弱いです。自分の程度の低さのせいもありますが、病気になってしまったことの因果に勝てそうもありません。でもだからこそ、その弱さが人の役に立てるチカラになるんじゃないかなぁと思っています」
「日本の皆様、僕の日記でたくさん笑ってください」(あとがきより)
現在、著者は寛解を経て、経過観察中である。
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